7.デストの中身ってどうなってるんだろう?
ちょっとタイトル変えてみました!これからもちょくちょく変わるかも?です。
「せっかく早く片付いたんだし、ご飯でも食べよっか!」
野犬たちの処理がある程度片付いたところで、プリテラが次元バッグからサンドイッチを取り出す。
「おいおいピクニックかよ」
「王都で4番目に美味しいパン屋のサンドイッチだよー」
「なんだよその微妙な順位は」
「だってさー、トップ3はいつも混んでるんだもーん。文句あるなら自分で買ってきたらぁ?」
「タダで貰っておきながら文句を言うなんて、ライさんは最低ですね」
「あ、いや、別に文句を言ってるわけでは……」
『デストローイ』
結局プリテラが取り出したピクニックシートに座り、四人でサンドイッチを頬張る。
フルプレートアーマーを着たままシートに座るデストは悪い冗談にしか見えない。この絵面、ちょっと違和感ありすぎだろ。
そのデストがサンドイッチを口元へと運ぶと──サンドイッチが消えた。
どうなってんだ、あのフルフェイスヘルムは。異空間かよ。
「何度見てもデストちゃんの食べ方は変わってるよねー」
「デスト、そのヘルム外したりしないのか?」
『デストローイ』
首を横に振るデスト。
まあ、もしかしたら顔にすごい傷とかあるのかもしれないひな。
「そ、そうか……ごめんよ。別に無理して外さなくてもいいからさ」
「人の嫌がることを勧めるなんて、ライさんは最低ですね」
『デストローイ』
はい、すいません。もう聞きませんので。
食後は穏やかな時間だ。
デストは近くに生えていた花を愛でている。
ちょこんとしゃがみ込んで花を眺めるフルプレートアーマー。
……頼む、違和感よ仕事してくれ。
「デストは花が好きなのか?」
『デストローイ』
やっぱり殺戮で荒んだ心を花とかで癒してるのかな。心優しき鬼みたいな?
おや、デストのヘルムの裾から白銀色の光が見えるぞ? これは……髪? ずいぶんと長いな。
「なあデスト、ヘルムの隙間から髪が出てるぞ?」
『デストローイ!?』
慌てた様子で髪が引っ込む。おいおい、デストの髪は意思でも持ってるのか?
にしてもデストは白銀色の長髪なんだ。中身はどんな姿をしてるんだろうか。
パッと湧いたイメージは白髪鬼……怖すぎるだろ。
「ねえねぇ、デストちゃんの正体ってどんなのと思う?」
デストが遠くの花を眺めに行った隙を見て、タイムリーに尋ねてきたのはプリテラ。
ふふっ、ついに来たなこの時が。俺が普段から考察してきた持論を披露してやろう。
「俺は──デストは実は名のある冒険士じゃないかと思ってるな。弱いパーティに入って俺ツエーしたいとか、ピンチになったら本当の姿を表すとか……」
「だったら別にうちのパーティじゃなくてもよくない?」
「ま、まあそうだな……」
聞かれたから答えたのにこの酷評よ……まいっか。
「ボクはねぇ、実は呪いの鎧を着てしまって脱げなくなった貴族子弟説に一票だなぁ。あまりにヤバすぎて普段は存在自体を隠されてるんだけど、毎週銀曜日だけは解放してストレス発散させてる、みたいな」
「なにそれ、こわっ」
たしかに、身内にあんなのがいたら貴族なら隠し通すだろうな。
だけど週一で解き放つ貴族家も相当やべーだろ。
「面白い説だが、それだと野放しにうちのパーティに入ってるのはさすがにヤバくねえか? 貴族家の監視くらいはついてるだろうよ」
「確かにそうだね。じゃあつぎ、ソフィちゃんはどう?」
「私は……騎士団でいじめられてる新人説ですね。それで、ストレス発散で銀曜日に狩りをしていると」
「いやいや怖すぎだろ」
なかなか物騒な予想だな、おい。
「でも俺はデストはそんな怖いやつじゃないと思うんだよなぁ。優しいし」
「まあねえ、紳士だしね。誰かさんみたいにエッチな視線を向けてこないし」
俺は一回も向けたことねーよ!
