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ジャングル・ファンブル・オペレーション ~俺はジャングルに全てを…~  作者: しゅう かいどう


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36.接近

 日が沈み、建物は闇の中へと包まれた。

 目がすぐに暗闇へと順応し、周囲の状況は見える。しかし、さすがに遠くを見通すことはできない。

 日没から一時間経過した頃、雨足は弱くなり始めた。うるさく屋根の葉っぱを叩く水滴は弱くなり、特に気になる程ではなくなった。

 さらに十分が経過すると完全に雨は止んだ。

 雨音が途絶え、大河の波濤だけが響く。


 アニョウは敵を警戒しつつ、これからのことを考えていた。

 ―政府軍の包囲網は確実に狭まり、ジャングル全てを覆いつくすだろう。

 一番近い国境を渡る橋は、北に十キロほどの地点だ。ここには国境警備隊の駐屯地があり、その軍を抜いて橋を渡ることは俺一人であっても不可能に近いだろう。秘かに橋上まで出られたとしても、駐屯地から狙撃されるか、ハチの巣にされるかのどちらかだろう。

 では、大河を伝って南に行けばどうだろうか。

 南の橋は、ここから四十キロはある。つまり、政府軍の占領地域を抜け、更に橋を守る国境警備隊の駐屯地を抜けて橋を駆け抜ける。

 ふむ、こちらの方が無理筋だな。現実的ではない。

 では、いっその事、都会を目指すか。西側の政府軍を抜けなければならないが、橋を渡るよりは成功率は高そうだ。

 ジャングルでの敵との遭遇と国道の検問所がポイントだな。

 敵と遭遇すれば、俺は殺され、女二人は慰み者になるだろう。

 それに今のリトルにジャングルを横断する力は無いように見える。

 捨て時か。リトルには何の恩義も無い。国境越えに成功していたのならば、恩義も感じるが、失敗した今となっては、東に来たのは失敗策だった。

 雨季の大河は、漁村の舟では渡れない。勢いに流され、転覆することが目に見えている。

 無論、泳ぐことは死を意味する。水に混ざる大量の土砂と岩石が皮膚と筋肉を斬り、圧し潰し、勢い有る水の流れに下流へと流されつつ、命果てることだろう。

 国境警備隊が使用する軍用舟艇であれば、問題なく渡河できるだろうが、手に入れるには駐屯地に忍び込む必要がある。

 だが、船の操縦方法がわからない。これでは意味がないな。

 最初の選択を俺は間違えたのだろうか。リトルに、いやマフィアに頼らず、都会の人ごみに紛れてしまうのが正解だったのだろうか。

 いや、今更後悔しても始まらん。さて、この河を渡れば、王国入りだ。

 考えろ。考えろ。どうすれば、渡河することができる。その方法を考えろ。―


 アニョウは、様々な方法を考える。水の中に入る為、ボディアーマーの様な物を身にまとい、土砂と岩石に対応する。

 敵からロケット砲を鹵獲し、ロープを対岸に撃ち込み、大河の上空をロープで渡る。

 漁村の舟を二隻丸太で連結して双胴船にし、安定させて渡る。

 ―どれも駄目だな。河の勢いはそんな応急品で対応できるほど弱くない。試験するまでも無く、壊されるだろう。

 敵装備の鹵獲。これも都合よく適した武器を装備しているとは限らない。それにそんな重火器を持ち歩く部隊ならば、中隊規模以上だろう。

 それに挑むなど、自殺行為だ。―

 アニョウには、良い案が浮かばなかった。

 相談相手もいなかった。ティハは意識虚弱の状態が続いており、明晰な思考はできない。

 リトルに至っては、茫然自失で、この世界から解脱している。いつ正気に戻るかわからない。無理に意識を現世に引き戻したところで、正気に戻る保証は無い。ゆえに、アニョウ一人で考えねばならなかった。

