嘘でしょマジでやる気ですの!?
それから後日、2人はこれまでの経緯を話しながらエアステンス地区から離れて深い森へと歩みを進めていた。
「……てな訳で、俺はこうやってひとりで旅をすることになったんだ」
「そりゃあ……大変でしたのねぇ……ところで、どこに向かってますの?もー何時間も歩いてますのよ〜!!」
ベロニカは長時間の歩行の上、テオドールが仲間に預けられた荷物を押し付けられてかなり疲弊していた。
「てかなんなんですのこの大荷物!?なんかミチミチに詰まってるんですけど!?」
「ああ、これは俺がスランプを脱するまでの支援物資として仲間がくれたんだ。多分、ほとんど食料だけど……」
「こんなに食べるんですの??」
「いや、カロリーネ……俺の仲間が自分の尺度で詰め込んだんだろうなぁ。でも丁度いいや、仲間がひとり増えたんだからさ」
「その仲間に荷物持ちさせるのはどーなんですの!!」
ゴネるベロニカを見兼ね、テオドールは開けた場所を指差して休憩を促す。
「だったら早速荷を減らそうぜ。飯にも丁度いい時間ぽいしさ」
「うぇひぃ〜、疲れましたのぉ〜!!」
2人は地面に荷を下ろし、中に入っている食料と飲み物を取り出して休憩を始めた。
「っあ゛ぁ〜〜〜乾いた喉にお茶が沁みますのぉ〜〜〜」
「それ水だよ」
「それよりわたくし思うんですの!いきなり使えなくなったからって、幼馴染を置いて先に旅に出るなんて薄情にも程がありますわ!!」
「あー、それね」
テオドールはここ1週間の出来事を思い返し、つい表情に影が落ちる。
「違うんだよ。俺さ、急に上手く召喚魔法が使えなくなってさ……突然実力の差が開いちまった焦りを悟られてたんだな。アイツら、それでいたたまれなくなっちまったみたいで気ぃ遣ってんだよ」
「でもそれって勝手ですわ!!余計心細くなるでしょうに、置いてかれる方の気持ちにもなれですわ!!」
「まあいいじゃないか。それに俺たちはツェントラール・ノルデン地区のギルドに向かうんだ、そこでまた会えるさ」
「……マスターがそれでいいならもういいです!!」
そう言って包み紙に包まれたパンを頬張ろうと大口を開けるベロニカ。
しかし……突然、何者かの気配を感じ取ると辺りをキョロキョロし始めた。
「ふぁふぃふぁふぃふぁふふぁふぇ」
「なんて?」
「なにか居ますわねぇと言いましたの!!まー大方、食べ物の匂いに釣られて出てきたクマかなんかでありますの……」
呑気に余裕ぶっこいていると、木陰から3つの大きな影が現れた。
その正体はクマなどではなく、丸々と肥え太った屈強なオークであった。
「ぎ、ギャーーース!?!?」
『フゴフゴ……』
『メシの匂いだ……』
『腹が減った!!腹が減ったぞ!!』
オークたちは、目の前にある腹の足しに鼻息を荒くしながらこちらに近付いてくる。
「ドゥドゥドゥどぅーしますのマスターーー!?このままじゃあ旅の始まりからいきなりDEAD ENDですわーーー!!!!」
「それぞれレベル25くらいか……よし、何も問題ねぇな」
「あーもーコイツ凄腕時代から感覚バグったままじゃねーですわーーー!!!!少しは危機感持つですの!!!!」
慌てふためいている間にもオークはこちらへと向かってくる。それに備え、既にテオドールは構えを取っていた。
「来るぞベロニカ!!」
「嘘でしょマジでやる気ですの!?」
『メシだ!!メシだ!!』
『人間のニクだ!!』
既に戦う気でいる青っぱちの召喚士と、血の気の多いオークどもに挟まれてしまうベロニカ。
こうなってしまったらもうどうしようもないので、ヤケになって3匹のオークへ向かって一直線に走り出して行った。
「しゃーねーですわ!!今こそこのヒノキの棒が火を吹く時ですオギャアアアアアアァァァ!!!!」
だが、無策で突っ込んだベロニカは無念にも3匹のオークに袋叩きにされてしまった。
『ケッ、サキュバスかよ』
『魔物の肉には興味ねーんだよ』
粗方叩きのめした後、地に伏すボロ雑巾と化したサキュバスには目もくれずにオークたちはテオドールの方へと向かって行く。
「て、手籠めにもされないなんて……こっ、高潔なるサキュバスのこのわたくしになんつー仕打ちを……」
「いやいやいや!!無策で突っ込んでくバカがあるか!!魔法とか使えないのかよ!?」
「生憎と攻撃魔法は覚えてねーですわ!!」
「つ、使えねぇ!!?」
