婚約者があんまりにも妹を溺愛してるので何かがプツンとキレた
「ごめん!今日も妹が熱出したからデート行けない!」
そう告げたのは婚約者である彼の使い魔。
これで連続十回目のデートのドタキャン。
さすがにそろそろキレていいよね。
「…使い魔ちゃん、いつもありがとうね。彼には『了解』とだけ伝えておいて」
使い魔ちゃんにご褒美の使い魔用フードを与えた後返した。
婚約者のことはもう知らん、勝手にせいと内心キレていたが使い魔ちゃんには罪はないので。
さて。
「デートの予定も潰れたし、ドタキャンのせいで散々貯まったデート費用と時間を有効活用しますかー」
キレた私は、行動に出た。
「セシルちゃん!お見舞いに来たよー」
「お義姉様?来てくださったの!?」
「え、リーシュわざわざ来てくれたのか?」
彼のことは無視。
「セシルちゃん、これ健康に良いらしい漢方と健康器具。使ってみて」
「わ、ありがとうお義姉様!」
「ちょっと待って、セシルは身体が弱いんだからいきなり健康器具なんて使ったら…」
「だまらっしゃい!」
私は彼に怒鳴った。
「そうやってアンタがいつまでも甘やかすから健康から遠ざかってるのよ!筋力が落ちる一方じゃないの!」
「で、でも」
「セシルちゃん、最近まともに陽の光も浴びてないでしょう。お庭を少し散歩しましょう?ここのお屋敷お庭も広いし良い運動になるわ」
「はい、お義姉様!私も外に出たかったんです!でもお兄様に止められてて…」
ギロッと彼を睨めば彼は視線を逸らした。
「さ、お散歩タイムよ」
「はい、お義姉様!」
「あとこれ、漢方と同じくらい味が悪いけど栄養満点の野菜ドリンク」
「お散歩して喉が渇いたら、頑張って飲みます!」
「よろしい!」
こうして私は婚約者の妹である彼女の健康のために、貯まったデート費用を全部使って健康食品や健康器具を買い漁り彼女に与えた。
陽の光を浴びるために、彼女と毎日散歩して一緒に健康器具でトレーニングをした。
最初は疲れやすかったかつ美味しくない健康食品に眉をキュッっとさせていた彼女だが、そのうち慣れてきて、一年が経つころには病弱だったのが嘘のように健康体になった。
「お義姉様、本当にありがとう!おかげで今では健康体よ!来年には婚約者に嫁ぐのだけど、相手も喜んでくれたわ!」
「それは良かった」
彼女は幸せそうに笑う。
本当に良かった。
一方で、我が婚約者は。
「…俺だけのセシルだったのに」
「やっぱりそんなゲスの思考でわざとセシルちゃんを甘やかしてたのね」
「うるさい!お前が余計なことをしなければセシルは嫁になんて行かなくて済んだのに!」
「セシルちゃんと婚約者の男性は元々ラブラブだもの。たとえ病弱でも嫁いでたわよ」
「うるさい!」
彼が私の頬を引っ叩いた。
「セドリック、貴方にはつくづくがっかりしたわ」
「お前…!」
「ということです、お義父様、お義母様」
「え…父上、母上?なんで、いつから…」
「さっきから聞いておったわ馬鹿者!」
お義父様がセドリックを張り倒す。
「いってぇ…」
「さっきのリーシュちゃんの痛みに比べれば安いもんでしょこの親不孝者!」
「父上…母上まで…」
「お前は勘当だ!この家から今すぐ出ていけ!手続きはこっちでしておくから安心しろ!」
「え、は?俺はこの家の後継で…」
お義父様は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「お前のようなゲスに爵位を譲れるか!家のことなら、お前の従兄のジルを養子に迎えるから安心しろ。彼は次男だから喜んでうちの養子に来てくれる。おまけに婚約者も決まっていないから、リーシュさんと再婚約できるしな。ということで私財だけ持って出ていけ!」
「そ、そんな…」
「お兄様…」
「セシル!セシルだけはお兄様の味方だよな…!」
「近寄らないで!」
セシルちゃんは叫んだ。
「そんな理由で私をベッドに縛りつけてたなんて気持ち悪い!最低!大っ嫌い!」
「そんな、セシル…!」
