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ジャングル・ファンブル・オペレーション ~俺はジャングルに全てを…~  作者: しゅう かいどう


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40.病室

 ストレッチャーが止まり、ベルトが外された。アニョウはマフィア達を刺激せぬ様にゆっくりと起き上がった。

「目隠しをとっても良いか?」

 念のために確認を取る。

「いいぞ。ゆっくりとだ。」

 言われるがまま、ゆっくりと目隠しを取る。眩しさに一瞬目がくらむ。

 徐々に明かりに順応し、周囲が見えてくる。

 白いタイル貼りの壁、白い塗装の天井、白いビニールが貼られた床。部屋は白で統一されていた。

 ストレッチャーに座ったまま、周囲を見渡す。四台のベッドと応接セット、洗面台がまず目に入る。

 さらに細かく見ていくと、洗面台の横には扉が二つ。あと、アニョウ達が入ってきたと思われるスライド式の扉が一枚。

 ベッドの周囲には、プライバシーを守るためのカーテンが一台一台についている。

 窓は一切ない。ここが何階なのかは分からない。

 ―ここは病院の病室か?それも四人部屋の大部屋か。俺達は病院に連れて来られたのか。-

 アニョウの感想通り、病室だった。ベッドの頭の部分には空気や酸素を送る装置が壁面に埋め込まれている。この様な装備はホテルや拘留施設にはない。

 普通の病室と違うのは、寝台部屋と入口の間に応接セットが置かれ、扉の付いた小部屋が二つあることだった。

「お前達は、しばらくここに留まってもらう。理由は検疫だ。お前達がマラリアなどの感染症に感染している可能性がある。しばらく検査に付き合ってもらう。健康体だと証明された後にボスとの会談予定を組む。それまでは、この部屋から出る自由は無い。また、こちらが求める検査には全て受けてもらう。

 それが、まず受け入れる第一条件だ。おかげでくそ暑いジャングルでこちらもマスクを着けさせられ、三日間の隔離だよ。面倒ごとを持ち込みやがって。

 まあ、仲間になれることを楽しみにしてるぜ。」

 マフィア達は、ティハとリトルをストレッチャーから応接セットのソファに移す。アニョウもストレッチャーを降り、ティハを抱えようとするも両足の筋肉が悲鳴を上げ、動きが遅れたのだ。

