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名ばかりの王妃

 ***クリビア


 カラスティア王国が再興した。

 シタール王国の領土も治めることとなった広大なカラスティア王国の国王の名はロータス。

 元王子の復讐劇に、カラスティアだけでなくシタールの国民も拍手を送ったそうだ。


 彼は両国の国民にまるで英雄かのごとく崇められ大人気らしいとアナスタシアが言っていた。

 美しい容姿と強さを併せ持った彼なのだからそうなるのも当然だ。


 そして彼女が言うにはダキアの正体がロータス率いる集団だとわかったヴァルコフ国王がカラスティア王国との平和条約を結ぶことを考えたらしい。


 それでバハルマ王国とカラスティア王国、さらに海を隔てたサントリナ王国も加わって、三国の平和友好条約調印式がバハルマ国内の教会で行われることとなった。


 式が終わってからはバハルマの王宮で親睦パーティーが開かれる。

 そこに私は王妃として出席しなければならない。



 #####


 倒れてから生活が改善されたという事はないが、三日前からメイドが持ってくる食事が明らかに変わった。

 三食とも王宮で出されているメニューと同じなのは、もうすぐ親睦パーティーがあるからそれまでに私を健康的な見た目にしておきたいという意図だろう。

 たった三日普通の食事をしただけで変わるのだろうか。


 急にこんな食事を出されても小さくなった胃はなかなか受け付けないのに、全て食べ終えないとメイドが出て行かないので必死で流し込む。

 これはこれで苦痛だ。



 パーティー当日の没風宮は朝から非常に慌ただしく、王宮からたくさんのメイドがやってきて私の支度に取り掛かった。


 久し振りに入るお風呂は気持ちいい。

 ただ長くお風呂に入っていなかったので入浴にも時間がかかり、出る頃には私もメイドたちもくたくただった。


 ドレスとアクセサリーも新調された。

 深紅のオフショルダーのドレスはスカート部分がバラの花びらのようになっていて、それぞれ違う生地が幾重にも重なっている。

 ヴァルコフ国王は赤い瞳をしているので、それに合わせた様にアクセサリーもルビーで統一されている。


 こんな立派なドレスを着せられても心は全く晴れない。

 このパーティーが終わるとまたあの生活に戻るのだから空しいだけ。

 鏡に映る私の顔が浮いている。



 それよりも彼とこんな風に再会することになるなんて。

 もし会話することがあったら何と言おう。

「あなたがダキアのリーダーだったなんてびっくりしました。国を取り戻しておめでとう」とでも言えばいいか。


 未だに彼は独り身だと聞くし、女性とは別れたのだろうか。

 彼も私に会うのは気まずいのではないかと思うと段々落ち着かなくなってきた。

 できれば会話せずに済むに越したことはない。



 パーティー会場に入場するまで国王一家は一旦控室で待つということで、移動することになった。

 私もこのときだけはその中に数えられるらしい。

 既にアナスタシアもいたのが救いだ。


 国王は控室に入った私を見て一瞬ニヤッとしたかと思うと、すぐに厳めしい顔に変わった。


「お前は我がバハルマの王妃であるという事を忘れるな」

「はい」


 都合がいい時だけ王妃扱いされる名ばかりの王妃。今日はその役目を果たさなくてはならない。


 アナスタシアが私の手を取って「王妃様、とってもお美しくて素敵です!」と褒めてくれたらカリアス王子が口を挟んだ。


「容姿だけは最上級だと認めましょう。ですが貞淑な女性と言えなければそんなのなんの役にも立ちません」

 それに続けてバーバラが「泥棒の癖に」と憎々しげに罵った。


「黙れ!」


 怒鳴り声に部屋の中がしーんとなる。

 バーバラを叱責したのは国王だ。

 まさかバーバラに怒鳴るなんてびっくりした。


 母親のバーベナが目を丸くして抗議した。


「陛下、バーバラを叱るなんてあんまりじゃありません?」


 国王はバーベナを無視してバーバラの顔を睨みつけて更に言った。


「蒸し返すなら正式に調査してもいいんだぞ」

「! ご、ごめんなさい……」

「まぁ、どうしてそんな脅すような言い方をなさるのです? バーバラは何も悪くないのに」


 私も疑問だ。どうして国王は脅したんだろう。

 バーバラの仕業だと分かっていなければ調査を盾に彼女を黙らせることはできない……。


 ある考えが閃いて、思わず国王の顔を見上げた。

 彼は私が無実だと知っていたのだ。


 私のこれまでの考えはあまりにも真っ直ぐ過ぎた。

 調査をしてくれなかったのは、国王にとって真実なんかどうでもよくて、処女ではなかった私への仕返しだとこれまではそう思っていた。


 そういう心境にさせた私の方に非があるから諦めもついていたのだ。


 しかし、無実と分かっていたのに汚名を着せたのだったら納得がいかない。

 途轍もない屈辱に涙を呑んで耐えていたというのに。

 許せない。


 でもこの感情の持って行き場はない。

 圧倒的な権力の前ではどうすることもできず、私はただ泣き寝入りするしかないのだ。



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