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ロータス(三)テネカウ神父との会話

 ***ロータス 


 テネカウ神父が俺を訪ねて来た。

 彼は結婚式の司式を執り行い、クリビアとの初夜の証人になってもらった司祭だ。


 ジュリアナは勤務先のアルマ医師とネベラウ枢機卿、護衛の宗教騎士団たちとバハルマ王国へ行って留守にしている。

 バハルマの王妃の容態が優れず、大陸で一番の名医と言われているアルマ医師が呼ばれたので彼女も看護師としてついて行くことになったのだ。

 ネベラウ枢機卿は神への特別な祈りを捧げるために行くのだという。


 ジュリアナに教えてもらって淹れることが出来るようになった紅茶をテネカウ神父に出すと、彼は小さな声で「お気遣いなく」と言った。

 それより顔を(しか)めながら何か言いたげにしている。

 まあ、何を言いたいのかだいたい察しが付く。


 彼は紅茶に口をつける前に少し怒りの混じった口調で話し始めた。


「単刀直入にお伺いします。ロータス様がこの国で暮らすことは何の問題もありませんが、何故あの看護師と一緒に暮らしているのでしょうか。クリビア王女殿下のことは諦めて彼女を妻になさったのですか?」


 ほらきた。思った通り。そんなわけないだろう。


「いいや」


 テネカウ神父は更に語気を強めて言った。


「遊びでしたらすぐにおやめください。これは神とクリビア王女殿下に対する明確な裏切り行為です」

「愛してるのはクリビアだけだ」

「遊びならジュリアナさんにも悪いと思いませんか。彼女はあなたに本気なのでは?」

「説教するために来たのなら帰ってくれ」

「したいところですが違います。だけど今は……私の選択は間違っていなかったと思っている所です」

「なんのことだ?」

「私はネベラウ枢機卿にあなたと王女殿下との初夜が済んだことをお伝えしておりません」

「そんなことか。どうでもいい。伝えろと言ったのはたまたま君がそこに来たからだ」

「このまま私が口を噤めばあの日の行為を無かったことにすることができて都合がいいということですか」

「馬鹿を言うな。俺たちの間に神の許しなどいらないということだ」

「しかし王族の初夜は必ず枢機卿が見守る中で行われなければいけません。あの時あなたは既に王族ではありませんでしたが、王女殿下は違う。枢機卿に伝わっていないということは、王女殿下の側から見ると初夜は完了していないということです。つまりあなたと王女殿下には法的な関係は何もない」

「……」

「あなたはただいたずらに彼女の体を傷つけただけなのです」

「彼女は俺の妻になる女性だ! 傷つけたと言う表現は適切じゃない!」


 テーブルをバンと叩くとテネカウ神父に出したティーカップの紅茶が散った。


「わかりました。なにもあなたのことを聖人君子とは思っておりません。ですが、こうも早く不貞を犯すとは……」


 神父の俺を見る軽蔑と呆れの混ざった目は、俺が自分に向けている目と同じだ。

 だからこそもう一人の自分の様で腹立たしい。

 言われなくてもわかっている。

 俺は神父から目を逸らした。


「ロータス様……欲望のまま過ごすと後悔することになりますよ。私だって、あなたが今も王太子であるならこんなことは言いません。カラスティアの王族は側室を何人も娶ることができるでしょう。ですが平民と貴族は側室を迎えることはできないのはあなたもご存知のはずです」


 いつまでも王族気分でいるなということか。

 ジュリアナに「悪いようにはしない」と言ったのは、側室を娶ることができる意識が心のどこかにあったからつい出てしまった言葉なんだと気付いた。


 もちろんクリビアと結婚していたのなら側室など迎えるつもりはさらさらない。

 もしその状態でジュリアナと出会ったとしても決してこの様な関係になることはないと自信を持って言える。

 今のこの異常な状態だからこそ、不貞を犯す結果になってしまったのだ。


 だがそれは醜い言い訳でしかない。


 テネカウ神父が紅茶に手を付けた。ソーサーには零れた紅茶が溜まっていた。


「ジュリアナさんと別れないのなら私はクリビア王女殿下が不憫でなりません。私は今日はクリビア王女殿下の事をお伝えに参りました」



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