10.あなたの推しは?
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おっと、依頼の前に……知りたいことがあるんだっけ。
俺は冒険士協会の一角にある小さなブースに立ち寄る。
「やあ、『週刊冒険士新聞』もらえるかい?」
「あいよ、500ペルね!」
ここ【新聞屋】では様々な新聞を買うことができる。日常的なニュースを扱ったものから、誰が読むのか分からないキャンプ専用とかコスメ専用といったマニアックなものまである。実に多種多様だ。
その中で俺が手に取ったのは、一番人気の『週刊冒険士新聞』。
軽食が食えるくらいの金額だけど仕方ない。俺は財布から500ペルを取り出し新聞屋に渡すと、そのままデストと一緒に壁際に立って読み始める。
「どれどれ……」
見つけたぜ目的の記事。【罠と雑魚】のクリア情報だ。
「ほう、クリアしたのはチーム『ダンジョンハンターズ』……中堅どころだな。うわ、チーム6人中3人が偵察士ってどんだけ偏ったチームだよ! デストもそう思わないか?」
『デストローイ』
「あー、たしかこれ冒険士協会からの『制覇依頼案件』だっけ。だから罠解除に特化したチーム編成でダンジョン制覇したわけね、それなら分かるわー。あのダンジョン不人気だったし、協会もさっさと潰したかったんだろうな」
『デストローイ』
「で、肝心のクリア報酬は──『触れると野菜に艶が出るようになる』ダンジョンドグマ? なんだそれ、使い道なさそう」
『デストローイ』
「なになに、なに楽しそうに二人で見てるのぉ?」
いつのまにかやってきたプリテラが、ひょいと新聞を覗き込んでくる。
フワリと香る、柑橘系の甘い匂い。プリテラのポニーテールが頬をくすぐる。プリテラのこういうところは女の子っぼいよなぁ。
「あー、ライってばボクの匂い嗅いで興奮しないでよね」
「ライさん、最低ですね」
「え、いや、ちがっ!? ってソフィまで!?」
『デストローイ』
「それで、ダンジョンドグマがどうしたって?」
「ああ、これだよ」
すぐに気を取り直して記事を見せると、プリテラは一通り眺めたあとでため息を吐く。
「はーっ。ダンジョンドグマなんて『ダンジョンの中でしか使えない』のにさぁ。日常的に使うようなものを手に入れても仕方ないよねぇ。デストちゃんもそう思わない?」
『デストローイ』
「あー、やっぱりオークションに出品されたんだ。使い道ないもんねー。落札価格は……10万ペル? 安っ!」
「あれだけ面倒くさいダンジョンのクリア報酬がそれじゃあがっかりだよな。実際、クリアした冒険士チームはかなり落ち込んでたみたいだぜ」
下手すりゃポーション代とかで赤字かもしれないしな。
「デストもなんかダンジョンドグマ欲しいか?」
『デストローイ』
「だよな、どうせなら選りすぐって超有用なドグマが欲しいよな」
まあどっちにしろ、俺はダンジョンドグマを獲得できない体質だから意味ないんだけどな。
「あのー、ライさん?」
おや、珍しくソフィが殊勝な顔で俺に問いかけてくるな。
「どうしたソフィ」
「ダンジョンドグマって何なのですか?」
おや、この子は冒険士の常識とも言えるダンジョンドグマを知らないのかね。
しかたない、お兄さんが優しく教えてあげよう。
「その、ライさんのちょっと優越感に浸った表情が嫌ですね」
「えっ、いや、その」
「もうー、ライってばほんっとに仕方ないなぁ。ソフィちゃんにはこのボクが教えてあげるからね。えーっと、ダンジョンドグマはね、ダンジョンをクリアした人にダンジョンが与える報酬のことだよ」
「そもそもどうすればダンジョンクリアとなるんですか」
「ダンジョンの最奥まで行って『ダンジョンコア』を持って帰ればクリアだよ。そうしたらダンジョンは消えて、新しいダンジョンがまた生成されるんだ。ちなみにこのコアがダンジョンドグマを宿してるってわけ」
「あーソフィ、補足すると生成されるダンジョンは完全にランダムだからな。割りが良いダンジョンが生成されるまで、王国は冒険士たちに依頼して消滅と再生を繰り返してるんだよ」
簡単なダンジョンはドグマ狙いで早い者勝ちだ。
だけど有能なドグマは難易度の高いダンジョンの方が確率が高いから、そのあたりのバランスは難しいんだよね。
「なるほど、よく分かりました。なのでライさん、そんなにドヤ顔で言わなくても大丈夫ですよ」
いや、ドヤ顔なんかしてないし!
