仲間にしてくれと頼まれたって以下略
思いついたっきり仕舞い込んでいた作品
勿体無いので読んでいただければ嬉しいです。
ふわっとしたありがちファンタジーとありがちメンバーによる追放劇の顛末
「お前、自分の立場がわかってんのか」
寂れた酒場の一角で起こった騒ぎに視線を向けた者は少なくなかったが、面倒ごとはごめんだとばかりにすぐさま逸らされる。
剣士が一人に魔道士と、それから治癒師にあと一人は斥候役だろうか。男と女が二人ずつ、パーティーバランス的には問題なさそうであるが、ならばパーティーリーダーらしい男が突き飛ばしたのは何者だろうか。机の影に隠れて見えないが、これはもしや時々起こるという追放劇だろうかと居合わせた人々の好奇心はくすぐられたが、しかし触らぬ神に祟りなしと関わるつもりはなさそうだ。
「そ、そんなこと、言わないでくれよ。お、同じ村の」
「同じ村のよしみだからなんだってんだ」
「そうよ、アタシたち、あんたのせいでさんっざん苦労したんだから」
「……ふ、フレア」
「ゲイルもフレアもあんまキツくいうなよ、トンマが泣き虫なのは今に始まったことじゃねえだろ」
「ウォルタぁ……」
「おっと、だからって俺にそんな目を向けるなよ。俺はエレンみたいな可愛い女の子しかお呼びじゃねえんだ。
「きゃっ!ウォルターさん、やめてください」
おどけたように治癒しの肩を抱く斥候役に可愛らしい悲鳴が上がる。戸惑いはあるようだが、嫌悪というほどではなさそうだ。そこそこグループの関係はいいようだ。
「そ、その……このかたって」
「……エレン、察している通り、こいつはウチの治癒師だ。元、という方が正しいがな」
「ゲイルぅ、そんな、そんなこと。ぼ、ぼく、なんでも、なんでもするからぁ。おねがいだよ、一緒に、連れてってぇ」
あまりに情けのない声だった。大の男があれでは追放されたって仕方がないだろうと酒場のあちこちで忍び笑いが上がる。
「お前と俺たちじゃステージが違うんだよ。お前だってわかるだろ」
「そ、そんなの、ぼ、僕だって」
「トンマのあんたにはかわいそうだと思うけどねぇ。でもアタシたちだってさぁ、幼馴染だからって慈善事業ばっかしてらんないのよ」
「み、フレアさん、そんな言い方」
「まあまあ、そんなんじゃエレンだって困惑するだろ。なあトンマ、こうしようぜ。お前が本気の本気で俺たちと一緒に行くんなら、明日の朝までに金貨1000枚持って黒森のダンジョン前までこいよ。それなら、まあ高ランク冒険者のお稽古ってことで依頼できるだろ」
とうとう隠しもしない笑い声が上がった。金貨千枚といえば爵位が買えるほどの金額だ。実質お前なんぞお呼びじゃないと突きつけられたようなものだろう。流石にトンマと呼ばれた男もここまで言われては耐えられなかったのか、よろりと立ち上がると鼻水を啜りながら酒場を飛び出していった。
それが並大抵ではない大男だったから尚更笑いを誘う。
「あれが治癒士かよ!」
「シールダーや格闘家ならともかく、あんなデカイなりで後ろでちまちま治癒術唱えてんのか」
「そりゃ邪魔くせえってもんだ」
ゲラゲラ上がる笑い声は酒場の外まで響き渡る。
だが、トンマを追い出したパーティーだけは誰一人笑ってはいなかった。
翌日のことだ。日も登りきらないうちのこと。
黒森のダンジョンというのは比較的層の浅い初心者向けのダンジョンで、冒険者や兵士の訓練場として国が管理する施設の一つだった。魔界から魔物を吐き出し続けるコアゲートを破壊すればダンジョンはただの穴蔵となるのだが、国の管理下にあるコアゲートは兵士によって見張られ、破壊されることもなければ過度に魔物を吐き出すこともないよう調節されていた。
つまり比較的安全に狩ごっこができる遊び場とも言えるそのダンジョン前に、五人の人影があった。
「お前、マジでくるとは」
「ゲイル、来てくれてありがとう。はい、これ!金貨1000枚」
「ばか、しまいなさい!!だからアンタはトンマなのよ!」
