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ネックレス紛失(二)

 ***アナスタシア


 王妃様の部屋からネックレスが見つかった話はあっという間に王宮内に広まり、もともと卑怯な国の王女と陰口を叩かれていた上に、増々評判を下げることとなった。


 おまけに王妃様からの詳しい調査の要求を父がはねつけたせいで、メイドたちはあからさまに無礼な態度をとるようになった。



 一人で何度も往復して荷物を没風宮に移動させる王妃様が哀れで見ていられない。

 ドレスなどは重くて大変なのに、汗をかきながら文句の一つも言わずに黙々と運んでいる。


 メイドたちはすれ違うたびにお互いなくなったものはないか聞こえよがしにコソコソと確認し合う。

 なんて嫌みったらしく意地悪なんだろうか。

 私が彼女の立場だったらきっとプライドは粉々で精神がおかしくなっていることだろう。

 それなのに王妃様は毅然としていて本当に尊敬する。


 移動のお手伝いをすると言ったら断られたので私は側にいることしかできないけど、実は内緒であることを進めていた。


 没風宮送りが決まってすぐに、私は埃まみれで蜘蛛の巣が張っている没風宮を私の専属のメイドたちに命じて掃除をさせ、壊れている場所は修理し、リネン類も全て新調させたのだ。


 言うと断られるだろうと思って言わなかったのは正解だった。

 小さなお手伝いさえ断るんだもの。

 没風宮に着いたらきっと一人で掃除をしていたに違いない。



 王妃様が自室から最後の荷物を持って出ると、目の前にバーバラがメイドを従えて立っていた。


「あー、やっと出て行ってくれるわ。ネックレスがなくなるどころか、寝首を掻かれて殺されるかもしれないと思うとおちおち寝てはいられなかったんだから。アナスタシアお姉様も後で今つけているアクセサリーがちゃんとあるかどうか確認した方がよろしくってよ」


 周りからクスクスと笑いが怒る。


 腹が立ってつい「黙りなさい、バーバラ!」と大声を出してしまった。


 王妃様を見ると、特に傷ついた様子はなかったので安心した。

 そうよね、こんな小娘に何を言われようとも平気よね。さすがだわ。


 それにひきかえバーバラは赤い目を丸くしている。

 私に今まで怒られたことがなかったからびっくりしているんだろう。

 悔し紛れに小さな声で「なによ、投獄されないだけでも感謝すべきでしょ」と言ってメイドを引き連れて去って行った。



 荷物を運び終えると、寝室になる部屋で王妃様はホッと大きく伸びをした。


「アナスタシア、一緒にいてくれてありがとう。なんだか悪いわね。でもとても心強かったわ」

「いいえ、なんの役にも立てていないのにそんなことを仰ってくださるなんて、恐縮です」

「何言ってるのよ。ここは幽霊屋敷と言われていたみたいだからどんな所かと思っていたけど、すぐに生活できるくらい小奇麗にしてくれて……」


 私がしたことだってバレている。

 王妃様はベッドの新しいシーツや綺麗なカーテンに手を添えてお礼を言ってくれた。


「本当にありがとう。恩に着るわ……」


 なんだか恥ずかしいけど、でも嬉しい。

 ただ今にも消え入りそうな弱弱しい微笑みに、心身ともに相当疲れただろうと想像する。



 気付いたらすっかり日が暮れていた。

 私はこの日、王妃様と一緒に夕食を取ることにした。




 夕食後、部屋に戻ってからカリアスがネックレスがなくなったことに首を突っ込んでこなかったのはどうしてだろうとふと考えた。

 バーバラとは仲が良いから余計に不自然だ。


 そんな時、机に置いてある読み終わったばかりの推理小説が目に入った。

 その小説の犯人はすぐに捕まったのだけど黒幕が別にいて、黒幕の男はずっと誰にも疑われることなく、最後の最後にやっと捕まったのだ。


 黒幕はカリアスで、バーバラを使って王妃様を陥れた……?

 そんな考えが頭を過る。


 別に感化されたわけではない。

 でも大いにあり得ることではないか。

 そもそもあの単純馬鹿で考えなしのお子ちゃまであるバーバラが私の母から貰ったネックレスを使って王妃様を陥れることを考え付くだろうか。


 その点、カリアスなら考え付きそうだ。

 動機はもちろん王位継承問題しかない。


 いくら初夜の儀式が終わっておらず父と王妃様の間に何もないとしても、今後のことは誰にも分からない。


 通常はしない処女検査をしたのももしかしたら彼が側近を唆したからなのかもしれない。


 考えれば考えるほど怪しい。

 今もバーバラの影でほくそ笑んでいるのかもしれないと思うと、血の繋がっている兄妹とはいえ虫唾が走った。



次回はロータスが魔鉱石の洞窟に入ってからのお話です

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