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ジャングル・ファンブル・オペレーション ~俺はジャングルに全てを…~  作者: しゅう かいどう


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38/38

38.接触

 アニョウとティハは一本のワイヤーに命を託し、荒れ狂う大河の上を滑空する。

 スピードが出すぎ、かといって、ゆっくりとしているわけにはいかない。

 大河の上は目立つ。何もないところに人間二人が浮かんでいれば、遠くからでも発見されるであろう。

 だが、速度が上がると二人分の体重と加速化された荷重をアニョウの足が着地に耐えることはできないだろう。

 その速度加減が難しかった。アニョウ一人であれば、全速滑空して、着地の寸前に安全帯から滑車を切り離し、五点着地でもすれば良かった。

 だが、背中にいるティハにその様な芸当はできない。意識が通常であっても、五点着地など軍人やパラシュート降下をした人間しか経験は無いだろう。

 アニョウの視界が真っ白に染まる。

 ―くっ。ここでなるのか。待て。今は困る。待ってくれ。―

 アニョウの意識は白い波に呑まれた。


 アニョウは高さ十メートルの鉄塔の上にいた。

 野戦服に安全帯を着け、安全ベルトが鉄塔の先端に結ばれていた。

 アニョウは鉄塔の下を確認する。茶色い砂場が広がっていた。一応、着地の衝撃を和らげるためにフカフカに耕してあるようだ。

 しかし、十メートルの高さは死亡率が高すぎる。ここから飛び降りるのは自殺行為だ。

「では、三番。行け。」

「了解。三番降下します。」

 そういうと白人の同じ様な格好をした男がロープを握って降下を始めた。

 ―ただのロープ降下訓練だった様だ。脅かせるな。―

 次の瞬間、教官はロープのブレーキ装置を緩めた。

 ロープは意味を無くした。五メートル付近で自由落下に変わり、三番は通常の着地から五点着地への態勢をとる。

 即座に地面に衝突する。足裏から入り、膝のクッションを使い、やや側面に倒れる。ふくらはぎから太もも辺りで衝撃を一度受け流し、尻で大きく衝撃を分散させる。背中を丸めそのまま後転の要領で肩甲骨でさらに衝撃を発散させる。首と頭はへそを見る様にし、衝撃を受けない様にする。

 落下エネルギーを回転エネルギーへと変化させ、砂場を転がっていく。

 三番は回転が自然に止まるに任せる。そして、止まったところで立ち上がり、安全帯を外し、仲間の列へとしっかりとした足取りで並ぶ。

 どうやら、怪我はせず、安全に着地出来たようだった。


「次、四番。」

「四番、降下します。」

 アニョウは自然と答えていた。どうやらアニョウは四番らしい。

 身を鉄塔からはみ出させ、軽く宙へ飛ぶ。

 ゆっくりとロープ降下を始める。五メートルから落とされるのであれば、何とでもなる。そんな驕りを見せたのだろうか。

 急激に重力に吸い込まれる。教官がブレーキを解除したのだ。高さは九メートル。先程の三番の衝撃などの比ではない。

 アニョウは鉄塔に足を引っかける。踵に鉄骨がかかった衝撃でアニョウは頭を下にし背中を鉄骨へと強打する。だが、落下は止まっていない。手で鉄骨を掴む。体の質量は数倍に膨れ上がっており、手の力だけで止まる訳もなく、さらに縦に半回転を腹側が鉄塔へと向く。両足を鉄骨に挟み、スピードを殺す。

 だが、まだ速度は速い。五点着地でも衝撃を緩和しきれないだろう。

 アニョウは落下しつつ、鉄骨を力一杯蹴った。鉄塔から体が離れる。これで制動力を得る物は周囲にない。

 しかし、空に飛んだことにより、落下エネルギーは相殺され、宙に一時的に滞空する。落下エネルギーの加算はここからの計算になるはずだ。

 アニョウは着地点を確認する。少し、飛びすぎた様だ。砂場の端に近いポイントに着地することになる様だ。だが、これで地面まで五メートル。ようやく、三番と近い状況になった。あとは五点着地を成功させるだけだ。

 全身の力を抜き、足裏に地面の感触を感じる。すぐに背面へと倒れ、ふくらはぎ、腿へと衝撃を逃がす。尻をついたところで砂場は終わった。硬く引き締まった地面が待っている。尻に鈍痛が走り、背中が砂利にゴリゴリと削られる。肩甲骨に石が食い込み、アニョウの痛覚を大いに刺激する。