しょうがないので、テオドールは精神統一をして呪文を唱え始める。
「『静かなる物、種より生まれ出て拘束よ』……『拘束蔓』ッ!!」
すると、地面に魔法陣が描かれてそこから植物のツルが伸び始め、オークの体を捉えて捕まえる。
『う、動けねぇ!』
相手の動きを止めたのを確認した後、すかさず再度精神統一して攻撃魔法を唱えた。
「『侵かし略する物、気より生まれ出て骨身を焦がせ』……『火炎球』ッ!!」
そして、目の前に現れた魔法陣から3つの火球が飛び出してオークを飲み込み、その肥えた体をじっくりと焼いていく。
『プギィイィィ!!』
『あづい!!あづいぃ!!』
『オデたちが焼き豚になっちばアアァァ!!』
炎に飲まれるオークたちは、阿鼻叫喚の悲鳴を上げながら塵と灰と化して跡形もなく消えていった。
「や、やったですの゛……!!どうにか危機は脱しまたの゛ぉ〜……」
「お前やられてただけじゃん」
そう言いつつも、ボロボロにされたベロニカを回復させるために歩み寄ろうとした、その時。
ベロニカの体が宙に舞い、風を切る音に悲鳴を乗せてテオドールの横をすり抜けた。
「アンギャアアアアアァァァァァ!!!!」
「ベ、ベロニカアァ!!」
慌ててそれを追いかけるテオドール。ベロニカは吹っ飛ばされた勢いで、すぐそこの岩に顔をめり込ませていた。
『ブゥゥウフェッフェッフェッ!!よくも我が舎弟を始末してくれよったなぁ、人間めが!!』
そこに現れたのは、先程のオークとは比べ物にならない程の屈強な肉体を持った魔物、ハイオークだ。ベロニカはこれに蹴飛ばされたのである。
「ハイオークだと!?しかも50レベル以上だなんて、この辺には生息地していないはず……!!」
「ここここ、今度こそ『死ッ!!』ですのぉ!?!?あばばばば……まだわたくし生まれてこの方一度も殿方との付き合いもないのにぃぃぃ!!!!」
「諦めるな!!まだ戦わずに負けを認めるんじゃない!!」
荒い息を吐き、ヨダレを垂らしながら迫り来るハイオーク。テオドールは警戒しながらも、ベロニカの前に立って精神統一をする。
「なっ!?」
「『静かなる物、種より生まれ出て拘束よ』……『拘束蔓』ッ!!」
呪文が唱えられ、地面からツルが伸びる。しかし、ハイオークは持っていた斧を振り回すと最も容易くそれを捌いてしまう。
「くっ、ならこれだ!!『侵かし略する物、気より生まれ出て骨身を焦がせ』……『火炎球』ッ!!」
テオドールは再度呪文を唱え、火球を連発して攻撃する。だがこれも、ハイオークの強靭な肉体にとってはただただ痒いだけだった。
そしてその間にも、バングルに表示されているMPは徐々に減って行ってしまう。
「なんで!?どうしてマスターが前にでるのですの!?」
「どうしてって、仲間を見捨てるなんて出来ないに決まってんじゃねぇかよ!」
「そうでなくて!!わ……わたくしはただの使い魔ですわ!!盾にでもして逃げればよろしいでしょうに!!」
「……そんなダセーこと、俺はしたくないね。そんな召喚士が将来、ユニコーンみてぇなスッゲェ奴を召喚なんて出るかよ」
「マ……マスター……」
ベロニカは自分が情けなくなる。使い魔として呼ばれ、仲間として認めてもらえたにも関わらず、ずっと足を引っ張ってばかりだったからだ……。
「……わたくし、『迷妄』の魔法だけは使えますの。もし上手く当たれば共に逃げられるはずですわ」
「『迷妄』か……なら、合図したら撃ってくれ!!頼むぜ!!」
「りょ、了解ですわ!!」
そう言うとベロニカは精神統一し、テオドールの合図を待つ。
そしてテオドールは、火球の弾速を速めながら狙いを分散させて乱発し始めた。
『バカめ、ヤケでも起こしたか!!』
「さあね、どうだろうかよ!!」
乱発された火球はハイオークから大きく狙いが外れ、そこかしこへと散らばってしまう。
だが、それこそが彼の狙いであった。
ハイオークの背後で爆発を起こす火球は、付近の木々の根元を吹き飛ばして木の幹を倒してハイオークへ覆い被さって身動きを封じたのだ。
『しまっ……!!』
「ベロニカ!!」
テオドールの叫びに、ベロニカはタイミングを合わせて魔法を解き放った。
「『幻の迷宮へと永遠に惑え』……『迷妄』!!」
そして次の瞬間、眩い光が放たれて彼らを包み込んでしまった。
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