「おばあちゃん、死んだら人間は無くなっちゃうの?」
「おばあちゃん、ただいまー。あのね、今日ハルトに50メートル走勝ったんだよ!よっしゃー!」
「おーそうかい、よかったねー。ハルト君に負けてからあんた毎晩裏の林道走ってたもんねー。努力は裏切らないってことだね。」
「あの時はほんと悔しかったからね。絶対見返してやるって誓ったんだ!」
「そうそう、本当に悔しそうだったね。あんなに泣くほど。」
「げっ、、、なんで私が泣いたこと知ってるの?」
「あっはっはっはっはー!そりゃわかるわよ。あんなに目をはらしてたら。土偶かと思ったわよ。」
「土偶って、ひっどーい!」
ミシミシミシ、ギシギシギシ、ミシミシミシ、ギシギシギシ
「ねえおばあちゃん、この家・・・、たまにあんな音するよね。なんでかなあ?」
「あー、あれはやなりだよ。」
「やなり?」
「そう、やなり。古い家になると屋根裏に手のひらくらいの小鬼が住み着くのさ。」
「おにぃぃい?!ほんと?やばっ、大丈夫?」
「あっはっはっはっはー、大丈夫大丈夫!ちょっとイタズラ好きなだけでかわいいもんだよ。」
「かわいいって、おばあちゃんは見たことあるの?」
「ああ、あるよ。子供の頃にね。歳を重ねるうちにいつのまにか見えなくなるんだけどねえ。」
「イタズラってなにをするの?」
「ほら、ここに置いておいたえんぴつが朝になったら無くなってたり、避けたはずなのに足の小指をぶつけたり、後で食べようとしていたお菓子が減っていたりすることあるだろ?ありゃだいたいやなりの仕業さ。」
「へー、怖いけど見てみたい!ねえおばあちゃん、そいつ見つけたら捕まえてもいい?」
「あっはっはっはっはー、あんたほんとおもしろいねー」
ミシミシミシ、ギシギシギシ
私は毎日の日課のようにおばあちゃんと話しました。お母さんの昔のことは、だいたいおばあちゃんから聞きました。お母さんが小学生だった頃の事、いじめにあったと知ったおばあちゃんが、学校に乗り込んで行ったこと。いじめにあって以来空手を習い始めたこと。お母さんに殴られた男の子の家におばあちゃんが謝りに行ったこと。若い頃ちょっとだけ、テレビや映画に出ていたことまでなんでも。
「ただいまー、ねぇおばあちゃん、今日はハルトとザリガニとりにいったよ!」
「あれ、今日はみくちゃんとさきちゃんと遊ぶんじゃなかった?」
「そうだったけど、どーしてもザリガニとりたかったから。朝学校に行く途中でものすごく大きなザリガニを見つけたんだよ。」
「大丈夫かい、もう何日もそんなふうに断ってて。」
「大丈夫!私はその時やりたいことをやりたいの!だってしたくもないことをするのって全然楽しくないもん!それにミクやサキとお人形で遊ぶのは嫌いじゃないけど、お人形はパンチやキックはしないよって言うんだもん。」
「はー、・・あんたは本当に真っ直ぐな子だね。ちょっと心配だよ!」
おばあちゃんは、わたしのことを真っ直ぐな子だね、ちょっと心配だよ。とよく言ってました。
「真っ直ぐな子だとなんで心配なの?」
と聞くと、
「素直に真っ直ぐ生きることはとても大切なことなんだけどね、まわりが見えなくなっちゃうのはいけないねえ。まわりをみるってことは、まわりを思いやるってことなんだよ。つまり思いやりが欠けてるってことなんだよ。」
その時はあまりピンときませんでした。自分がやりたい事をすると、思いやりがないってなんかおかしいもの。
「おばあちゃん、ただいま。」
「どうしたんだい?今日は元気がないねえ。」
「学校のうさぎが死んじゃったんだ。他のウサギ達がそのウサギのまわりでじっとしてるんだよ。その子のお墓を小屋の近くに先生と一緒に作ってあげてる間中、ずーっとこっちをみてるんだ。かわいそうだよ!」
「そうだね。それはさみしいねぇ。」
「・・・ねぇおばあちゃん、人間もいつかは死んじゃうの?」
「そうだよ。」
「おばあちゃんも?」
「そりゃそうさ。生きているものはみんな死んじゃうよ。」
「いやだ!おばあちゃんは死なないで!私が死ぬまで生きてて!約束して!」
「あっはっはっはっはー!あんたは本当におもしろい子だね!私は何歳まで生きなきゃならないんだい。そんなに生きたら疲れちゃうよ!あっはっはっはっはー!」
「ねぇおばあちゃん、死んだら人間は無くなっちゃうの?」
「いいや、心は残ったままだよ。魂って聞いたことあるかい?」
「うん、火の玉みたいなやつでしょ。」
「そうそう、魂にも故郷ってやつがあってね。死んだらそこに帰るのさ。天国とか極楽とかいうよね。」
「帰ったらなにをするの?」
「ゆっくり休むのさ。この世界はとてもエネルギーを使うから疲れちゃうんだ。ゆっくりゆっくり休んでエネルギーがたまったらまたこの世界に来るんだよ。」
「なんでまた来るの?」
「うーん、どうやって言ったらわかりやすいかねぇ。人間っていいも悪いも、とっても欲深い生き物でね、あのお菓子が食べたいってなったら、もっともっと欲しくなるだろ。遊んでいたらもっと遊びたい。朝眠いからもっと寝ていたい。これが欲さ。こう言うと人間は欲まみれで嫌な生き物になってしまうけれど、良い方に働く欲もあるのさ。」
「良い方の欲ってなに?」
「向上心さ」
「向上心?」
「大きくなったら立派な先生になるために今から一生懸命勉強するとか、・・・ほらあんたがハルトに50メートル走で絶対に勝つと決めて、一生懸命に夜練習してただろ。あれも欲なんだよ。」
「あー、前よりももっと良くなりたいってことね。」
「そう。魂の故郷にいるととてもきれいな心になるんだ。そうするともっときれいな心になりたいって思いこの世界にやってくるんだ。この世界は修行の場なんだね。」
「へー、でも修業ってなんだか大袈裟だね。そんなに大変かなあ。結構楽しいけどなあ。」
「あっはっはっはっはー、あんたウサギのこと忘れてないかい!」
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