同級生の女子はこれから毎日部室にくるそうです妹は同級生の女子に少し嫉妬している
昼休みが終わり授業を受けていると、隣の席に座る川崎さんがちょいちょいとシャーペンを振る。
「何どうかしたの……?」
「教科書忘れたから一緒に机繋げて見せて」
川崎さんの机は今黒板の文字を写しているノートと筆箱しかなかった。俺は川崎さんの言う通り、机を繋げ教科書を見せ合う。
教科書を忘れたなら何故昼休み他のクラスの人間に借りにいかなかったのだろうか、川崎さんなら誰でも貸してくれるだろうに。
そして川崎さんと教科書を見せあっていると、川崎さんは突然俺の手を握ってきた。
「あの川崎さん、今授業中」
「いいから」
俺と川崎さんはそのまま授業が終わるまでずっと手を握っていて川崎さんはどこか満足そうな顔をする。
放課後川崎さんは何事もなかったようにクラスメイトと教室から出ていく。
「なぁお前川崎さんと付き合ってる訳じゃないよな?」
「当たり前だろ」
先程の授業俺と川崎さんが手を握って授業を受けていたのはクラスメイト達も分かっていた。それを見ていた神沢が俺と川崎さんの関係を聞いてくる俺は週末川崎さんと出かけた事や川崎さんが俺が先輩の事を好きだって言っても好きにさせてみせると言っていたのを神沢に話した。
「ふぅん川崎さんもそれだけ本気って事か……」
神沢は少し残念そうな顔をする。
「まぁ気にしてもしゃーね、じゃあ俺部活あるし行くわ」
神沢はこの学校のサッカー部に所属している。小さい頃から中学までサッカークラブに所属していて高校になって所属していたサッカークラブを辞めて高校のサッカー部に入った、実力はあって一年からレギュラーで今じゃキャプテンを勤めている。俺も読書部の部室に向かう。
読書部の部室の扉を開けて入るとつくし先輩が奥の席に座り本を読んでいた。そしてつくし先輩の真向かいには、先程友人と教室を出て帰ったと思っていた川崎さんが携帯を弄っていた。
「うい」
先輩は部室に入ってきた俺に気付いて、本を読むのを止めて、いつもの挨拶をしてくる。
「こんにちは先輩、それと川崎さんも」
川崎さんは携帯を弄るのを止めて、ぽんぽんと座っていない隣の席を叩く。きっとここに座れという事なのだが、俺はつくし先輩の隣に座る。すると川崎さんの顔はムッとする。
「川崎さん今日は顔出してくれてありがとうね」
「いえ別に今日はたまたま暇だったので、それとこれからは毎日暇になったので毎日この部室にはこようと思います」
「本当!? 嬉しいな今までずっと男の子と二人きりだったから女の子の部員が来てほしかったんだよね」
まさかのつくし先輩の発言に俺は少し落ち込む、確かに男と二人きりなんて気まずいよな。
「そういえば川崎さん携帯弄ってるけど本とか読まないの?」
つくし先輩の問に川崎さんは携帯の画面を見せる。どうやら携帯を弄っていたのは電子書籍を読んでいたからみたいだ。
「もしかして川崎さんって紙より電子派なんだ」
最近は紙よりも電子書籍の方が売れているのは聞いた事があるエコの理由があった気もするが紙よりも簡単に持ち運べたりするのでそれも理由の一つだろう。
そして俺とつくし先輩と川崎さんは持ってきた本を静かに読んでいると下校を告げるチャイムが鳴る。
「今日はここまでだね、さぁ今日は私が鍵をかけて閉めていくから二人は早く帰った、帰った」
つくし先輩に部室を追い出される形になり俺と川崎さんは二人で校舎を出る。
「もしかしていきなり部室に来たのって」
「決まってるでしょあなたと先輩が二人きりなのが気に入らないから」
まぁ川崎さんの言っている事は分かっていた。そして自ずと川崎さんと校門を抜けてこの前の隣同士で歩いてこの前の別れ道に辿り着く。
「それじゃあ俺こっちだから」
「それじゃあまた明日」
川崎さんと別れ俺は帰り道を歩く、すると後ろからコツコツと人の足音が聞こえて近付いて来るのを感じて後ろを振り向くと、そこにいたのは妹の花火だった。
どうやら学校の帰りに買い物によっていたらしく、女子一人でも持つのが苦労しそうな大きなスーパの袋を花火は両手で持っていた。俺は花火から袋を奪う形で花火が持っていたスーパの袋を片手で持ち、花火と二人で家まで帰る。
「ただいま~」
花火が夕飯を作っている途中乃亜姉さんが帰ってきた、こんなに早く帰ってくるのは珍しい。
「おかえりお姉ちゃん、もうすぐ夕飯できるから先にお風呂入ってきたら」
俺はもう風呂に入ってソファでゆっくりとテレビを見て花火が夕飯を作り終わるのを待っていた。