「野犬の群れを一太刀で殲滅するような人が優しいんですかね?」
いや、それ言われると俺もう何も言えねー。
「……そろそろ帰るか、寛いだし」
『デストローイ』
結局今回もデストの大活躍で終わってしまった。
マジで他の3人は何の役にも立ってない。まあいつものことだけどさ。
「ご苦労様でした、冒険士。こちらが報酬です」
今回の報酬は10000ペル。実に安い。一人2500ペルだと1日の飯代くらいにしかならない。まあ地元の農家の依頼なんてそんなもんなんだろうけどさ。
だけどメンバーからは何の不満の声も上がらない。一番活躍したデストですら等分で良いと頷いている。やっぱり人間が出来てるよなぁ。
「今日もお疲れ様、また来週よろしく!」
「じゃあまたねー! ばいばーい!」
「また……お会いしましょう」
『デストローイ』
いつものように解散したあと、俺は《帰還宝石》を使って研究所に戻る。今日は……よし、ドリューはいないな。
普段の服装に着替えると、そのまま研究所を出て家への帰路に着く。
まだ陽も高いしいつもより早いから、エテュアもそんなに怒らない……よね?
「ただいまー」
アパルトメントの一階にある借家の扉を開けると、キコキコと聞き慣れた鈍い音とともに廊下の角から見慣れた姿が視界に入る。
「んもー、遅いよお兄ちゃん! エテュア、待ちくたびれたんだから!」
えー、こんなに早くても文句言うの?
まあいっか。俺は車椅子に乗ったエテュアの前に膝をつく。
「ごめんエテュア、遅くなって」
「銀曜日までお仕事なんて、お兄ちゃんの仕事も大変なんだよね」
「まあな」
「でも許さない。100回『エテュアのことだいしゅき!』って言って!」
えー、そんな子供みたいなこと言うなよ。エテュアは俺の一個下だろうが。
「あー、もしかして不満なの? エテュアのこと嫌い?」
「んなことないよ! じゃあ言うぜ、だいしゅきだいしゅきー」
「誰のことが?」
「エテュアのことがしゅきしゅきだいしゅきー」
「こんなにわがままでも?」
「しゅきしゅきだいしゅきー」
誰か、助けてくれ……。
「……仕方ない。エテュアのことそんなに好きなら、そろそろ許してあげるとするか」
「はぁ……はぁ……」
地獄のような100回しゅきしゅきが終わったところで、ようやくエテュアの機嫌が治ったみたいだ。
ふーっ、なんて拷問だよ。冒険士やってるより疲れるぜ。
こんな姿を誰かに見られたらと思うと……。
「でもお兄ちゃんも仕事だから仕方ないよね。冒険士なんかになるよりよっぽどマシだから。あんなの命がいくらあっても足りないからねっ」
「……そうだな」
「お兄ちゃん、冒険士なんてなったら絶対ダメだよ?」
「ああ、わかってるよ。そもそも俺は王立魔導研究所で働いてるエリートなんだぜ?」
「はいはい、分かってますよーだ」
冒険士ライのことはエテュアにはもちろん内緒だ。
なぜかエテュアは冒険士のことを酷く嫌っている。もしバレたらマジでヤバいだろう。
だけどさ、俺にもストレス発散が必要なんだよ!
エテュアには悪いが、ライは俺にとって重要な隠し事なんだよ。
「とりあえず雷動車椅子の雷力は足りてるか?」
「んーどうだろ」
「とりあえず足しておこう」
俺は雷力を車椅子へと注ぎ込む。ふむ、すぐに満タンになったな。
「ん、大丈夫そうだ」
「お兄ちゃんがいたら、雷力がタダだからお得だね」
「ははっ、そうさ。雷力使いたい放題だ」
「じゃあさ、これから晩御飯いっしょに作ろうよ。エテュアはハンバーグが食べたいなあ」
「はいはい、わかったよ」
「あとでお風呂も入れてよね。ちゃんと全身洗ってね」
「わかってるよ」
「間違っても妹に欲情しないでよね!」
「しねーって!」
一瞬、プリテラやソフィの顔が浮かぶ。あいつらにバレたらなんて言われるか……。
しかし、あいつらはどんなプライベートなんだろうか。
特にデスト……ほんと気になるよなぁ。
◆◇
一方その頃、デストは──。