ビッグポケット。コアゲートと同じ仕組みのよくわからないオーパーツによってできた亜空間収納からずっしり取り出されようとした袋にフレアは目の色を変えて怒鳴り散らした。それを慌ててウォルターが抑える。
「フレア、落ち着いて。まー、俺は正直やると思ってたけどね」
「だって、みんなが嘘をいうはずがないだろ」
ニコニコへらへら。昨夜の泣きっ面がどうしたのかと思うほど呑気に笑うトンマ。昨夜事情を聞いたばかりのエレンだけが少し戸惑い気味で彼を見上げていた。
「ですが、まさか本当に……あの救世の勇者グランドさまだったなんて」
「トンマでいいよ。僕、本当にちょっと鈍くて。だからグランドさまなんて呼ばれると恥ずかしくってさ」
お人好しで愚鈍そう。だから昔馴染みにはトンマなんて呼ばれるその男が世界を滅ぼしかねない規模のゲートコアを破壊したというのはほんの数週間前のことだった。
これまでに例を見ないそのダンジョンは記録によれば999階層もの深さがあり、進めば進むほどに人を狂気に陥れるおぞましさがあったという。
当初はただ深いばかりだと思われていたダンジョンは、しかしよくよく調べてみれば周辺地域を徐々にダンジョン化させ、いずれはこの世界の全てを凶悪な魔物の蔓延る魔界へと作り替えかねないほどの力があったらしい。
そしてとうとう各国の王たちは冒険者ギルドとも手を取り合い、幾つものダンジョン攻略隊を結成させた。
その中で唯一生き延び、ゲートコアを破壊したのがグランドを含むこの国の王女隊だったという話だ。
国でも指折りの治癒士の力を持つ王女はダンジョンが滅びなければ王女という地位さえ無価値になると声を上げ、パーティーから追放されたばかりのグランドを拾い上げ自らと共にダンジョン攻略へと乗り出した、らしい。
「トンマ……グランドの治癒の腕は最悪だった」
「解毒も毒の効果は消えるけどお腹は壊すし」
「混乱も解除はするけどゲイルが女に見えて、あの時は最悪だった」
「だ、だって、ぼく、戦うとか」
「それで結局大剣使いの勇者になってんじゃねえか!俺たちと戦ってた時に転職してくれてりゃよかったのによ」
「だってあの人、王女さまが護衛が欲しいからって」
グランドは、それはもう気弱な男だった。
誰よりも大きな体を持ちながら、誰よりも心優しく、逃げ遅れた町人のために自らの体を盾とし、治療をしてやる。だから当初ゲイルのパーティーにいた頃はシールダーも兼任していたのだという。
「ランクが上がった分怪我の頻度は確かに減ったけどね。でもその分一度の怪我の深さはひどい。それはエレンにだってわかるでしょ」
「え、ええ」
「シールダーに転職するか。冒険者を諦めて村に帰るか。どっちだろうとそこそこランクを上げた俺たちに必要だったのは治癒士でシールダーじゃなかったからな。結局グランドをパーティーから追放して、それから何人か治癒士に来てもらった。で、今はエレンってわけだ」
「私の前の人たちは」
「俺たちも別に扱いを悪くしたつもりはなかったんだぜ。だけど同じ村で育った幼馴染相手となるとどうしたって扱いに差が出る」
「別にアタシたちトンマをいじめようってわけじゃないのよ。昔からこんな感じでやって来てるから」
「でもそういうのについていけないって言われちゃったりしてさ」
「ゲイルたち三人は仲良かったもんね」
「アンタはいっつもマディラの後ろに隠れてたわね」
「マディラ、さん?」
グランドの顔が火よりも赤くなった。それでエレンもすぐに察する。しかしだ……。
「あの、グランドさまは、王女さまと」
「あ、うん……そういう話も出たけど。王女さまと結婚なんてとても無理だし。他の二人も声はかけてくれたけど、その」
「どーせいびられてたんだろ。お前、トンマだからな」
背中を丸めてすっかりうなだれて、先ほどまでの恋を予感させる幸せそうな顔はどこへやら、じんわりと涙まで滲ませている。
