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貌(かお)  作者: 楓 海
1/6

廃屋

 読んで戴けたら嬉しいです。ヽ( ̄▽ ̄)ノ

「あんまりくっつくなって、歩きずらいよ」


 日下部杜環(くさがべとわ)は押し殺した声で言った。


「だってさあ・・・・・」


 上屋裕太(かみやゆうた)は杜環の腕に自分の腕をがっちり絡み付かせ、落ち着き無くあちこち懐中電灯で照らしている。


 杜環と裕太は元美容クリニックだった廃屋の中を歩き回っていた。 


 この美容クリニック跡は耳障りな噂が絶えない、街でも有名な心霊スポットだ。


 いい加減な手術を患者に施して、顔面崩壊した患者が恨みを胸にこのビルの屋上から飛び降りて成仏できず廃屋を彷徨っていると言う。


 その漂う霊を一目見ようと連日の様に怖いもの好きが訪れていた。


 真夏のじっとりとした熱が肌に粘りつく夜。


 若さと暇をもて余した杜環と裕太は、ふと話題に上った元美容クリニック跡へ肝試しに行こうと話が纏まり今に至った。


 二十年ほど前に全盛期だった美容クリニックは街の北側にあった。


 近くには飲食店などが立ち並び賑わいを見せていたが、人口が減少し街の過疎化が進んで行った為、例の噂が相まって次第に衰えて行き、いつ廃業したのかさえ解らないまま建物は寂れて行った。


 廃屋の中は、かつて清潔に保たれていたカートや器具などが散乱し、埃に埋もれ、窓から射し込む月明かりに照らし出されていた。


 杜環は懐中電灯を照らしながら、慎重に歩みを進め、その後を裕太が付いて来ていた。


 何かを期待している訳ではない。

 

 明日学校でちょっとした話のネタになればいいくらいに思っていたので、できれば何も起こっては欲しく無かった。


 ひとが頻繁に訪れているせいで埃のカーテンやクモの巣に引っ掛かる事は無かったが床に散らばる瓦礫などを踏みしめる音が不気味に響いた。


 裕太が震える声で言った。


「なあ、そろそろ帰ろうぜ

 これ以上進んでも何も起こりそうも無いしさ」


 杜環も同意見だったが自分がビビっている事を裕太に悟られるのが嫌で反対の事を言った。


「ビビってんのかあ? 」


 裕太はそう言われて、この建物に入ってから続いている緊張感と恐怖心によるストレスに堪えきれず開き直って言った。


「ああ、ビビってるよ!

 だいたい俺はこんなとこ来たく無かったんだ

 お前が行くって言うから付き合っただけで・・・・・・」


 杜環は何かの気配に、急に後ろを振り返る。


「おい、今何か聞こえなかったか? 」


 裕太は弱々しい声で言った。


「こ、怖がらせようとしてそんな事言うな」


「違うって、本当に何か聞こえたんだ

 ・・・・・・ほら、また・・・・・・・・・・・」


 二人は暫く耳を澄ますが何も聞こえない。


 杜環は恐怖心をごまかすように手当たり次第、懐中電灯を照らす。


 白い何かが、通過する明かりに一瞬浮き上がった。


 明かりを戻すと確かに白い何かはあった。


 それが血塗れの女性のスカートだと認識するのに時間はいらなかった。


 杜環は明かりを上へとパーンさせる。


 血塗れの薄いピンク色のブラウス、そしてそれは見るのを憚られるような膨れ上がった顔だった。


 それを見た杜環と裕太は驚いて悲鳴を上げその場に尻餅をついた。


「カエシテ・・・・・・・」


 と言う声と供に女は一瞬で杜環と裕太の目の前に立ちはだかる。


「ワタシノカオ、カエシテ・・・・・・・・・・・」


 そよ顔は、腫れた瞼に目が落ち窪み、口唇が割れて肉が見えるほど膨れていた。


 膨れ上がった瞼の奥に覗く目は遺恨に満ち、見ているだけで全身の産毛が逆立つほどおぞましい様相を徹していた。


 杜環と裕太は叫び声を上げ、逃げ出そうと床に這いつくばるように立ち上がり走り出した。


 それから二人は何処をどう通ったのか記憶が残らないほど必死に走り回って、何とか廃屋から脱出した。


 廃屋から随分走ったが、二人は何かが追いかけて来るのではないかと恐怖に駆られ、走るのを止める事ができなかった。


 それでもさすがに息が上がって杜環はスピードを緩め後ろを振り返る。


 裕太が随分遠く後方を走っているのが見えた。


 杜環が立ち止まると裕太が少しして追い付いて来る。


 呼吸が乱れて話す事もままならない。


 二人は膝に手をついて呼吸が落ち着くのを待った。


 暫くして杜環が言った。


「あれ、何だと思う? 」


「俺に訊くなよ

 解る訳無いだろ」


 二人は今自分たちが走って来た道を振り返る。


 会話する事もできず、建物の隙間から覗くあの廃屋の欠片をただひたすらまんじりと見詰めた。


 暫くして杜環がボソリと言う。


「帰るか・・・・・・・」


 裕太は杜環の少し安堵したような表情を見て答える。


「そうだな・・・・・・・・・・」


 二人はえも言われぬ心地に戸惑いながら今来た道の反対方向へと歩き始めた。




 

 読んで戴き有り難うございます❗*。・+(人*´∀`)+・。*


 統合失調症を患っている私ですが、夏になるとかなり活動的に動くことができるんです。

 だから冬の間できない事を夏にやるので、死ぬほど夏は忙しいです。

 そんな忙しい間を縫って頑張って書きました。

 約10000文字、全6話。

 今日から宜しくお願い致します。<(_ _*)>

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― 新着の感想 ―
[一言] 私は霊感が無いので、廃墟には近付くこともありませんが、今年の冬の夜に人が歩く気配を感じて振り向いたところ、50mくらい離れた所を光に包まれた人が歩いていて、何も遮るものがない場所でボーっと消…
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