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親睦パーティー(一)

 ***クリビア


 今回の親睦パーティーの参加者はそれぞれの王族、外交関係者、主催国であるバハルマ王国の高位貴族、そしてガルシア宗教国の枢機卿と司祭だ。


 会場には美しい意匠のランプがいたる所に置かれており、暗いところを探す方が難しいほど明るく照らしている。

 壁際には長テーブルに贅の限りを尽くした食事が置かれていて、メイドやボーイたちが忙しそうに歩き回っている。


 ヴァルコフ国王と二人でこの会場に入ると会場からワァという声が出た。

 国王の顔は満足げに微笑みを湛えている。


「なんて美しい」

「輝いておりますね」

「深紅のドレスがとてもよくお似合いだこと」


 賞賛する声はバハルマの貴族以外からのもの。

 バハルマの貴族は私が盗みを働いて没風宮に移されたと思っているから、彼らの私を見る目は冷たい。

 図々しくも国王の隣にいてなんてふてぶてしい女なんだとでも思っているんだろう。

 でも私だってできるなら出席したくなかった。


 緊張していると、母に似た聞き覚えのある声が飛び込んできた。


「クリビア、会いたかったわ! 見ないうちにこんな素敵な女性になって!」


 そう言って私に抱き着いたのは私に手紙をくれた叔母のダイアナだった。

 サントリナ国王の弟である夫のノースポール公爵が外交を担っているため、彼女も今回の調印式に同行したのだ。


「叔母様もいらしていたのですね。お会いできて嬉しいです」

「心配したのよ。シタールがあんなことになっちゃってあなたがどれほど心を痛めたかと思うと」

「こら、よさないか。カラスティア国王も来ているんだぞ。それになんだ、その口のきき方は。姪だからといって王妃殿下に失礼だろう」


 ダイアナの声はちょっと大きかったようだ。夫の公爵がダイアナを諌めた。


「あらごめんなさい」

「フフ、いいのですよ。叔母様、ご心配くださり有難うございます。私は大丈夫です。王女として生まれたからにはどんなことも覚悟はできているつもりですから」

「まぁ……」


 ダイアナは複雑な表情で私を見つめると、口元を扇で隠して耳打ちした。


「でもね、あの男爵家の親子はいい気味だわってほんとは思ってるの」


 彼女はいたずらっぽく私に笑顔を向けた。

 あの二人が私を苛めていたことを彼女は知らないはずだから、きっとダイアナは父の浮気を母から聞いていたのだろう。

 なんと返していいのか分からなくて愛想笑いしていると、薄紫色の髪をした背が高く色の白い華やかな男性がにこにこしながらこっちにやってきた。


 あの髪色は見覚えがある。

 確か、子どもの頃……。

 と思っていたら、ノースポール公爵が彼を紹介してくれた。

 そうだ、サントリナ王国のアスター王子だ。


 彼は私の手の甲を取って挨拶した。


「クリビア王妃殿下、お久し振りです。私のことを覚えておられますか」

「ええ! 覚えています」


 ダイアナの結婚式でサントリナに渡った時に私と母は王宮に泊まった。

 そこで国王夫妻からアスター王子を紹介されて、滞在している間彼と花摘みをしたり鳥を観察したりして遊んだのだ。

 気が合ってとても楽しかった。

 懐かしくて自然と笑みが零れる。

 すると彼は頭の後ろを掻きながら「美し過ぎて目がくらみそうです」と言った。


「くすくす。大袈裟ですよ」

「いいえ、私は初めてお会いした時から……いえ、なんでもありません。失礼しました」


 アスター王子は茶色い瞳を悲しげに伏せた。


「王子殿下もいい加減結婚するべきですぞ」

「叔父上もいい加減私に結婚をすすめるのは諦めて下さい」

「まあ、アスター王子は婚約者はいらっしゃらないのですか」

「そうなんですよ。全く困ったものです」


 そうは言ってもノースポール公爵の顔は笑っている。

 仲が良くて羨ましい。

 公爵はおおらかで優しそうだ。

 叔母は母と違って幸せな結婚をして本当に良かった。


 数年ぶりの社交で緊張していたけど、彼らのお陰でその緊張もだいぶ和らいだ。


 しばらくしてテネカウ神父が話しかけてくると、公爵は気を利かせたのか自分たちはカラスティア国王に挨拶に行くと言って離れて行った。

 公爵に半ば無理やり連れて行かれたダイアナは不服そうで、アスター王子もまだ私と話したかったようだけど。


「なんだかすみません、私が来たせいで。アスター王子がまだこちらを見ていますよ」

「久しぶりに会ったから懐かしいんでしょう」

「そうでしたか」

「あなたと直接お会いするのはこれで二回目になりますね」

「そうですね。いやはや、殿下がバハルマの王妃におなりになるなんて、本当に嬉しく思っております。こんな輝かしい未来が待っていたとは神の思し召し以外の何ものでもありませんね。幸せそうで何よりです」


 テネカウ神父は私が処女ではない事がばれずにヴァルコフ国王とうまくいったと思い込んでいるみたいだ。

 本当の事を言えるはずもなく、私は王妃らしく貼りつけた微笑みを返した。



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