1.俺たちシルバリオンサーカスは、週に一度のみ集まる
日々の生活はストレスだらけだと思う。
理不尽な仕事を振ってくる上司。
平気で他人の足を引っ張る同僚。
捌ききれないほどの大量の仕事。
やりたくもない不本意な業務……。
思い通りに行かない日々で溜まったストレスは、なんらかの方法で発散しないと自分自身を苦しめるだけじゃないかと思う。
──だから俺は、俺なりの方法でストレスを発散する。
〝冒険士″というのは、その魅力的な名称に比較して極めて不安定な職業だと思う。
キツイ、命がけ、その割に金は安い。
日雇い的な仕事をこなしたり、近くの森に入っては田畑を荒らす魔獣を退治したり、なけなしのお金でチケットを買ってダンジョンに潜ったり……。
冒険士たちのほとんどは金を求め、残りのほんの一部は名誉や名声を求めている。
だけど俺は、そのいずれとも違う目的で冒険士をやっている。
──週に一度。休息日の前日、銀曜日だけ。
◆
「今日は銀曜日か。あいつらは来てるかな。皆気まぐれだからなぁ……あんまり人のことは言えないけど」
俺の〝冒険士″としての職業は──〝偵察士″だ。
これは冒険士協会が『仲間を募集しやすいように』便宜上、区分けしたものだ。だから入会時には、自分の役割を明確にするためにも職業を決めることが推奨されている。
俺はまぁ……消去法的な理由により偵察士をやっている。
本業の方が忙しいから、俺が冒険士になるのは安息の休息日の前日、〝銀曜日“だけ。
ライという偽名を使って活動している。
パーティメンバーも、同じく銀曜日だけ活動する仲間だ。
素性は全く知らない。それが条件で集めた仲間だからだ。
うちのパーティへの参加条件は『銀曜日だけ活動すること』。その他の条件は無し。
俺にとって、メンバーは悪人だろうが犯罪者だろうがどうでもよかった。
募集の結果──何人もの冒険士たちが出たり入ったりして、今では三人のメンバーが固定的に集まって活動している。
「よぉデスト。今日は参加してくれるんだな」
『デストローイ』
冒険士協会が運営している酒場【冒険の扉亭】に顔を出すと──俺のことを待ち構えていたのは、全身黒のフルプレートメイルを装備した禍々しい雰囲気を放ちまくっている2メートル近い大男。
彼の名はデスト。
デストは通称で本名は不明。なにせ名乗らない、いや名乗れないので便宜上そう呼んでいる。そもそも彼は『デストローイ』しか言わないのだから仕方ない。
身長と同じくらいの大刃の大剣を振り回すゴリゴリの戦士だ。フルフェイスの兜の下にある素顔は一度も見たことがない。地の底から響くような声質から、ゴツゴツのマッチョな男性と推測してる。
デストの醸し出す威圧感に、酒場内の他の冒険士たちがドン引きして距離を置いている。
まあ彼らが避ける気持ちは分かる。俺もパーティメンバーじゃなければ間違っても声をかけたりしないだろう。それくらいヤバいやつにしか見えない。
……あ、でも最初に声をかけたのは俺だったかな? まぁいっか、過去のことなんて。
「やっほーデストちゃん、今日も〝カッコいい″な鎧だね!」
『デストローイ』
物思いに耽っているうちに明るい声でデストに話しかけているのは、魔法士のプリテラだ。
水色の髪にツインテールがトレードマークのムードメーカー的な子だ。今日の彼女はパンツが見えるギリギリの丈のスカートを履いている。正直、目のやり場に困るからどうにかしてほしい。
「やっほーライ! そんなにボクのスカートをガン見したって、残念ながらスパッツ履いてるからパンツは見えないよぉ?」
「はぁっ!? 見てないしっ!」
「あはっ、冗談だよ。そんなに真顔で返さないでよ、〝可愛い″じゃないなぁ」
いや、酒場内で大声でそんなこと言われて放置してたら、俺の評価がガタ落ちするだろうが。
俺が怒ったフリをすると、笑いながらデストの後ろに隠れるプリテラ。
はーっ、こいつの相手をまともにしてると疲れるだけだ。無視して最後の一人の到着を待つとしよう。
