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運命の結婚式

「***」は誰sideの視点かを表しています

 ***ロータス


 静かで厳かな大聖堂で、今まさに愛するクリビアとの結婚式が行われている。

 子どもの頃に婚約し互いに愛し合っている俺たちはようやくこの日を迎えることができた。


「カラスティア王国王太子、ロータス・ネフェルトゥ・ド・カラスティアは、クリビア・ナイジェル・ド・シタールを命のある限り愛するとここに誓う」

「シタール王国王女クリビア・ナイジェル・ド・シタールは、ロータス・ネフェルトゥ・ド・カラスティアを――」


 しかし彼女の宣誓の途中、大聖堂の外から剣の音と異様な喚き声が聞こえてきて式が一旦止まり、会場がざわついた。


 何事かと振り返ると入口の扉がゆっくりと開き血だらけでフラフラのカラスティア兵が一人入って来た。


 他国が攻め込んできたのか! と警戒するや否や、数多の兵がその兵を踏みつぶして押し入ってきた。


 パニックになった列席者は逃げ惑うもみるみる兵の手に落ち、会場は花々の香りと血の臭いが混ざり合った阿鼻叫喚の場となる。


 この場は突き当りで逃げ場は無い。


「クリビア、後ろに隠れていろ」

「ロータス様……!」


 身を挺してでも彼女を守らねば。

 カラスティア兵は大聖堂の外に転がっているのだろう。

 いったいどこの国が、と考えながら武器になりそうなものを目を皿のようにして探した。


 兵がどんどん迫って来る。

 その時最前列に座っていたシタール国王が叫んだ。


「カラスティア国王夫妻とロータス王子を捕らえろ!」


 耳を疑った。

 シタール国王は不敵な笑みを浮かべている。

 くそっ、やられた!


「ど、どういうこと!? お父様!」

「いいか、ロータス王子は殺すんじゃない、生きて捕らえるのだ!」

「はっ!」

「お父様!」


 そのあと頭を鈍器で殴られたような痛みが走り、俺は気を失った。




 #####


 大聖堂を襲撃したのは新婦の国シタール王国軍。

 参列していた俺の両親、カラスティア国王夫妻はその日のうちに処刑された。

 俺だけ一人生かされたのは、カラスティアで最近見つかった、魔鉱石が採れる鉱山の場所を俺だけが知っているからだ。



 冷たい石壁の牢の小さな窓から見える夜空に星が流れた。

 昨日と同じであって同じではない夜空。

 数多の星の輝きは、間抜けなカラスティアを嘲笑っているようだ。


 結婚による同盟を反故にしてカラスティアを侵略したシタールの国王。

 警護に見せかけて軍隊をカラスティアに入り込ませるのは容易だっただろう。

 腸が煮えくり返る。

 父上、母上、……クリビア……。



 牢屋棟の扉がギーッと開く音が聞こえ、松明の明りが揺れた。

 誰かが来る。

 一瞬緊張したが、近づいて来たのは兵士の乱暴な足音とは違う小さな足音だ。


 それは鉄格子の前で止まり、黒いフードを深く被った人物が正面に立った。

 鼓動が速くなる。

 その名が今にも口から飛び出しそうなのを寸での所で我慢して様子を窺う。

 だが、間違いない。


 マントの中から白く細い手が出てフードを外すと、ゆるく波打つ美しい金髪でピンクの瞳の女性が顔を出した。


「クリビア!」


 鉄格子から手を伸ばし、彼女の手を握り締めた。


「ごめんなさい。こんなことになるなんて……。なんて酷い……」


 彼女は瞳に涙を溜め、震える声で謝罪しながら俺の顔を撫でた。

 こんな姿にびっくりしただろう。

 顔は醜く腫れあがっているし服はボロボロで拷問で受けた血があちこち滲み出ているのだから。


 クリビアは握り締められている手を丁寧に解くと涙を拭い、看守が持っているはずの牢屋の鍵で重い鉄格子の扉を開けた。


「早く逃げてください。外で神父様とガルシア宗教騎士団が待っています。彼らがロータス様をガルシアまで連れて行ってくれます」

「君は……グルではなかったんだな……、やっぱり……」

「当然です!」


 嬉しくて心の中に涙が溢れた。

 シタール王国軍だと分かった時はほんの一瞬彼女に裏切られたと絶望しかけたが、そんなはずはないと自分に言い聞かせた。

 だからギリギリのところで正常な精神を保っていられたのだ。

 愛するクリビア。

 本当にそれだけで俺は救われる。彼女を強く抱きしめた。


「でもガルシア宗教国がなぜ俺を?」

「説明は後です。さあ、早く!」

「君も一緒に行くだろ?」

「……いいえ」

「なぜ!」

「宗教騎士団が連れて行くのはあなただけと言われました。命の危機に無い者を連れて行くことはできないのでしょう」

「なんだって。くそっ」


 それではここでクリビアとお別れかと思うと絶望が襲う。

 どうすればいい。


 彼女を素早く抱きかかえ、再び牢の中に入り粗末なベッドに寝かせた。

 不思議そうな顔をするクリビア。

 俺はこれから婚姻を完了させるつもりだ。


 最も簡易な結婚は契約書にサインして終わりだが、王族だけは結婚式を挙げた後、ガルシア宗教国の枢機卿が見守る中で初夜の儀式を行わなければならない。


 それができない代わりに既成事実を作って彼女に自分が誰のものなのかしっかりと刻み付けておくのだ。

 俺だけがガルシアに行ったとしても、それがいつか迎えに行く彼女との唯一の繋がりになるはず。


「俺はどうしても君と結婚したい。二人だけの初夜を完了させよう」

「何を言ってるの? 見つかる前に早くここから逃げないと!」

「俺は君を愛している。君もだろう?」

「愛しています。でも、今はいけません!」


 お互い愛し合っているのだからなんの問題もない。

 こんな場で初夜など彼女には悪いが今は緊急事態だ。


「クリビア!」

「!」




 棟の扉が開く音がした。

 足音が近づいてくる。


 俺たちは急いで服を整え寄り添った。


 来たのは途中まで結婚式を執り行った若い神父だ。


「ロータス様、クリビア様、早くしてください。皆待っているんですよ!」


 そこで閃いた。


「ちょうどいい。俺たちは今、初夜を終えた所だ。君が証人になって枢機卿に伝えろ」

「は? ……えっ、ええっ!?」



司祭=神父のことです

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