「ということで、アンタはもう誰にも求められてないわ。さっさと消えてよね」
私の言葉に、婚約者は目を真っ赤にして襲いかかってきたがお義父様が制圧してくれて呆気なく床に倒された。
お義父様がそのままの姿勢で私に謝る。
「すまなかった、リーシュさん。我々の子育てに問題があったのだ…」
「長男だからと甘やかしたのがいけなかったのね、本当にごめんなさい…」
「いえいえ、お義父様とお義母様は悪くありません。謝らないでください」
「お義姉様…私も、今まで本当にごめんなさい…」
「セシルちゃんも悪くないわ、謝らないで」
そして婚約者は屋敷から追い出された。
そして即行で縁切りの手続きが取られて、彼は戸籍から分籍された。
私との婚約も当然その場で破棄する手続きが取られた。
彼は二度と帰ってこられないだろう。
そして元婚約者とセシルちゃんの従兄である、私とも顔馴染みのジルが養子として引き取られた。
私と即再婚約の手続きもした。
ジルはお義父様ともお義母様とも、セシルちゃんとも上手くやっている様子。
そして私とは…。
「いやぁ、災難でしたね。リーシュ」
「あんな男と婚約していたのは黒歴史ね」
「ですがまあ、おかげで僕は次期伯爵の地位に就けたのでありがたいですけどね」
「私とも婚約できたしね」
「まさか初恋の人と婚約できるとは思ってもいませんでした」
彼は私に昔、告白してくれたことがある。
もちろん、叶わない恋だと知っていての自己満足のそれだったらしいが…。
「昔、告白してくれたの…立場上断るしかなかったけど、実は結構嬉しかったのよ」
「それは良かった」
「今も私のこと、好き?」
「君に振られた後、それなりに恋の経験は積みましたよ。けれどね、初恋の人はやはり特別です。君と婚約できた時には小躍りするほど嬉しかったのですよ」
「あら、嬉しい」
彼の手が優しく私の頬を撫でる。
「いつか君も、僕を愛してくれたら嬉しいのですが」
「あら…言ったでしょ?告白された時嬉しかったって」
「?…ええ、聞きました」
「私の初恋も貴方よ、ジル」
私の言葉に彼は目を丸くして、そして甘く微笑んだ。
「初恋は叶わないとよく聞きますが、お互い叶っちゃいましたね」
「そうね、幸せね」
「幸せですね」
彼はこれから爵位を継ぐための教育を受けなければならないし、大変な時期だ。
少しでもそんな彼を支えることが出来たら…今はそう思う。
セシルちゃんも今は幸せそうだ、セシルちゃんの婚約者もセシルちゃんをセドリックとは違う方向で溺愛しているから大丈夫そうだし。
お義父様とお義母様も、内心どうかはわからないがすっきりした表情でジルとセシルちゃんを大切にしているし。
そしてお義父様とお義母様とセシルちゃんとジルはみんなして私を大事にしてくれていて、今私は幸せだ。
これにて一件落着、大団円…だろうか。
小耳に挟んだ話だと、分籍されて私財だけを持って家を出たセドリックはその後醜聞を避けるため他国に移住したらしい。
そこで商売に失敗して、今は住み込みで働ける比較的待遇は良い鉱山で、日々商売の失敗で出来た借金を返しつつカツカツの生活を送っているとか。
彼にとっては良いお灸になるんじゃないだろうか、うん。
ともかく、私も今年婿はジルに代わったけれど予定通り伯爵家に嫁ぐ。
来年にはセシルちゃんも溺愛してくれる優しい婚約者に嫁ぐ。
幸せなイベントが目白押しだから、セドリックのことはすぐにでも忘れられそうだ。
幸せになることこそ最大の復讐だと、その言葉を胸に私はしっかりと幸せになってやろうと思う。
「ねえ、ジル」
「なんです、リーシュ」
「お互い、ずっとずっと愛し合って信頼しあって幸せになりましょうね」
「!…ええ、もちろん」
ぎゅっと抱きしめられて、幸せを感じる。
私はこれから先ずっと、この幸せを守っていこうと誓った。
婚約者だけが害悪だったお話。
ここまでクズだと逆に躊躇なく切れていいのかも。
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