「ところでソフィはまだか? デストは見てないか?」
『デストローイ』
「ボクもまだ見てないよ。もしかして今日はお休みなのかなぁ?」
「……私はここにいますよ」
「おーっとビックリ! こんなところにいたんだぁ!」
プリテラの背後から幽霊か何かのように現れたのは、三つ編みにした黒髪に黒いローブ姿で黒縁眼鏡をかけた背の低い少女。
彼女の名はソフィ。
ドクロの模様が刻まれた歪な形の木の杖を持ち、全身黒コーデなので黒魔術でも使うのか……と思わせておいて、実は治癒士だったりする。
人は見かけによらないとは言うものの、彼女の場合は確信犯的な外見詐欺だと思う。ありゃわざとだな。
ちなみに俺は彼女が笑っているのを見たことがない。決して俺のジョークがつまらないからではない……と願いたい。
「さー、これでボクたち【銀曜日の一芸団】のメンバー勢揃いだね!」
偵察士の俺、ライ。
戦士のデスト。
魔法士のプリテラ。
治癒士のソフィ。
この四人が、俺たち【銀曜日の一芸団】の構成だ。
パーティ名は、いつからか【銀曜日の一芸団】になっていた。
なんでも銀曜日しか活動しない一芸を持ったメンバーが集まったパーティだから、というのが理由だった気がする。
名付け親はたぶんプリテラあたりだろう。俺はパーティ名なんてどうでもよかったし、デストは『デストローイ』しか言わないし、ソフィは自己主張をほとんどしない。
うん、間違いなくプリテラだな。
「で、ライ。今日は何するの? たくさんあるよー。龍の鱗を取りに行く? 30万ペルだってよ? 龍涎香なら10gで5万ペルだって! ……おや、こっちにある冬獣夏華は25万ペルかぁ。んでもって、こっちの『肉体復元薬』は……なんとびっくり2000万ペルだって!」
「もう少し現実的に手が届く範囲で選ぼうか。龍の鱗なんて【勇者】でもなけりゃ手が出ないだろう?」
それこそ噂に名高い【赫灼の勇者】とか【天翔の勇者】あたりなら、たとえ数十年ものの成龍あたりが相手でも鱗くらいは取ってこれるんじゃないかな。
だがあいにくと俺たちは平凡な冒険士パーティだ。自称だけど。
「えー、つまんないの。でもリーダーがそう言うなら仕方ないか」
「おいおい、誰がリーダーだよ」
否定はしてみたものの、プリテラは「ボク、リーダーなんてやりたくないよ。めんどくさいし」とスルーするし、ソフィは「無理です」と即拒否だし、デストは首を横に振りながら『デストローイ』しか言わない。
あーもう分かってますよ、俺しかいないってね。
そもそも銀曜日限定でメンバー募集してたのは俺だし、リーダーなら自分に都合の良いミッションだけ選べるし……さほどデメリットもないから受け入れるしかないんだけどさ。
「ったく、めんどくせぇなぁ……まあいいか」
「面倒とか言いつつ、ちゃんとやるところがライの偉いところだよねぇ」
「ライは頭が単純ですから、扱いやすくて便利ですね」
「そうだよソフィ、単純なやつはうまく口先で転がすものだよ」
「こらこらプリテラ、ソフィ、全部聞こえてるからな?」
『デストローイ』
褒めてるのか貶してるのか──絶対貶してるよな、これ。
「さて、何の仕事にしようかね」
「わくわく!」
隣で大袈裟に両手を上げてポーズを決めるプリテラを無視して、俺は今日の行き先を考える。そもそも週一しか活動できないんだから、選択肢はたいして多くない。
「分かった、じゃあ今日は──〝異界迷宮″探索に行くぜ!」
今回は治癒士のソフィが参加しているから、ある程度なら怪我をしても治癒してもらえる。
だったらせっかくの機会なので、自分にとって理想的なものを選ばせてもらおうかな。それこそリーダー特権だし。
「やったー、ダンジョン! みんな頑張ろうねっ!」
「はい、分かりました」
『デストローイ』
でもこいつら、どんな場所も嫌がらないんだよなぁ。ほんといいのかな、まあ好きに選んじゃうけどさ。
──さぁ、お互いに素性も何も知らない俺たち4人の、週に一度の冒険の開幕だ。




