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第15話「静かなる呼び声」

ナイト・ケアセンターの空気は、いつになく張り詰めていた。


午前の訓練中、紗世の様子に異変が現れた。


柚月が真っ先に気づいた。


「……あなた、今、誰かの“声”が聞こえてるんじゃない?」


紗世は苦しげに頭を押さえ、無言のまま首を振った。 だが、その目は何かを追っていた……この場にはいない、何かを。


「紗世!」


玲司が駆け寄ると、彼女の手は冷たく、微かに震えていた。


「……大丈夫……ただ、誰かに呼ばれた気がして……」


「誰に?」


「……わからない。でも、すごく近くて、懐かしい声」


その日の午後。 玲司は再び志摩のもとに呼び出された。


「……彼女に、接続の兆候が出始めている」


「接続?」


「“X-0”だよ。私たちが最初に接触した、完全安定型の特異個体。現在は冷凍保存状態にあるが、あれは“呼ぶ”んだ。稀にね、自分と同質の存在を」


志摩は、静かにファイルを差し出した。 そこには、かつての紗世のMRIデータと、X-0の脳波パターンが並べられていた。


玲司の手が止まる。


「……一致してる?」


「完全ではない。だが、“呼応”が始まっているのは確かだ。彼女がいまのまま成長すれば……いずれ、X-0の“鍵”になる可能性がある」


「……お前たちは、彼女を道具にする気か?」


「違う。我々は“共存”を目指している。ただ、そのためには……強い核が要る。共存とは、支配されずに立ち続けることだ。弱さでは、何も護れない」


夜。


紗世は再び夢を見る。


暗い水の中、漂うように“誰か”の気配が近づいてくる。


(だれ……?)


問いかけると、声が返ってきた。


『……オマエ ハ オレ』


冷たく、無機質で、それでいて深い哀しみを帯びた響きだった。


『タスケテ クレ……』


目を覚ますと、紗世は汗まみれでベッドに座り込んでいた。 隣には玲司の姿はなかった。


その頃……


玲司は、職員通路から地下の冷凍隔離区画へと忍び込んでいた。


カードキーを盗み、目指すのはただ一つの個体。


《個体コード:X-0》


白い霜の中で眠る、その姿を前に、玲司は息を呑んだ。


透明なカプセルの中……そこにいたのは、紗世と瓜二つの少女だった。


「……なんだ、これは……」


目を閉じているはずのその少女が――わずかに、口の端を動かした。


『……サヨ ヲ マモレ』


玲司は動けなかった。


それは幻か、記憶か、それとも……“本当の声”だったのか。


その瞬間、施設中のセンサーが異常波形を検出し、警報が鳴り響いた。


警備員たちが駆けつけるなか、志摩は一人、モニターを見つめていた。


「目覚めたか。やはり……彼女と“彼”は、双子のようなものだ」


月明かりの中、紗世はふらりと中庭へ出ていた。

夜風が冷たく頬を撫でる。その時、二階の渡り廊下の影から、白いものがふわりと舞い落ちる。


足元に落ちた一枚の紙。拾い上げた瞬間、紗世は息をのむ。


《……逃げろ。真実に呑まれる前に》


玲司の字――。

思わず見上げたが、そこにはもう誰もいなかった。

ただ、渡り廊下の手すりに残るわずかな揺れが、彼が確かにそこにいたことを物語っていた。


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