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親睦パーティー(三)

 ***クリビア


 私を呼ぶ優しい声にゾッとして振り向くと、ヴァルコフ国王が笑顔でこちらを見ていた。

 その横には女性たちに囲まれていたはずのロータスが。


「王妃殿下、陛下がお呼びですよ」


 早く行けと言わんばかりのネベラウ枢機卿に、「それでは」と軽く微笑んで足を進めた。

 後ろからは枢機卿もついてきている。

 泥濘ぬかるみのなかを歩いているように足が重い。

 平常心、平常心と思いながらゆっくり近づくと、ヴァルコフ国王が私の腰を掴んでグイッと自分の横に引き寄せた。


 生温かく無骨でガサガサする大きな掌が肩を撫で始める。

 その瞬間ロータスの瞳が鋭く暗く光ったのが分かった。

 私が分かったくらいだから、国王も気付いたかもしれない。


 腹にグッと力を込めて肩から意識を切り離し、私は満面の笑みを作った。


 はたから見ると仲の良い夫婦のスキンシップのように見えるだろう。

 国王も満足そうだ。


 ロータスが一歩前進して私の手を取って挨拶をした。

 銀髪は美しく艶めき、青い瞳は晴れ渡る青空のように澄んでいる。

 数年振りに会った彼は生気と自信に溢れていて、以前にも増して魅力的になっていた。


「お久し振りです。クリビア王妃殿下」

「お久し振りです。カラスティアの再興、お祝いを申し上げます」

「ありがとうございます」


 ヴァルコフ国王が私たちの様子を探る様に見ていると思うととても緊張する。

 軽い挨拶が終わるのを待って、国王は周りに聞こえる程の大きな声で話し始めた。


「君たちは婚約者同士だったではないか。そう固くならずに。まぁお互いが親の仇になってしまってはそうもいかんだろうが。しかしこんなことを言うのもなんだがこれでお互い様になったのだ。和解したらどうかね」


 国王は私とロータスの間に気持ちなど全く無く、不和であると周りに印象付けようとしている。

 この場にいるバハルマの貴族は私たちを下衆な興味の目で見ているのだろうから私はそれでいいけど、ロータスの表情は硬い。


 国王の言葉にどう返していいのか分からず困っていると、ロータスがそれに返答した。


「バハルマ国王、我が国と貴国の関係は王妃殿下の事とは関係なく末永く良好な関係が続くことを願っていますよ」

「ははは。そうか。私は戦争は好かない。シタールの二の舞は御免だ。共に繁栄していこうではないか。故カラスティア国王もそれを願っているだろう」

「私は自国を取り戻しただけです。戦争を仕掛けたという意識はないですね」


 私は二人の会話に下を向いた。

 胃が痛い。

 ここから立ち去りたいと思っていると、ネベラウ枢機卿が話題を変えてくれたので助かった。


「そういえばロータス国王陛下、我がガルシアを突然出られたので心配しました。どちらに行かれておられたのですか」

「ちょっと身を隠しながら点々としていたのですよ」

「これだけの美丈夫だ。すぐに見つかってしまいそうなのに」

「髪を染めていましたからね。猊下には大変お世話になったのに何も言わず出て行って申し訳ありませんでした」

「いやぁ。私は頼まれただけですから」


 そう、私が頼んだ。


「ヴァルコフ国王陛下がロータス王子を助けろと仰いまして」

「え!?」

「なんだって!? それはどういうことだ!?」


 私とロータスは同時に目を瞠った。

 予想外の話で若が分からない。

 ネベラウ枢機卿も、もう年なのだろうかと失礼ながら思ってしまった。

 だって、ヴァルコフ国王がどうして彼を助けろなんて言うの?


 ネベラウ枢機卿は伺うようにヴァルコフ国王の顔を見た。

 国王が許可するように大きく頭を縦に振ったあと、枢機卿は説明を始めた。


「カラスティアが襲撃されたことを知ったヴァルコフ国王陛下がロータス王子を不憫に思われたのです。それで彼だけでも救ってガルシアで匿って欲しいと。私も教会での惨劇を目の前で目撃して同じ気持ちでしたので承知したのです。それで、では宗教騎士団を動かすとしてもどうするか、牢を襲撃するのもまずいだろうと思って悩んでいた所、ちょうどクリビア王女殿下からも彼を助けてくれとお願いされまして。王女殿下の協力があってずっとやりやすくなったのは本当に運のいい事でした。ただ、バハルマも脱獄に絡んでいると知られたら、バハルマとシタールとの関係が悪くなりますからね。それは王女殿下にも内緒にしておったのです。今だから言えることですな」



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