乃亜姉さんはすぐに風呂場に向かう、久しぶりに家族三人で夕飯を食べる事ができて、花火はとても嬉しそうで鼻歌を歌いながら夕飯の準備を済ませる。
「今日は言ってた通りお赤飯とおかずに鯛も考えたけど久しぶりに肉じゃが作っちゃった」
どうやら花火は本当に赤飯の準備をしたらしい、まぁ別に構わないが一応もう一度だけ花火に言っておく。
「花火朝も言ったけど俺と川崎さんは付き合ってないからな」
「もうお兄ちゃん分かってるって、そんな強く否定しなくてもいいのに。お兄ちゃんがかっこいいのは知ってるしあの人とお兄ちゃんはお似合いだってのは私も分かってるからさ……少し早くお兄ちゃん離れする時期がきたとは思っただけ……」
花火はいつも微笑んだ顔をするが今だけは少し我慢して微笑んでいる気がする。
「花火あのなぁ俺は嘘なんて言ってないぞ。川崎さんとはただのクラスメイトの友人で花火が想像するような関係じゃないからな」
「本当に……? だって朝早くから一緒に登校するつもりで家に来たんだよ」
「花火考えてもみて。こんな弟にあんな美人でモデルの彼女ができると思う?」
乃亜姉さんも花火の誤解を解くために花火に言う。
「でもお兄ちゃんはかっこいいし、私のクラスメイトもお兄ちゃんに会った時優しくていいお兄さんだねってベタ揉めしてから」
そういえば最近花火が家で小学校の友人とゲームで遊んでいるのを見た。花火が友人を連れて遊んでいるなんて珍し過ぎてジュースを用意して花火の友人だからと喫茶店で見せる営業スマイルで対応した気がする。
「最初お兄ちゃんに美人の彼女が出来たって喜んではいたけど、心の中ではお兄ちゃんが取られるなんてずっと考えてた。お兄ちゃん本当にあの人は彼女じゃないの……?」
「何度も言ってるだろ、川崎さんとはただの友人だ」
そう言って花火は深呼吸をする。
「うん、なんかスッキリした。そうだよねお兄ちゃんに彼女なんかできないよね、だってお兄ちゃんはそばにいてくれるって小さい頃約束してくれたもんね」
花火が言っているのは父親が自殺した時の事だろう。そして俺はあの日の事を思い出す。
俺は小学校から帰ると父親に言われて花火が通っていた保育園に花火を迎えに行った。母親はパートの仕事で乃亜姉さんは高校の授業を受けていた。そして父親はずっと働かず家でゆっくりと過ごしていたのだ。
花火と保育園から家に帰った時の事である家の鍵は開いているのは当然の事、だが父親がどこを探してもいなかったのだ。
母親と父親が寝ている寝室の扉を開けると父親がロープで自殺していたのだ。俺は急いで母親に連絡する、花火はまだ小さかったので何が起きたか分かっていなかった。
母親が帰ってくると一緒に警察がやってきたのを覚えている。そして俺は花火と乃亜姉さんと一緒に親戚の家に少しの間預けられていた。
「お兄ちゃん小学校は……?」
俺は父親のあんな姿を見た後一時期小学校に通えなくなった、花火も保育園に通うのを辞めてずっと家で一緒にいた。
「家で花火一人じゃ可哀想だから一緒にいてるんだよ」
花火の頭を撫でて花火の問に答えた父親が死んでから母親は俺達の為にパートと仕事を増やして夜遅くまでする事になった。乃亜姉さんも高校の授業が終わると毎日のようにバイトのシフトに入っていた、なので基本俺と花火は夜遅くまで母親と乃亜姉さんの帰りを家で待っていた。
「花火、父さんがいなくなって寂しくないか……?」
今日も料理の練習をする花火に声をかける。料理と言っても包丁や火は使っちゃダメと母親から言われていたので食材を洗ったりとかそんなのである。
「全然寂しくないよ」
花火は手を震えながら答える。どうやら花火はやせ我慢していた。父親もたまには花火を公園に連れて遊びに行っていたのでそれも出来なくなったにも関わらず花火は寂しくないと答えた。
「大丈夫だぞ花火お前が大きくなるまでは俺がずっとそばにいるから」
「本当……お兄ちゃん? お兄ちゃんはお父さんみたいに突然いなくなったりしない……?」
花火は父さんが死んだ事を知らされていない、母親が父さんは家を出ていったこれからは家族四人で生活していくそれだけ花火に説明した。
「ああ俺は突然いなくなったりしないよ」
すると花火は次の日から本格的に料理の練習の他に一般的な家事などの練習を始めた。だが料理の練習は乃亜姉さんと母親がそばにいる時だけで、いない時は食材を洗ったり使った皿を洗ったり家に掃除機をかけたりするだけである。
「なぁ花火なんでそんな一生懸命家事の練習するんだ」
「それはお兄ちゃんには内緒」
一度花火に何故そんなに練習するかと聞いたが内緒だと言って花火は答えてくれなかった。