 背中全面の痛みに耐え、首と頭を内側へ丸める。ここは絶対に強打してはならぬ部分だ。手で覆い、しっかりと防護する。

 アニョウはボールの様に丸まり、硬く砂利交じりの地面を転がる。

 回転が止まり、大の字に手足を広げるが息が吸えない。衝撃で呼吸が上手くできない。四肢は砂利の手荒な歓迎を受け、皮膚が裂け、血が滲んでいる。

 アニョウは傷だらけの血まみれの両手で肋骨の下に指を差し込む。そして、横隔膜を無理やり持ち上げる。

 肺が圧縮され、息が強制的に吐き出される。指を抜くと横隔膜が元の位置に戻ろうとする。その力で肺も引っ張られ、息を吸い込む。

 ようやく、深呼吸ができた。アニョウは新鮮な空気が肺を満たすのを感じる。ようやく、通常の呼吸に戻る。だが、全身打撲の影響が色濃く残っていた。

 身体が起き上がることを拒否するのだ。大の字に寝ころんだまま、息を回復させるのが精一杯だった。

「四番。堂々と寝るとはいい度胸だ。」

 教官が近づき、顎の先端を蹴られた。アニョウの脳が大きく揺さぶられ、暗闇に落ちていった。


 アニョウが目を覚ますと対岸は目前だった。

 滑車のブレーキを強く握る。急制動がかかるが着地は早すぎる。両足をワイヤーに絡ませ、更にスピードを落とす。だが、ワイヤーはやすりと同様だった。

 アニョウのズボンを破り、皮膚を裂いていく。己の血がアニョウの顔面へと飛び散る。

「くそ、何のいたずらだ。こんな時に過去の幻想を見せやがって。畜生。」

 アニョウ達はワイヤーに従い、対岸のジャングルに突入する。ゴールは見えない。

 いや、壁だ。グレーの壁がそそり立っている。アニョウ達は壁に突入する。

 ―この速度でコンクリは死ぬな。ティハすまない。-

 アニョウは死を覚悟した。

 だが、ぶつかるとそれは柔らかかった。衝撃吸収用のマットだった。それを数枚、体当たりし、ようやくアニョウ達は止まった。

 どうやら、マフィア達はこちらが着地を失敗することが前提の様であった。


 ワイヤーからぶら下がるアニョウ達を五人の男が取り囲んでいた。全員、普段着姿に野球帽を目深にかぶり、口元を布切れで覆い顔を隠していた。

 昼間であればサングラスもしていただろうが、今は夜、目を隠すことはしていない。

 そして、アニョウ達が身動きが取れない原因が、五人がサブマシンガンの照準をつけていることだった。

 マフィアが装備しているサブマシンガンは珍しい物だった。人間工学に基づいて設計された有機的なフォルム。

 普通のサブマシンガンであれば、飛び出すはずのマガジンが無く、銃身にピタリと張り付いている。

 大きな板切れに二つの穴を開けたような形状。グリップは婉曲し、銃床と一体化している。引き金のガードも非常に分厚く婉曲し、こちらもグリップと接続している。

 構える姿は非常にコンパクトでジャングルや都市戦での狭い空間での戦闘に優れている。

 P90だった。装弾数五十発。命中精度、貫通性能きわめて高し。アニョウ達が使うAK-47の何世代も先を行くサブマシンガンだった。

 ―おいおい、マフィアが持つような武器じゃないぞ。どこの特殊部隊だ。これは、大きい組織に仮を作ったようだ。まずいな。借りを踏み倒すことは無理だな。―

 五丁のP90に狙われては、動きようがない。ワイヤーから体を外し、五体満足だったとしてもこれと正面向かって格闘戦を行う度胸は無い。

 銃身がないのだ。正確には本体に内蔵されており、銃床の中に発射装置が組み込まれ、本体の後ろから発射する。ゆえにそれなりの長さの銃身はあるのだが、露出している部分は数センチしかない。

 銃身を握って奪うことや、狙いを反らすようなことはできない。

 マフィアの動きを待つしかない。敵対行動はマイナスしかない。走って逃げることもズタズタに切り裂かれた足では無理がある。

 ここまで大げさのことをしての救助活動だ。殺されることは無いと信じる。

 ―しかし、たかがマフィアと舐めていた。リトルの行動がここまでの組織だと想像させなかった。マフィアに助けを頼んだのは早計だっただろうか。せめて、命の恩人であるティハだけは助けたい。―

 アニョウの苦難は、終わりそうになかった。

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