 夜の闇は一層深くなり、カエルの鳴き声が五月蠅いくらいに響き渡る。長雨が続き、求愛活動ができなかったのだろう。

 一斉に鳴くカエルの声は、アニョウを苛立たせた。

 ―為すすべなく、政府軍に捉えられるのか。ならば、銃器は処分し、民間人のふりをした方が生き残る確率があるか。

 だが、あいつらは野獣だ。村々を蹂躙し、村人達を凌辱してきた。助かるとは思えん。

 全力で抵抗するのが、生き残る唯一の道だろうか。それとも、一か八か、河へ飛び込むか。-

 だが、アニョウの考える案はどれも成功率が無さそうであった。


 そんな時、大河の波がぶつかり合う音の狭間に聞き慣れない高周波の音を耳に拾った。

 ブーン、いや、ヒューンと呼称すべきだろうか。波音にかき消されそうであった高周波の音は、徐々に大きくなりアニョウ達の耳に届くようになった。

 音が大きくなるにつれ、高周波の音は風切り音であることがわかった。それも一つではない。複数だ。

 アニョウは警戒して、腰までしかない低い壁に身を隠す。ティハは最初から床に寝ており、リトルは壁にもたれかかり、外からは見えない。

 風切り音は河を越えてくるようだ。そちらの方から確実に迫ってくる。

 壁の隙間から目を凝らすが、何も見えない。

 だが、確実に対岸から何かが真っ直ぐ、迷うことなくこの建物を目指している。

 ―しまった。昼間に監視されていたのか。敵?味方?それとも第三勢力か。

 これは攻撃なのか。それとも偵察か。どう動く。時間がないぞ。動け、行動しろ。―

 アニョウの額に脂汗がにじむ。焦りが生じるが、最適解が見つからない。

 結局、動く前に音源は建物の上空を通り過ぎ、入り口側の空中に停止した。

 キュイーンという音が周囲に響く。徐々に高度を下げている様だ。

 アニョウはAK-47を構え、音源へ銃口を向ける。

 屋根の下に姿を現したのは、直径一メートルほどの薄い円盤だった。四方にプロペラが組み込まれ、高速回転をしている。

 色は闇夜に紛れる様に黒く塗られている。アニョウは安全装置を解除し、引き金に指をかける。

 正体は、軍用ドローンだ。フル装備の兵士一人を運べると言われているタイプだ。

 軍用ドローンの用途は多岐にわたる。偵察、暗殺、自爆、運送、爆撃などだ。今後は更に新たな用途が生み出されるだろう。

 唯一の弱点は音だ。高速回転するプロペラの風切り音が隠密性を無くしていた。

 アニョウは撃たれるかと覚悟をしていたが、銃口は見当たらない。三つのレンズがアニョウを冷たく見つめる。

 恐らく、通常カメラ、暗視カメラ、赤外線カメラ等の組み合わせだろう。

 確実にこちらの状況を何者かに捉えられた。

 だが、攻撃されることは無いという確信がアニョウにはあった。それは昼間に捕捉されていたにもかかわらず、攻撃されなかったからだ。

 夜間攻撃よりも昼間攻撃の方が迫撃砲やロケット砲の射撃修正が行いやすい。夜間の着弾観測より昼間の着弾観測が容易であり、敵、つまりアニョウ達の動向も把握しやすい。

 それにアニョウ達が反撃することはない。いや、できない。敵の位置が不明。規模も不明。装備も不明。

 手持ちのAK-47では数十メートルある大河を越えて、有効射は期待できない。手榴弾は当然、投擲しても川を越えることはない。

 敵がアニョウ達を観察していれば、反撃の手段を持ち合わせていないことを理解しているだろう。

 それなのに目立つドローンを堂々と低空で近づけ、目の前に滞空させる。

 アニョウがドローン攻撃を仕掛けるのであれば、高空から爆撃を実施し、急降下からの銃撃にて止めを刺す。

 これならば、ドローンの存在に気づかれず、攻撃作戦が可能だ。

 だが、目の前のドローンに敵意は感じない。いや、機械に敵意を感じるというのはおかしいかもしれない。

 だが、レンズの向こうでこちらを見つめる操縦者の意思は、機械だろうと生身だろうと伝わってくるものだ。

 何故かは、アニョウには説明できない。ただ、そう感じるとしか言えない。

 ドローンはこちらの観察を終えたのか、ゆっくりと高度を下げ、着陸する。

 プロペラが停止し、周囲に耳障りな高周波の音が消える。カエルたちは、警戒しているのか静かだ。


 アニョウは、中腰で反対の壁に走り寄る。そして隙間からドローンを観察する。

 武装は無く、運搬仕様のドローンであることが分かった。

 ドローンの中央部がコンテナになっており、切り離しができるタイプだった。

 ドローンはコンテナを切り離すと再びプロペラを回転させる。そして、離陸可能速度に達したのか、一気に空中へ舞い上がり、対岸へと飛び去って行った。

 恐らく自動帰還モードだろう。人間の操作とは違う最適解だけの安全マージンを考えない飛び方だった。

 残された五十センチ四方のコンテナが一つ地面に置かれている。

「コンテナを開けて爆発なんて、回りくどいことはしないよな。」

 思わず、声に出た。

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