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命を救う魔剣(三)

 ***ランス伯爵


 伯爵邸で私とマリウスを待ち構えていたのは、肌は土気色で唇は紫色に変色した意識不明のクリビアだった。


 部屋には私の代わりの医師と憔悴したアスター王子がいて、メイドたちは泣いている。


「パパ!」


 乳母にくっついていたラミアが私を見るとわんわん泣きながら抱き着いて来た。


「私がお庭でお茶しようって言わなければよかった! うわーん!」

「……大丈夫だ……」


 何が起こったのか、護衛、医師と執事、メイドに話を聞いた。

 護衛は遠くから見張っていたら、急にクリビアが倒れたので駆けつけると、肩に小さな矢が刺さっており、すぐに医師を呼んで応急処置を施してもらったと言う。

 医師に依るとその矢は毒矢で、現在薬師が毒の特定に務めているらしい。

 現在も矢が飛んできた方向をくまなく調査しているが、まだ痕跡は見つかっていないと報告された。


「血は絞り出したか!? 吸い出したか!?」

「はい! 解毒作用のある薬湯も慎重に胃に流し込みましたが、効果は見られておりません。毒を特定しない限り、これ以上は……」


 医師の話を聞きながらクリビアの口の中を調べた。

 出血はしていない。

 矢の刺さった個所を見ると、肩から背中にかけて肌が紫色に変色している。

 呼吸は浅く、今にも永遠の眠りにつきそうだ。

 ヘビ毒ではないと思うが万が一と言うこともあるため、刺さったところより心臓に近いところを包帯できつく縛った。

 だがもう遅いかもしれない……。全身を震えが走る。


 一体誰が! どうして!?

 前世で美砂を救えなかった記憶が呼び起こされた。

 また失うのか? 駄目だ、絶対に、もう二度と失いたくない!


「一週間も経っているのにまだ特定できないのか!」

「薬師によると、ヘビや蜘蛛の毒ではないということは分かりました」

「そうか……」

「ですが、植物の毒でしたら、今分かってない事を考えると特定にはもう少し時間がかかると思われます」


 医師がそう言った後、目を真っ赤にしたマリウスが俄かに呟いた。


「二回目だ」

「二回目?」

「トリス川でも襲われて殺されそうになったんだ」


 その場にいる一同が驚愕した。

 私も初めて聞いた。

 彼女を助けた時を思い出して、川に飛び込んだことを責めるような言い方をした事を後悔した。


「逃げるためだなんて思わなかったんだ……」


 クリビアの冷たい手をそっと包み込んでそう呟いた。

 よく考えると、私は彼女の身に起こったことをよく知らない。

 彼女も話そうとしないし。

 自分が不甲斐なくて仕方がない。


 アスター王子がマリウスに話しかけた。


「殺されそうになった理由に心当たりはあるのかい? 二度となると同じ人物の仕業としか思えないが」

「僕は盗賊だと思っていたから……」

「……そうか」


「あ!」


 突然思いついた。

 彼女がガルシアに行きたくないと言っていたのはそれと関係があるのかもしれない。


「マリウス、クリビアがガルシアに行きたくなかった理由は知っているか? 例えば神父とか神殿関係者も含めて嫌いな人がいるとか」

「んー、わからない」

「伯爵、それはどういうことだ?」

「一度目に襲われたあと、頑なにガルシアに行くのを拒んでおりましたので」

「うーむ……ガルシアで彼女と接点のある神殿関係者と言えば、私が知っている限りではネベラウ枢機卿とテネカウ神父だな。でも親睦パーティーでは仲良さそうにしていたが……」

「それだ! マリウス、ジュリアナが君に会いに来るときいつもネベラウ枢機卿と一緒だったって言っていたよな?」

「うん。枢機卿はヴァルコフ国王ととても仲が良かった」

「だからだ」


 だからガルシアに行きたくなかった。

 彼女は自分を襲ったのがヴァルコフ国王だと思ったんだ。

 ネベラウ枢機卿に見つかればヴァルコフ国王に知られる可能性があるから。

 ……いや、待てよ。

 殺すなら恩赦なんかするか?

 枢機卿や神父が暗殺などするはずないし。


 ヴァルコフ国王が怪しいとしてもクリビアを殺してなんの得があるのだろうか。


「伯爵。君はヴァルコフ国王が彼女を殺そうとしたと思っているのか?」

「いえ、まだはっきりとは……」


 この間にもクリビアは死に近づいていく。

 犯人がわかったとて彼女が死んでは意味が無い。


 そうしてなんの進展もないまま二日が過ぎた。




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