 マフィア達が口元を隠しているのは正体が見せたくなかった訳ではなかった。

 アニョウ達が感染しているかもしれない病気から身を守るためだったのだ。

 そして、マフィア達はストレッチャーを押し、病室から出ていった。

 すぐに扉からカチャリと金属音が聞こえた。

 ―ふむ、鍵をかけられたか。さて、ここがしばらくの住処か。どれどれ。-

 アニョウは、両足の傷ついた足を引きずりながら病室の捜索を始めた。


 時間をかけた捜索の結果、アニョウの両足からの出血が再開した。応急処置された包帯が赤く滲んだ。

 だが、その結果、監視カメラとマイクの位置は把握した。マイクはどの様にもできないが、カメラの死角は把握した。

 もっともベッドのカーテンを引けば、ベッドの上は死角になる。プライバシーに関して侵害するつもりは無い様だ。

 ―つまり、敵対するつもりは無い。状況観察とこちらの思惑がわかれば良いというレベルの監視か。

 では、普段通りにふるまうのが警戒心を抱かせないだろう。それが今後の待遇にプラスになるだろう。―

 他に病室の設備は、クローゼットがあった。中には数日分の着替えが用意されている。ジャージの上下に下着と肌着のセットだ。

 サイズはアニョウ達に合うようにMとLが用意されていた。多少の誤差は、目をつぶれというところだろうか。

 食器棚も用意され、中にはコップやコーヒー、紅茶等の嗜好品とお菓子が用意されていた。

 湯は用意されている電気ケトルで沸かす様だ。水は洗面台で汲むことになる。

 洗面台も大型の鏡がはめ込まれ、左右の戸棚には洗面器具と化粧品などが並べられている。

 アニョウは、鏡に映る自身をマジマジと覗き込む。全身泥まみれ、髪の毛は脂で固まってしまっている。

 顔色も血が足りぬのか、やや青い。目の下には大きな隈が出来ており、黒ずんでいる。

 無精ひげも生え、スラム街に居ついても違和感が無いだろう。

「これは酷いな。病気の心配をされても仕方がないか。」

 それだけ、ジャングルでの逃避行は過酷だったのだ。

 筋骨隆々であった身体も痩せ始めている。

 だが、目はギラギラとり付いている。生命力に溢れ、血走っている。

「生きる気力は充分か。これが無ければ、マフィアに見捨てられていたかもな。さて、隣にある扉は何かだが。」

 洗面台の隣の扉を開く。トイレだった。清潔な洋式トイレ。消耗品も完備されている。

 さらに隣の扉を開く。そこはシャワールームだった。手前が脱衣所になっており、ガラスに区切られた奥がシャワー室になっている。

 ここにもタオル、バスローブ、石鹸類が充実している。

「ここはホテルか病院なのかどちらなのだ。いや病院だな。一等級の病室なのだろう。

 個室の病室は、こういった装備が充実していると聞く。それの大部屋版と考えれば良いのだろう。

 ただ、外出の自由は無い。テレビもラジオも無く、外部の情報を知ることができない。それが大きく違うところか。」

 アニョウ達は、情報通信機器は一切持っていない。武装解除もし、今着ている汚れ、擦り切れた服だけが、私物だった。

 アニョウは応接間に戻る。ティハ達は、寝かせられた姿勢のまま、動いていなかった。車酔いが抜けていない様だった。

 ―一度、ベッドに連れていくか。いや、汚れたままベッドに寝かすのは、今後のことを考えると避けるべきか。何日ここに隔離されるか分からない。

 ここまで、着替えや嗜好品が用意されているということは、長期戦を覚悟した方が良いということだろう。

 ベッドを汚しても、きれいにしてくれる保証はない。

 ならば、ベッドは清潔さを保つべきだな。-

「二人とも調子はどうだ?動けそうか?」

 ティハは、顔を少し左右に動かす。

「む、り…。」

 リトルは何とか言葉を紡ぎ出す。

「そうか、俺はシャワーを浴びる。何かあれば、呼べ。いいな。」

 二人からの返事は無い。十数時間に及ぶドライブに堪えたのだろう。

 ちなみに時計も武装解除の折に外しており、今何時かは分からない。病室にも時計は無い。ただ、体内時間は夕暮れ時だと伝えている。もっともそれが正しいかどうか証明するすべはない。

 アニョウはシャワーを浴びる。こびり付いた脂を落とすのに二度三度とシャンプーをする。

 石鹸と熱い湯が両足の傷口を責める。だが、この熱い湯が生きているという実感を与えてくれる。

「無事、生き延びたか…。さて、ここからが第二の山場だな。ティハを守るために俺はどんな仕事でもしよう。それが女子供を殺す様なことになっても…。」


 アニョウがシャワーから出ると、二人は疲れ切っており、ソファの上で熟睡をしていた。

 結局、ティハ達が動けるようになるのに更に数時間を要した。この間に久しぶりのコーヒーを楽しむ。ジャングルで逃げ回っていた時にはできなかった贅沢だ。まず、香りを堪能し、口に含み独特の苦みを下の上で転がす。

 そして、ゆっくりと飲み込む。コーヒーを楽しんだ後、眠気がやってきた。カフェインの覚醒効果を越える倦怠感が全身を包んでいることを自覚する。

 ベッドに横たわるとアニョウは、すぐに眠りについた。久しぶりの深い眠りだ。

 三時間ほど熟睡し、目を覚ます。

 ようやくティハ達が動き出す。

「シャワーを浴びた方がいい。」

「分かった。」

 だが、互いが一人で上手く動けない。ということで、二人一緒にシャワールームに入り、補佐しあうことになった。

 さすがにアニョウが二人を補佐するのは、許されることではないだろう。

 二人がシャワーを浴びている間にアニョウは泥に汚れたソファを綺麗に掃除した。

 すると壁側に緑色のランプが灯る。

 よく見れば、そこには外から差し入れをしたり、内側から排出する為のボックスが用意されていた。

 アニョウは、慎重にボックスを開ける。中には三人分の食事が入っていた。

 簡素な食事だ。野菜スープとパンだけだ。おそらく、胃に負担がかからぬ様にという意図があるのだろう。

 スープからは湯気が上がる。

「そういえば、温かい物を食べるのは、いつぶりだろうか。」

 ジャングルの逃避行では、敵に発見されるの恐れ、火が使えなかった。

 綺麗にした応接セットに食事を並べ、二人を待つ。すぐに二人はお互いを支えつつ、シャワールームから出てきた。清潔な白いバスローブをまとい、ゆっくりと歩く。その歩みは、おぼつかない。

 アニョウは、二人の間に入り肩を貸す。二人の体重が傷ついた両足に重くのしかかる。せっかく巻き直した新しい包帯が赤く滲んでいく。

 バスローブの合わせ目から二人の白い下着が見える。

 胸の谷間の形から、二人とも平均値より大きいことが分かった。ちなみにティハの方が大きい。リトルは鍛錬でついた筋肉が押さえつけている様に見えた。

 だが、アニョウは顔色一つ変えることなく、二人をサポートし、ソファへと安全に座らせる。欲情は一切しない。客観的に判断しただけだった。

「うわ~、温かいスープだ。うれしいです。」

 リトルは、車酔いは抜けた様だが、まだ元気のない声で反応する。

 ティハは、一言。

「あとで。」

 こちらは、吐き疲れたのか、食欲がわかない様だ。

「ティハ、済まない。先に食べさせてもらうぞ。」

 アニョウの言葉にティハは頷く。

 アニョウはスープを慎重に一口、口に入れる。単純な塩野菜スープだが、汗で塩分が抜けた体に染み込んでいくのが良くわかる。

 毒や薬の混入も無い様だ。

 リトルも一口スープを入れただけで体が塩分に反応し、悶えている。そのせいでバスローブが捲れ、太ももまで丸見えになっているが、気にしていない様だ。

 ―ふむ、リトルは戦場慣れしているか。男女混合の着替えやシャワーに慣れているのだろう。それとも、俺が男として見られていないのだろうか。

 しかし、監視されているな。料理のタイミングが良すぎる。まあ、敵対行動をとることはない。問題は無い。いや、問題があった。今気づいた。―

「リトル。」

「何?」

「この部屋は監視されている。その姿もマフィア共に見られているぞ。」

「ふえ。」

 気の抜けた返事の後、自分がバスローブをはだけていることに気づき、慌てて合わせを正す。

「先生、最初に言って下さいな。」

 リトルの顔が少し赤い。

 ―羞恥心はあるのか。ならば、俺が男に見られていないということか。

 これからの軟禁生活。その方が楽か。―

 アニョウは、己を納得させると食事へ専念した。

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