テオドール、君にはパーティーから抜けてもらう
エアステンス地区にある宿の一室。そこで、とある一団が神妙な面持ちで顔を見合わせていた。
「テオドール、君にはパーティーから抜けてもらう」
それは、リーダーの『戦士』アルフレッドの口から突然言い渡された。
「アルフ……!?と、突然何を言い出すんだ!!」
「テオ、キミは既に心当たりがある筈だ。何故、キミがこんな事を言われなければならないのか……」
「それは……」
返す言葉が出てこない『召喚士』テオドール。
そう、確かに彼にはそう言われるだけの心当たりがあったのだ。
話は1週間前まで遡るーーーー。
アルフレッド、テオドール、ベルタ、カロリーネの4人は、ダンジョンと化した古代遺跡を調査中に全長10m程にもなるワニ型魔獣、巨顎獣と遭遇し戦闘を行っていた。
「ベルタ、カロリーネ!!アルフの召喚魔法が完了するまで持ち堪えるぞ!!」
「了解っ!!」
「もち!!」
『魔法使い』ベルタは杖を突き出し、『格闘家』カロリーネはどっしりと構えて拳を握る。
「さあ、こっちこっち!!」
「こっちだ木偶の坊!!」
カロリーネは巨顎獣の右から、アルフは左から回り込んで撹乱を試みる。しかし、巨顎獣は体を旋回させてカロリーネを尻尾で、アルフを巨大な顎で振り払う。
「よっ、と!!」
2人はそれを交わすと、その勢いのまま飛び上がって攻撃を放った。
「『秘技・岩盤砕き』っ!!」
「『ラングザーム・バッケン』ッ!!」
カロリーネはガッチリとした体幹で体のバネを曲げると、それを解き放って渾身のチョップを巨顎獣の胴体に叩き込む。
同時に、アルフの宝剣から炎が吹き上がると、それが魔力の刃となって頭部に突き立てられる。
しかし、巨顎獣の硬い鱗状の皮膚はその強烈な攻撃を物ともせず、更には軽く身を震わせた衝撃のみで2人を弾き飛ばしてしまう。
だが、その攻撃は“第一の囮”だった。
「ベルタ、今!!」
「『魔光弾』ッ!!」
ベルタの放った『魔光弾』は的確に巨顎獣の目を狙うと、負傷はさせられなかったものの十分な目眩しとなり大きな隙を作る。これが“第二の囮”である。
そして……巨顎獣が目を開いた時には全ての準備は整っていた。
「『魔なる物、光子より形成して顕現せよ』……召喚、極双龍ッ!!」
テオドールが召喚魔法を詠唱すると、魔法陣が現れて赤と青が左右で分かれた巨大な龍、『極双龍』が召喚される。
「トドメだ、極双龍!!」
『御意に!!』
極双龍は両翼を合わせる仕草をすると、巨顎獣の両側から炎と氷の柱が立ち上がり、それが壁となり挟み込んで巨顎獣を粉々に爆散させた。
「ありがとう、極双龍!」
『何かあればまた呼ぶとよい。ふぉっふぉっふぉっ!』
そう言うと、極双龍は光の粒となって姿を消した。
テオドールはそれを見送ると、仲間たちの方へと振り返る。
「やったな、テオ!!」
「本当、あなたの召喚魔法様々ね」
「極双龍、かっちょいい!!」
勝利の喜びに舞い上がる4人。そう、これが彼らの普段の戦闘スタイルなのである。
「いやいや、これもみんなが協力してくれるおかげだよ!」
「謙遜すんなよ!僕らの中で一番実力があるのはテオなんだからさっ!!」
「そりゃあいつもアルフが囮役に回るからそう見えるだけじゃないか!本当はアルフのが強いくせに」
「いーや、テオのが強いね!!」
「あのなー」
いつの間にか、賞賛の言葉が言い合いに発展してしまう。
「また始まったわね、お互いを褒める喧嘩」
「早く止めないと長いよー、これ」
2人が呆れて顔を見合わせていると、何かが落ちる音がしてはっと辺りを見回す。
「ちょっと、もしかして……」
「さっきの、強すぎたんじゃない!?」
ここは古代遺跡のダンジョン……大きな衝撃によって、下手をすれば壁や天井が崩れる可能性があった。
しかしテオドールは強力かつ強固な巨顎獣を一瞬で倒す為に、より強力な極双龍を召喚する必要があったのだ。
それが原因となり、天井の破片が次々と落下してくる。
「あぶなっ!!」
「って、あの2人まだ喧嘩してるし!?」
カロリーネが未だ落下物に気付かない2人へと呼びかけようとしたその時、2人の上に一際大きな破片が落ちて来る。
「アルフ!!テオ!!」
「っ!!」
呼びかけに最初に気付いたのはテオドールだった。しかし、2人が同時に避けるには既に時間が無かった。
テオドールはアルフを突き飛ばし、そのまま破片が頭に直撃。気を失ってしまったのだった……。
その日からテオドールは上手く召喚魔法を使えなくなってしまい、パーティーの足を引っ張っていたのであった。
「でもさ、アルフ……俺たち、お互い今まで仲良くやって来たじゃんかよ?」
「そうだね……だから、正直心苦しいよ。今までキミの召喚魔法に頼り切りだったから、今の僕らじゃ正直ままならないのも事実さ。でもね……」
「……今の俺じゃあ、お荷物だってのかよ……」
テオドールは悔しそうに拳を振るわせる。しかし、アルフはその手をそっと取って首を横に振った。
「テオ、キミは今スランプなんだ。頭を打ったから思うように魔法を操れないだけなんだよ。だから、僕らに構わずに回復するまで休んで欲しいんだ」
「けどよぉ〜……」
反論したかったテオだったが、アルフの汚れのない真っ直ぐな瞳に押されて言葉が出なくなってしまう。
その時、横からベルタが色とりどりの砂のようなものが入った瓶を複数、革のケースと共に渡してきた。
「ほら、『マナ瓶』。召喚魔法の練習に必要でしょ、持ってなさい」
「ベルタ……!」
更に、カロリーネも大荷物を持ち出して渡してくる。
「わっ、とと!!」
「はい!1週間分の食料と、みんなで稼いだお金の一部!!」
「こ、こんなに……」
「だって、うちらのパーティーってほとんどテオドールくんの活躍だったでしょ?本当はもっと分けたいくらいだもん!!」
「カロリーネ……」
仲間の気遣いに感涙するテオドール。だが、このままでは不甲斐ないと涙を拭って笑い返した。
「みんな、ありがとう!!俺、絶対カンを取り戻してみせるよ!!」
「ああ!!だからテオ、僕らはいつでもキミの席を開けて待ってるからな!!」
そうして3人はひとりテオドールを宿を後にし、再びツェントラール・ノルデン地区のギルドへ向かった。
そして残されたテオドールは、再び召喚魔法を取り戻すため練習の日々に打ち込むのであった。
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