第3話 吸血者たちの痕跡
玲司の決意は固まったものの、手元の情報はまだ断片的だった。叔父のデータは膨大だったが、変異因子αの存在以外には具体的な証拠は示されていない。そのため、玲司は街で囁かれる「吸血者」の噂に目を向けることにした。
週末の夜、玲司は調査のために都市部に向かっていた。SNSやニュースで話題になっている不可解な事件現場を訪れるためだ。最近、深夜に行方不明になる人が急増しているという話が絶えない。警察は事件の関連性を否定しているが、被害者の家族や近隣住民の間では「吸血者」の仕業ではないかと不安が広がっていた。
玲司が訪れたのは、行方不明者が最後に目撃されたという裏路地だった。暗い路地には張り詰めたような静寂が漂っている。電灯の明かりは不規則にちらつき、不気味さを際立たせていた。
歩き回りながら手がかりを探していると、どこか遠くで鈍い物音が聞こえた。玲司は足音を忍ばせて音のする方へ向かった。
物音の正体を追って小さな広場にたどり着くと、そこには人影があった。暗がりに立つ男と女。彼らの動きは不自然で、玲司が見ていることに気づかないまま互いに向き合っていた。
突然、男が女の腕を掴み、何かを囁いたようだった。その瞬間、男の顔が女の首筋に近づく。次の瞬間、玲司は何かが光るのを見た。月明かりに照らされたのは、男の鋭い牙だった。
「嘘だろ……。」
玲司はその場で息を呑んだ。男がゆっくりと牙を首筋に食い込ませる様子を目撃し、全身が硬直した。吸血行動が本当に現実として存在していることを目の当たりにした瞬間だった。
玲司はその場から逃げるべきか迷ったが、足が動かなかった。恐怖と好奇心が混ざり合い、思わず立ち尽くしてしまう。だがそのとき、男が急に振り返った。
男の瞳は冷たく青白く輝いており、玲司と目が合う。次の瞬間、男は女をその場に残して一瞬で消え去った。あまりにも素早い動きに玲司は目を疑った。
「今のは……。」
玲司は急いで女に駆け寄った。彼女は地面に倒れていたが、幸い意識はあるようだった。首筋には新しい傷跡があり、そこからわずかに血が滲んでいた。
「大丈夫ですか?!」
玲司の呼びかけに、女はかすかに目を開けた。だが、彼女の目もまた青白く光っていることに気づき、玲司の心臓は再び跳ね上がった。
「あなたも……吸血者なのか?」
女は弱々しく首を振った。震える声で、彼女は言った。
「私は違う……でも、感染したかもしれない……。」
玲司はその言葉に絶句した。吸血行動をする者たちが単なる噂ではなく、そしてその感染が広がっているという現実が目の前にあった。
玲司は女を安全な場所まで連れて行き、救急車を呼んだ。だが、その場を去る際、女の最後の一言が耳に残った。
「NeoSerumが……全ての始まり……。」
玲司は拳を握りしめた。叔父の警告が、そして自分が追い求める真実が、ますます濃い闇に覆われていると感じた。吸血者たちの謎、変異因子αの正体、そしてNeoSerumに隠された意図。それら全てが繋がり始めているように思えた。
玲司は決意を新たにした。
「絶対に、真実を突き止めてやる。」