4.楽しい時間が終わったら帰らなきゃ
こんな調子で何度かエネミーを撃退したりしながら探索を続け、ふと腕に嵌めていた魔法時計を確認すると──もう夕方になっていた。
俺たちの実力なら、というかデストが一人いればダンジョン攻略も実現可能そうなんだけど、さすがに日跨ぎになってしまう。
俺たち【シルバリオンサーカス】は、銀曜日のみ活動するチームだ。ダンジョン攻略が目的じゃない以上、日跨ぎは活動条件に反する。ってか俺が家に帰らなきゃならない。帰らないと大変なことになっちゃうからね。
ということで……残念ながら今日の活動はここまでだ。
「じゃあ、今日はそろそろ帰ろうか」
「はぁーい」
「わかりました」
『デストローイ』
誰からも反対意見は出ず、俺たちは来た道を引き返して【罠と雑魚】から無事帰還した。
あの気持ちが悪くなるゲートを潜って冒険士協会に戻ると、窓口で入手した品々を売り払って今日の稼ぎを配分する。
「査定が終わりました、全部で8万ペルになりますね。よろしければこちらにサインをお願いします」
「はいよ、ありがとうな」
「ではこちらが報酬となります。冒険士、お疲れ様でした」
今日の稼ぎから入宮料を差し引いくと、一人1万の稼ぎだ。
宝箱からゲットした魔法のナイフが協会の手数料を引いて5万で売れたのが大きかった。あれがなければ収支は赤字だ。やはり冒険士はギャンブルな職業だと思う。
パーティのルールで、エントリー料を差し引いた残りを平等に配分する。誰からも不満の声は上がらない。たぶんデスト一人でも余裕でこれくらいは稼げると思うけど、彼は特に不満はないようだ。見た目は怖いけどほんと良くできたヤツだよな。聖人君主かよ。
「今日もお疲れ様、また来週よろしく!」
「じゃあまたねー! ばいばーい!」
「また……お会いしましょう」
『デストローイ』
全ての手続きが終わると解散だ。余韻も何もない。サクッとみんな帰っていく。
しかし、皆はどこに帰っていくのだろうか……。
うちのパーティメンバーは全員素性が不明だ。まあ俺自身隠しているし、何かを聞こうとも思ってないけど──きっとそれぞれ本職なり本業なりがあるんだろうな。
そんなことを考えながら、俺はいつものように街の外れへと歩いて行く。周りから見えない建物が入り組んだ場所まで移動すると、首から下げたネックレスに触れて魔力を流し込む。
「発動しろ──《帰還宝石》」
ぶぅぅんっと鈍い音を発しながら、緑色の光の輪が目の前に広がる。
いやあ、便利な世の中になったもんだよな。帰還宝石のおかげで、王都内ならいつでも帰還できるからな。
問題は、値段が高すぎて王族や上位貴族ほか国の重要人物にしか貸与されないことだろう。あと、帰還先が一箇所しか登録できないのも地味にめんどくさい。まあこれ以上を望むのは贅沢ってなもんかな。
いつもの場所に繋がる帰還道が開いたのを確認すると、俺は躊躇なく中に飛び込む。
「……ふぅ、着いたか。リターンロードはダンジョンと違って気持ち悪くならないのが良いよな」
目の前に拡がる──見慣れた仕事場。
散らかった研究道具や本たち。いい加減片付けないとなぁ。でも俺もドリューも片付け苦手なんだよなぁ。
自分専用のロッカーに手を触れてロックを解除すると、中に『偵察士ライ』としての装備一式をまとめて放り込む。
代わりに胸に雷マークのロゴが入った黄色のローブを手に取り身に纏う。
最後に魔力を隠し封じていた額飾りを取り外して──はい、完成。
バチバチと音がして、これまで抑え込んでいた魔力──いや雷の力があふれ出す。
鏡に映る俺の茶色の髪が徐々に逆立ち、先のほうから黄色に染まっていく。
ははっ、こうして見ると我ながら偵察士ライと同一人物には見えないな。
「あれっ、ライヴァルト大導師! いらっしゃったんですね」
「おわあっ!?」
うわっ、びっくりした。
誰かと思ったら助手のドリューじゃないか。
今来たばかりみたいだけど……さっきの姿は見られてないよな? 見られたら俺、失職しちゃうよ?
「ドリューか、驚いたよ」
「ライヴァルト大導師はお休みの日なのにわざわざ研究所にいらっしゃったんですか?」
「ああ、ちょっと……その、息抜きに来てたんだよ」
白衣にメガネ、ゆったりおさげの癒し系なドリューの眉が少し下がる。あ、これ怒ってるな。
「息抜きで研究所に来るなんて働きすぎですよっ! 雷を自在に操ることから、この『バルチナセル王立魔導研究所』にたった7人しかいない『大導師』の位を与えられたライヴァルト・ケルビン様が過労で倒れたなんて、笑い事にもなりませんからね?」
ははっ。大導師なんて大層な呼び名、恥ずかしいから辞めてほしいんだけどなぁ。
「その呼び名、どうにかならない?」
「ダメですよ! だってライヴァルト大導師は『雷力』を発明して世界の発展に寄与して、おまけに大怪盗ムーンテイカーの正体にもっとも近づいて追い詰めた天才ですからね! ちゃんと呼ばないと他の偉い人からあたしが怒られちゃいますもん」
はー、そうですか。出世しちゃうと気軽に人と接することができなくなって、なかなか辛いよねぇ。
「ところでドリューこそなんで銀曜日なのに研究室へ?」
「あ、えーっと、あたしはなんとなくライヴァルト大導師が居そうな気がして……ではなくて、忘れ物です!」
「そっか、じゃあ早く探さないとね」
「あ、もう見たかったんで大丈夫です」
え、もう見つかっちゃったの?
何か探してるようには見えなかったんだけど……。
「あのー、ライヴァルト大導師。あたしの忘れ物も見つかったことですし、働きすぎも体に毒なので、だからその……これからあたしとご飯を一緒に食べてリラックスを──」
「ごめんドリュー、もうこんな時間だ。俺は帰らなきゃ。妹に夕食を取らせないといけないんだよ」
息抜きを終えたあとだから、もうとっくに日は沈んでいる。このままだと夕食の時間に遅れてしまう。
そうしたらエテュアはヘソを曲げてしまうに違いない。年頃の女の子を相手するのは本当に大変なんだよ。
「……え、あ、はい。そうでしたね、ライゼン大導師は妹さんを大切にされてますもんね」
「ああ、妹はちょっといろいろと手がかかるからね。それじゃあ今日はお先に失礼するよ。明日は完休日だから、また来週よろしくね」
「わかりました、また来週……(なんで気づかないかな、このドンカンっ!)」
「ん? ドリュー何か言った?」
「いいえー、何も言ってませんよーだ。ふーんだ」
あれ? なんでドリューは膨れてるんだ? 急に機嫌が悪くなるなんて。
妹にもよくあることだけど……うーん。年頃の子の考えることは、どうにも分からないなぁ。
──まあ、いいか。
これにて第一章はおしまいです!
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