「あっ、こっちは勇者の記事だよ」
俺から新聞を奪い取って読んでいたプリテラが指差したのは、一面記事に掲載されたインタビュー記事。我が国の第二王子でもある【赫灼の勇者】が、他の3人の勇者と一緒に写真付きで紹介されている。
「へーどれどれ、見せてくれよ。ふむ……どんなに努力すればそんなに活躍できますか、だって? いや努力の問題じゃないだろ」
だいたい【赫灼の勇者】は王家の血筋にのみ発現する超強力な身体強化ギフトを持ってやがるから、一般人が同じように努力したところで同じように活躍できるわけないじゃんね。
「デストもそう思わないか?」
『……デストローイ』
「そもそも【勇者】とはなんなのですか?」
「おっとソフィさんはそんな基礎的なことから聞いてくるかね。仕方ない、俺が教えて──」
「やっぱりいいです。ライさんの表情が気持ち悪いので」
「なーっ!? いや普通に教えるってば。【勇者】はこの国最強最高の冒険士に与えられる称号だよ。言い方を変えれば【最高ランク冒険士】さ」
「最高ランク、ですか」
「ああ。だいたいは常人離れしたギフトか、高難易度ダンジョンで得た超強力なダンジョンドグマを持ってる。一言で言い表すと、人類最強ともいうべきとてつもなく強い冒険士ってことさ」
「へー、そうなんですね。これが人類最強なのですか……」
人類最強は言い過ぎかもしれないけど、冒険士の頂点に君臨してるのは事実だよね。ソフィってば普通の女の子らしく、最強に興味があるのかな?
「ねえ、ライはこの4人の勇者の中でどれが好き?」
プリテラにしてはめずらしく俗な質問だな。
えー、別に好みはないけどなぁ。
「一番人気はやっぱり【赫灼の勇者】だろ? なにせこの国の王子様だからな。ってデストも彼のファンなのか?」
『……デストローイ』
少し悩んだあと、ゆっくりと頷くデスト。
たしか【赫灼の勇者】は肉弾戦にめちゃくちゃ強い脳筋野郎だったから、戦闘狂同士で惹かれ合うものでもあるのかもしれないな。
前に対峙したときは酷い目に遭ったもんだし。
「でも俺さ、この王子苦手なんだよねー。なんか恵まれすぎてるっていうか」
「ライさん、嫉妬ですか」
「うっ、まあそうなのかもな。あとほかは……【天翔の勇者】と【百術の勇者】、それに【七色の勇者】か」
この中で【天翔の勇者】は唯一の女性なんだけど、妙に露出の多い服を着てて目のやり場に困るんだよね。いかにも人気取りというか。
【百術の勇者】は、なんでも100以上の魔法を使える初老のじいさんだ。あいにく俺はじいさんには興味はない。
そうすると──。
「うーん……消去法的に【七色の勇者】かなぁ」
「ほぉぉぉ、意外だね! 彼のどこが良いの?」
「んー……」
七色の勇者はいかにも貴公子っぽくて、女子人気もあるイケメンなんだよなぁ……うーん、何で俺がイケメンを推さなきゃいけないんだ?
「やっぱ【赫灼の勇者】にしよっかな」
「えー、なんでー! そこで変えるの無しじゃない!?」
「そう言うプリテラは誰が好きなんだ?」
「別に好きじゃないよ、むしろ嫌い」
は? じゃあ何で聞いてくるのさ。
「なんだよ、プリテラは冒険士の頂点でもある勇者を目指してたりしてるわけじゃないのか?」
「ぜんぜん。そもそも目指してたら週一の活動なんてしてないし」
そりゃそうだ。
「じゃあ何を目指してるんだ?」
「ボクはねぇ、冒険士の〝アイドル″を目指してるんだよ」
「あいどる?」
なんだそれ、聞いたことないな。
「アイドルっていうのはね、可愛くて人気者で歌って踊れて魔法が使えて、そんでもってみんなに力を与える存在のことだよ」
「あー、うちの王女様みたいな感じか?」
我らがバルチナセル王国の王女様も似たような活動をしていた気がするよ。
「ボクはもっとみんなに身近な存在になりたいんだ。ほら、手の届かないお姫様よりもボクみたいにすぐ会える存在の方が応援したくなるでしょ?」
「そんなもんかねぇ」
「ってなわけで、ライもこんなに可愛くてパーティメンバーなボクのことをちゃんと推してよね?」
まあ可愛いってことは否定しないけど……仕方ないなぁ。まいっか。
「はいはい、応援しますよ」
「わーい、ありがとねライ!」
「で、具体的にはどんな活動してるんだ?」
「そんなのナイショだよ、ライのエッチ!」
なんでやねーん。
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