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ギュスタヴ・サーガ 幸福の村  作者: 山野陽平
6/8

鼻歌

ベイクとミーガンは民衆に紛れて別々の位置から張り紙を見つめていた。


 通達


 昨日 鉱石発掘場にて 見張りの作業員 ネザ・メストが気絶して倒れているのを 同作業員 マーカ・ロイとウスター・キミヒが発見した 後に到着した者によると 内部には侵入者は居なかったが 侵入した痕があり

村の財産が 強奪されたかは不明 

 よって3名は 村の有識者と アッチェラ様によりて 協議の結果 3日後 死罪とする


 あれだけ沢山の人が集まり、ひそひそ話をしていたのに、ベイクもミーガンも、誰の声も聞こえなかった。


 「あっさりした文言だ。人の命を何と心得るのかね」ベイクは旅籠にやってきたミーガンに言った。


 「有識者ってのがイマイチみんなわからんくてな。1人は有名で、早くからアッチェラに取り入り、鉱山発掘に会社を立ち上げたジュエラだ。そいつとアッチェラの取り巻きが集まって、村の意思を話し合う。長というのはいなくてな、アッチェラの意向がどれくらい反映されているか、皆んなイマイチ分かっていない」ミーガンは説明口調だった。


「2日か。厳しいな」ベイクは窓を見下ろしながら呟いた。人通りはまばらだ。「牢へ侵入して、3人を逃すか?」


「アッチェラを退治した方が早くないか?」ミーガンは言った。「看守を気絶させれば、また同じ事になるぞ」


ベイクは顎髭を摩った。「ドラゴンをやっつけられる上に猛毒を持っている。かなり手こずるぞ」


「あの毒は何に使っているんだろう」


「叩いて武器にするもよし、すり潰して飲ませるもよし、だな。川上から落とせば小さな街なら壊滅させられるだろう」


ミーガンは縮み上がった。劇薬は見知っていたが、それ程まで強力な毒は見たことがない。


 「この村には使わんだろうよ」ベイクはミーガンの顔色を察知して言った。「奴は恐らく裏世界で手広くやっているのさ。人間を利用するやり方が汚い。俺は1人でドラゴンに打ち勝ったってとこも怪しいと考える」


「1人じゃない?」


「分からんがな。奴はあの教会から出たりはしないのか」


「いや、もう1つ家がある。あの建物も寝泊りが出来るようになってはいるが、たまに本宅へ帰る」


「見てみようじゃないか。おらんのを確認してな」


 ミーガンはアッチェラの行動パターンはある程度把握していた。大体どういう時期に教会に残るか、いつ家に帰るのか。今日は教会で過ごす日らしい。何となくそうなのだそうだ。

 2人は村が寝静まった頃に、通りで落ち合い、歩いて丘の上の豪邸へと向かった。距離は1キロ程で、盆地にある村が一望できる、丁度いい場所だった。まるで見張っているかの様な邸宅だ。そうは言うが造りは至って簡素で、白塗りの何の細工も無い、二階建ての横長だった。庭は最低限砂地があるが、それも馬車を停めたり、回したりする以上のスペースは無く、あとは芝が生えていて、裏の藪に繋がっている。


 今日は月明かりが強くそういった様子がありありと見えた。使用人が泊まり込みで住んでいるかは分からなかったが、灯りがついている部屋は無い。

 ベイクとミーガンは術潰しの能力を最大限に引き上げ、五感を研ぎ澄ました。ドアが閉まっていても、屋敷の一階で立つ音なら全て聞こえるだろう。ミーガンは全ては無理にしても、ベイクは聞こえる。


 ベイクは袖に石のナイフ、ミーガンは鉄を仕込んだ棒を持っていた。


 ミーガンが正面玄関のドアノブに手を掛けた時、ベイクが手で静止した。


 「どうした」と、ミーガンは目で訊いた。ベイクは耳を澄ますジェスチャーをして、聞けと促した。

 

 鼻歌が聞こえる。広い邸宅で反響していて、とても機嫌が良さそうだ。女の声らしい。


 湯あみをしているぞ、とベイクはジェスチャーをした。ミーガンは入りたくないと思った。

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