怨み
読んで戴けたら嬉しいです❗❗ヾ(≧∀≦*)ノ〃
この人に愛されていたい。
顔にコンプレックスを抱えていた門田久美は思いきって整形手術を受け、恋を成就する事ができた。
黙っているのはフェアでは無いと考えた久美は、茂樹に整形手術をしたことを告白した。
茂樹はキレイになる事は重要だと言った。
恋と言う病気は常に盲目的である。
茂樹が望むまま久美は整形手術を繰り返した。
こつこつ貯めていた貯金も使い果たし、闇金に手を出すまでになっても久美は茂樹に愛されていたいが為に整形手術を繰り返した。
それしか茂樹を繋ぎ留めておく自信が久美には無かったのだ。
だが手術をする度、顔は強張り表情に乏しくなって行く。
闇金の取り立ても厳しい物だった。
時にはチンピラがやって来て刃物をちらつかせ、身体を売れなどと言われた。
それでも久美にとって茂樹の興味を自分に向けておく以上に重要な事は無かった。
茂樹に言われて頬骨を削る手術をした。
手術後、ダウンタイム(手術後復帰するまでの時間)が終わるのを心待ちにしていた。
しかし一ヶ月経っても痛みは増すばかりで内出血や腫れが引く様子が見られない。
日に日に腫れが酷くなり手術していない処まで変形して行き、仕舞いには腫れ上がった場所が黒く壊死して来ていた。
担当医の瀬賀に訳を聞こうとするが、瀬賀は忙がしいと言うだけで逢ってさえくれない。
こんな事は初めてだった。
三ヶ月が過ぎても状況は悪化して行くばかりで、瀬賀も逢ってくれる事は無かった。
他の病院へ行きたくても、働く事もできなかったので生活費も底を尽き、闇金ではブラックリストに名前が載ってしまい、何処からも借りる事ができない。
仕方無く茂樹に相談しようと久し振りに電話すると見知らぬ女が出てシャワーを浴びてると言う。
それだけで充分だった。
茂樹は久美を捨てたのだ。
借金取りの男たちがやって来て、そんな顔じゃあ客も取れない、と家の中の物を洗いざらい回収して行った。
空っぽの部屋の中で久美は放心状態のまま時間に取り残され、窓ガラスに映る自分の顔を見て、初めて総てを失ったと把握した。
彼女の中にむくむくと負の感情が成長し始める。
喪失感と絶望を糧に恨みつらみが膨れ上がり、久美はこんな顔にした瀬賀と自分を捨てた茂樹、そしてその女を心の底から呪った。
茂樹がプレゼントしてくれたピンクのブラウスと白いスカートに着替え、スカーフを被って顔を隠し包丁をバッグに忍ばせ茂樹のアパートへ行った。
突然起こった非現実的な犯罪に二人は逃げ惑うが、人の命を終わらせるのは想像するよりもずっと簡単だった。
クローゼットを物色してコートを見付けるとそれを着て返り血を隠し、おあつらえ向きにマフラーを見付けたのでそれを顔に巻き付けてアパートを出、美容クリニックの地下駐車場で瀬賀が来るのを待った。
今か今かと瀬賀を待つ。
人を殺す時、殺す側の人間の精神状態は何かのゾーンに入っていて、正気と呼ばれる意識が全く別の状態に陥っている。
それはモラルや常識を超越した久美だけが理解できる倫理である。
瀬賀が姿を現すと久美の身体は無意識に動いて瀬賀の懐へと飛び込んで行く。
瀬賀は何が自分に起きたのか解らず、痛みに顔を歪ませた。
久美はマフラーを解いて顔を見せる。
そして食い込んだ包丁をより強く押し込んだ。
彼女の顔を間近に見た瀬賀は目を大きく見開き「ばけもの」と言ってその場に崩れ落ち絶命した。
久美にはもう生きる選択肢は残されていなかった。
三人もの人間を殺した久美は、そるが正しい事なのだと信じて疑わなかった。
彼女はエレベーターで最上階まで行き、階段で屋上へと上った。
決して消える事の無い深い恨みだけを胸に滾らせ、久美は舞うように屋上から身を投じた。
それは彼女にとって終わりの筈たった。
だがこの建物に纏わりつく怪奇な出来事はここから始まるのだ。
久美は死を繰り返す。
何人もの人々を道連れに屋上から何度も自殺を繰り返したのだった。
杜環が見た人のシャワーは総てここで死んで行った者たちだった。
このクリニックにかかって顔面崩壊し屋上から飛び降りたのはほんの数人だつた。
死にきれない無念の想いを強く抱えた彼女たちは訪れた人々を屋上へと誘い、再び屋上から供に堕ちる事で終わらせようとするのだが、既に死んでしまっている彼女たちは死ぬ事が叶わず、それを繰り返して行く内に犠牲者が増え、死にきれない怨念が吹き溜まりのようにこの廃屋に宿って行った。
日下部孝則と恵子はタクシーを降りると荷物を受け取った。
旅行は四泊五日の予定だったが一日繰り上げて、帰って来た。
朝、旅館で朝食を終えてゆったりしている処に電話が掛かって来た。
掛けて来たのは息子杜環の担任だった。
杜環はもう三日も学校を無断で休み、しかも全く連絡が取れないと言う。
何処かお調子者な処はあるが、杜環は基本的に真面目で親が留守だとしても三日も学校を休むような事は今までしたことは無かった。
玄関の鍵を開けドアを開くと腐敗臭が真っ先に鼻を衝き、恵子は思わず手で顔の下半分を覆った。
「杜環! 」
恵子を押し退け玄関に入ったが孝則は一点に視線を注いだまま動けなくなった。
恵子が孝則の視線の先を辿ると、そこには倒れた杜環の姿が在った。
普通に倒れているなら、親として直ぐにも近寄り抱き起こしただろう。
だが階段の下に倒れていた杜環の姿は異常だった。
頭半分が階段から堕ちたとしてもこれほど潰れるだろうかも思うほど頭半分がぐっしゃりと潰れ、しかも顔が杜環と判別できないほど腫れ上がり、何日も放置されていたように腐敗が進んでいた。
明らかに死んでいる息子を前にして、孝則も恵子は時を忘れじっとその光景を見詰める事しかできなかったのである。
fin
最後までお付き合い戴き有り難うございました。<(_ _*)>
お陰様でなんとか今日中に完結できました。
お蘭様、応援有り難うございました❗
とても励みになりました!(´ー`).。*・゜゜
またお逢いできる機会が在りましたら光栄です。
どちら様もお身体大切に。