「うまく、やろうとしたんだけどさ。なんか、いっつも王女さま怒らせるし。僕よりいい腕の戦士とか兵士はいるっていうのに、拾ったんだから最後まで面倒見るって。それで、僕と結婚しないと王女さまの恥になるって言われて。他の二人も愛人として一緒に暮らすとか、そんな話になって来ちゃって」
王女さまが勇者とご成婚されるという話で町はすっかり盛り上がっていた。裏でまさかそんな話になっているなど誰も思いはしないだろう。だがウォルターがこっそりエレンに耳打ちした。
グランドはずいぶんのんびりした性格ですぐ泣き言はいうが、優しく穏やかな性格もあって女性にはモテる方だったという。それも厄介な女性が多く、その優しさを自分だけのものと勘違いするタイプが後を絶たないらしい。
多分王女と残る二人の仲間もそういうことだろうというのが、ウォルターの推測だった。
「もともと、村に帰ろうとしてたし。マディラには、怒られるかもしれないけど、でも、その」
「ついに告るってか。まあ、確かにあの鬼女ならまだ結婚もしてねえだろうな」
「あんた、マディラに聞かれたらぶっ飛ばされるわよ。ま、恋人もいないだろうけど」
「そ、そんなこと……。確かにフレアみたいな美人とは違うかもしれないけど、でも、あんなに素敵な人。そうだよ……きっと結婚してる」
「いやいや落ち込むなよ。そこは男ならドーンと当たって砕けるぐらいの覚悟でいけよ!」
「砕けてどうすんのよ。それに、マディラが結婚しようなんて言うのはトンマぐらいしかいないわよ」
「み、みなさん、そんな言い方」
確かに容姿がすぐれない女性というのは世の中にいる。しかし恋心を寄せているはずのグランドまで否定することなく、揃ってマディラという女性に魅了がないような口ぶりというのはあまりにひどいと。しかしそんなエレンの怒りようにポカンと呆気に取られたようで、フレアが「ああ、そうだったわね」となんでもないように言った。
「ま、アンタも見ればわかるわよ」
それから、彼らの故郷だという田舎の村に辿り着いたのはおおよそ半年後のこと。
そこでエレンは件のマディラをオーガと見間違え高らかに悲鳴を上げることになるのだが、それはまた別のお話。
***
マディラさんはグランドに負けず劣らずの巨躯のハーフオーガ
いじめられがちなグランドを庇う一方、情けないとグランドの尻も蹴っ飛ばしていた姉御
なんやかんやで幼馴染グループで一緒に行動していたものの、出生が出生なだけに村外れの小屋で1人で暮らしている。
グランド
元治癒師 勉強は一生懸命したけど才能はなかった
体躯に見合う大剣を使う才能はずば抜けていたが、本人の性格的にストレスが大きい
いじられがちではあるが、幼馴染からのそれは大して嫌がっていない
みんなと一緒に行動したいがためだけに一緒に冒険者になったがポンコツだった
ゲイル
剣士 別に弓でも槍でも使えるオールラウンダー
昔からのガキ大将 グランドをいじめる割に遊びにも連れ出すのは大体コイツ
調子がいいので村ではそこそこモテていたが今でも女性にはあまり興味がない
フレア
魔道士気が強いし物言いは強いが見合う努力はする
グランドを連れて行くのを嫌がるのは大体コイツ
冒険者になる程度にはお転婆だった。男性にはあまり興味がない
ウォルター
斥候役 小柄ではないが筋肉がつきにくいタイプ
グランドについてはいたらそれなりに仲良くするけどいなくても気にしない
冒険者になったのは女の子にモテるため 一番都会を満喫している
エレン
治癒師 最近パーティーに加入した
伝聞の「勇者グランド」に憧れていたミーハー 治癒師の適性はあったがちょっとトロい
メンバーの物言いはきついがまあまあおせっかい集団なのでそういう人たちだと思っている
とはいえグランドが来なければいずれは抜けていた
その後マディラに告白しようとするも王女が突撃してきたり
大剣使いとしての才能を見せつけて「お前もっと早くやれよ」と激しくツッコまれたりするドタバタを考えてましたが、続かなかった。
読んでいただきありがとうございました。