呼び出しといてそりゃないですの〜!!
「あれぇ、どうなされましたのぉ?なんなりとお申し付けくださいよぉ、マ・ス・タ・ーぁ♡」
「…………」
テオドールは固まった。目の前で甘えた声と誘惑のポーズを見せつけるその女型の魔物……妖魔サキュバスだったからだ。
(いや、いやいや!!仕方がないさ!!だって今はリハビリの途中なんだ!!こんなんしか出てこなくて当然だよなぁ!?)
前向きに思考した結果、テオドールは再び精神統一をして魔法を唱え始める。
「『魔なる物、光子より還りて契りなる約めを破……」
「待て待て待て!?それ強制帰還の魔法じゃないですの!?呼び出しといてそりゃないですの〜!!」
強制帰還魔法を唱える手をベロニカは必死で掴み掛かって止めようとする。
「な、なにすんだよ!!」
「ま、まだわたくしはお勤めを果たしていませんわ!?それを急に返すだなんて殺生な!?」
「だって仕方ないじゃないかよ、俺は別に練習でお前を呼び出しただけなんだから……」
「せ、せめて何か役目を終えてからでよろしいでしょうに!?」
そう必死に引き止めるベロニカに見て、テオドールは仕方なく強制帰還魔法を止めてベロニカに腕を突き出した。
「な、なんですの?」
「ステータスを見てるんだよ。この腕の『ライフバングル』でお前のステータスを計測してるんだ」
すると、腕に付いているライフバングルの管の中の『液化水晶』が動き始め、ベロニカのステータスを測り始める。
「ここの銀の管ん所がレベル。戦闘力の総計みたいなもんだな。その下の緑の管が『ヘルスフォトン』、通称HP。怪我とかすると減っていく。更に下が『マギフォトン』、通称MP。魔力の残量だな」
「へー、人間の技術って便利ですのね!!それで、わたくしのレベル?はどのくらいですの?」
ベロニカはテオドールの腕のバングルを覗き込み、自分のステータスを確認してみる。すると、銀色の液化水晶の管は『15』の目盛りを示していた。
「まあ、こんなもんだよな」
「これって強いんですの?」
「ここら辺じゃ普通だね。中級クエストじゃ役に立たないかも」
「そ、そんなー!?あんまりですのー!!」
ショックを受けるベロニカだったが、目の前で再び強制帰還魔法を唱えようとしているテオドールを見て必死に呼び止める。
「ちょちょちょっと待つですの!!わっ、わたくしにはそんじょそこらの魔物とはワケが違う特殊能力がありますの!!」
「特殊能力……?」
「ええもちろん!!わたくしたちサキュバスには、人間の魂を覗き見ることが出来るのですわ!!そして……」
ベロニカは指で枠を作ると、それをテオドールに向けてその中の魂を覗き見た。
すると、突然ベロニカの体が光を放ち始め、リボンのようなものを纏いながらその姿を変えていく。
「これがサキュバスの特殊能力、『官能共鳴』……相手の理想の姿となって魅了し、精を搾り取るための本能なのですわ!!」
そう言ってベロニカが変身したのは、露出度が高く、極度に面積が少ない鎧を身に付けた姿であった。
「ほほ〜う、ビキニアーマーとは……これまたマスターは物好きでありますわねぇ〜……ってどうしてそんなに冷めてるですの!?!?」
ベロニカはニヤニヤしながらテオドールの様子を伺っていたが、その反応は思いのほか白けていた。
「いや〜、サキュバスの能力なんて知ってたし」
「そう!では!!なくってぇ!!わたくしはあなたの趣向に合わせてこの姿になったのでありますのよ!?なのに……ほら……」
ベロニカはテオドールの局部を指差す。しかし、それの指す先には何も変わった所は無かった。
「……それがどうした?」
「どうしたも!!こうしたも!!ないですの!!普通はサキュバスの魅了には抗える筈ないですわ!!なのにどうしてあなたはこうも無反応ですの!?ま、まさか、その歳で不感症……」
「んなわけねーでしょうが。確かに露出度も高いし際どいけど、そもそもそんなカッコ俺の好みじゃねーよ」
「ガビイィィン!?」
ショックを受けるベロニカだったが、実を言うとこうなった事について思い当たる部分があった。
「……ははぁん〜、なるほど?ではこちらはあっちの方の好みですわねぇ?」
「あっちって?」
ベロニカは再び指で枠を作ると、テオドールの魂を覗いて説明を始めた。
「輪廻転生って知ってますの?魂とは、例え死しても再び生まれ変わるというものですの。その過程で、魂に刻まれた記憶は本来浄化と共に失われますの。しかし、たまに前世の記憶を持って生まれ変わる存在が居ますわ。それをここでは『転生者』と呼ぶのですわ」
「『転生者』……話には聞いたことはあるけど」
「今、マスターの魂の色は半分違う色をしていますわ。おそらくそれが『前世の記憶』を内包した部分……つまり、マスターはひとつで2人という存在。そっちの部分がわたくしを呼び寄せ、この姿にしたのですわ」
「なるほど……でもどうしてその、前世の知識を思い出したら今までの召喚魔法が使えなくなったんだろう」
「そりゃあ、生物の脳の許容量には限界がありますからね。ほら、例え大事なことでも時間が経てば忘れる事と一緒ですわ」
得意げに話すベロニカ。それを聞いたテオドールは、青い顔で大量に汗を垂らしている。
「そ、その〜……なんだ?つまり俺はその前世の記憶ってのが邪魔して召喚魔法を忘れちまってるのか??」
「そうなりますわね」
「う……嘘、だろ……」
テオドールは愕然とし、頭を抱えて蹲ってしまう。
「どうしたんですの?」
「だって……だってよぉ……俺ぁ今までの人生をほとんど召喚魔法に使ってたんだぜ?それなのに……今更召喚魔法が使えないなんてさあ!!」
酷く落ち込むその姿は、とても小さく情けなく感じられた。そんな姿を見てベロニカはいたたまれなくなってしまう。
「はあ……知識ならまた学べば良いじゃないですの。そうやって生きてきたのなら、これからもそうやって精進すればまた今までと同じように頑張ればよいのですわ!!」
「ベロニカ……」
彼女の言葉に背中を押されたテオドールは、目を擦って立ち上がり、手を叩いて差し出した。
「ありがとう、ベロニカ……俺、こんなとこで挫けちまってたら情け無いよな!!」
「そうそう、そのいきですの!!」
ベロニカは差し出されたその手を両の手で受け取って笑い返す。
「俺、お前のことを仲間と認めるよ!よろしくな、ベロニカ!!」
そうしてベロニカは、召喚士テオドールの正式な使い魔となるのであった。
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