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運命の出会い

 ***クリビア


 ここはどこ? 死んでしまったのかしら。


 周りは真っ白で、辺りを見回しても何もない。


 次第に目の前に遠い昔の見知った景色が映し出された。



 ――男は大きなダイヤモンドの指輪を大事そうに胸のポケットにしまうと、病院の自動ドアを出た。

 その時急患の知らせが入る。

 仕方なく病院に戻り、待ち合わせている相手に電話をかけたが繋がらなかったためメッセージだけ残した。


 彼は前世の恋人、蓮司。

 どうしてこんな場面が?


 蓮司は学生時代に水泳で鍛えた体が逞しい、爽やかなイケメンだった。

 ナースたちにもモテモテの医師だったが、彼は院内保育士の私、美砂に一目惚れして交際が始まった。


 前世の恋人の姿に懐かしく思っていると、救急車の中から女性が運びこまれて来たのが見えた。


 その血だらけの女性を見て蓮司は青ざめ固まっている。


 あれは私だ。

 蓮司の病院に運ばれたなんて!



 びっくりしていると場面が変わった。


 ――蓮司は部屋の中で指輪を握り締めながらボーッと座っていて、頬には無数の涙の跡がある。

 テーブルの上には美砂との思い出の詰まったアルバムが開かれており、その周りには空っぽのお酒の瓶がたくさん転がっている。


 そしてその場面は静かに消え、別の場面が現れた。


 ――やつれた顔の蓮司が美砂のお墓の前で花を供え、線香をあげている。


 この時、私の頭の中に彼の考えていることがはっきりと伝わってきた。


『美砂、来世では必ず一緒になろう。どんなに離れていても必ず見つけ出すよ』


 胸に痛みが走った。

 死んでしまってごめんなさい。



 次に現れたのは、離婚した前夫の恒太が蓮司と同じく美砂の墓前にいる場面だった。


 恒太とは大学時代から付き合っていて卒業して二年後に結婚したのだけれど、彼が起業した会社が軌道に乗って有名になると浮気をするようになったので離婚した。

 それにも拘わらず彼は復縁を迫っていて、美砂としてはとても困っていたのだ。


 恒太の考えが聞こえてきた。


『俺が悪かった。何もかも俺のせいだ……。生まれ変わったら一緒になろう。その時はもう二度と君を裏切らないから。許してくれ、美砂』



 二人が美砂を思う強い気持ちが黒い渦となって胸の中に押し寄せひしめき合う。


 苦しい! 息ができない! ああ、誰か助けて!



 #####


 見知らぬベッドの上で目を覚ました。


「はぁはぁ……今のは私が死んだ後の……」


 さっき見た場面は全て、美砂が死んだあと暫く彷徨っていた魂が蓮司や恒太の所へ引き寄せられて、そこで目にした場面だ。


 どうしてそんなことを思い出したのか。


 いやそんなことより、私は助かった……マリウスは?


「マリウス!」


 名前を呼んで慌ててベッドから起き上がろうとした時、ドアを開けて一人の男とマリウスが入って来た。

 よかった! マリウスも無事だった。ガルシア神よ、ありがとうございます!


「お姉ちゃん、よかった! 気が付いたんだね」

「マリウスごめんね、危険な目に遭わせてしまって」


 胸を撫で下ろすと安心の涙が浮かんできた。

 喜びに抱きしめ合っていると、扉の所に立っている男性が明るく軽快な声で話しかけてきた。


「気が付かれて安心しました。マリウス君はたくさんの水を飲んでいて、吐かせた後すぐ気が付いて元気になったんですよ。でもあなたは気を失ったままなかなか目覚めなくて心配しました」

「僕たちが川辺で倒れている所を見つけてこの宿まで抱えてきてくれたんだよ」

「そうだったんですか、助けて下さりありがとうございます。本当になんとお礼を言ったらいいか」


 黒髪で黒い瞳のこの男性は顎から頬にかけてびっしり髭を生やしていて、頼りがいがある良いおじさんというような感じだ。

 悪い人そうではない。


「はは。当然のことをしたまでです。私は医師ですからね。ランス・クライブと言います」

「まぁ。医師だったのですか。なんて幸運かしら」

「見て見て、荷物も無事だよ」


 トランクは少し離れた所に流されていたらしく、乾かすためと着替えを出すために開けたそうだ。

 疑っているわけではないけどアナスタシアから貰った宝石やお金は無くなっていなかった。


「勝手に開けてすみませんでした」

「いえ、いいんです。あの……ここは?」

「ここはカラスティアの宿屋ですよ。私が宿泊している部屋ですからお気になさらずに。ところで、気が付かれたばかりでこんなこと言うのもなんですが、あなたを以前診察したことがあると思うんです。私に覚えはありますか?」

「……いえ」

「何? おじさん、もう口説こうとしているの?」

「ち、違う! 馬鹿なこと言うな。あー、あなたはバハルマ王国のアナスタシア王女のご友人じゃありませんか? 人違いだったらすみません」

「あ、もしかして熱中症で倒れた時の?」

「熱中症……」


 そうだった、ここではそんな風には言わない。


「いえ、えーと、日射病で」

「そうです。ああ、やっぱりあなたでしたか。その時私が差し上げた塩飴がトランクの中に入っていたので、もしやあの時のと思ったのです」

「あの時はありがとうございました。塩飴も町の子どもたちに配るものだったと聞きました。それを分けて下さって、ご迷惑をおかけしたのではありませんか」

「いっぱいありますから大丈夫ですよ」

「マリウス、この方はとても素晴らしい医師なのよ。私たち、本当に運がよかったわね」

「うん!」

「はは。ほめ過ぎです。それよりあなたはもう少し食事を取って自分を大切になさった方がいいですね。あの時もそうでしたが痩せすぎです。今回は無謀にも川を渡ろうとしたと言うじゃありませんか。いったいどうして」

「それは……」


 私が返答に困っていたらランス医師は謝って来た。


「すみません。立ち入った事を聞いてしまいました」

「いえ……」

「今食事を持って来ますからゆっくり休んでいて下さい。大切な時期です、無理はしないように」

「大切な時期?」

「妊娠初期ですからね。脈診しましたら子どもは無事の様ですよ。本当に運がいいとしか言いようがない」



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