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ギュスタヴ・サーガ 幸福の村  作者: 山野陽平
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5.悪の穴

 「どうやる?」ベイクは1メートルも通らない声で呟いた。


 「行ってくる」そう言いつつ持ち手が腕ほどの長さの鎌を持って、ベイクを尻目に入り口から逆方向に岩山を回って行った。暫くすると音もなく、見張りが立つ入り口の頭上から現れた。手並は速やかで、飛び降りながら、鎌の持ち手で見張りの首元を叩きつけ、一瞬で見張りを気絶させて見せた。


 中々の腕だ。素人相手とはいえ音なく気配を感じさせる事なく飛び降りた。丁寧さと思い切りの良さがわかる。


 目蓋1つ動かさないベイクに、ミーガンはほっとした。反応が見たかったのだ。ベイクは入り口に歩いて行きながら見張りを跨いで、すでに中に入ったミーガンを追った。


 「あいつ、大丈夫か?」ベイクの質問に、ミーガンはまたにやりとした。もちろん、怪我の心配では無い。


 「あまりここには人は来ないし、まだ交代の時間じゃない。自分から寝てましたなんて言う事はないだろう。そんな事したら罰を受けるのは分かっているからな。重罪だ」


ベイクは黙った。「早く済ませないとな」


 「ありがとう」


 人の背より少し長い、なだらかに下がっていく一本道の洞窟をぬけると、中には巨大な空間が広がっていた。上は三階建てもあろうかという高さで木で足場が作られていたり、補強されていたりで想像よりずっと玄人然としていた。そこらに人が引く荷車やくわ、シャベルが散らばっていて、隅にはうず高く積み上げられた土も見える。ベイクは壁に近寄り、手で掘ってみたり、土を叩いて調べ出した。


 「何か、あるかね」ミーガンは背後から仁王立ちで訊いた。


 「何が主に採れるって?」


 「金や銀、あと宝石の原石が採れるらしい。あまり分からないんだが」


「村に専門の仕分け場があるのか?」


「原石は全てアッチェラの占有する仕分け場に運ばれて、掃除された物が村にもたらされる。俺は奴が何割かは取ってると思うね」


「奴の目的が貴金属なら...いいんだがな」


ベイクはそばに落ちていた土ふるいを振り出した。


 「なんだ。何かあるのか?」


「わざわざ人間に山を掘らせていると仮定したら...。周りくどいと思わないのか?」ベイクは土ふるいの中身を手の平に出して見せた。


 「なんだ、このエメラルドみたいな緑の鉱物は。綺麗だな。キラキラ光ってる」


「触るな」ベイクは手を引っ込めた。「猛毒だ」


「何」


「仕分け場の奴らは防護服を着ているか、解毒術をかけられているだろう。アッチェラはお前らに天然の猛毒を発掘させているんだ」


「どんな毒だ」


「触る分には傷でもない限り安全だが、体内に入れば死ぬ。機能麻痺を起こしてな。掘り起こす時の砂煙でも微量ではあるが無害じゃないだろうよ」


ミーガンは絶句した。アッチェラが、自分が思うよりもさらに悪党だったのだ。村全体が騙されている。


 「すぐ殺そう」ミーガンはうつむいて言った。


 「待て。正体が分からなければ危険だ。せめて能力と戦力が分からなければ」ベイクはたしなめようとしたが、無駄に近いだろうと分かっていた。


 「声だ」


ベイクには聞こえたが、ミーガンには微かにしか聞き取れなかった。実際声はこの洞窟からも5メートル程離れた場所で発せられたものであった。

 2人は急いで洞窟内の松明を消した。


 「おい!しっかりしろ」坑夫が見張りの頬を叩いた。もう1人が後ろから言う。


 「待て、寝ているんじゃ無さそうだ。気絶しているぞ」


「なんだと」周りを2人で見渡す。そして身震いした。


 「どうする」ベイクには坑夫が、しでかした事に恐怖しているのか、謎の侵入者に対してか分からなかった。


 「俺らも牢屋に入れられるぞ」


「それは...直ぐに村に帰ろう」


2人は一目散に走り去った。見張りの責任になって自分達のおとがめが軽くなる事を祈りながら。


 ベイクとミーガンは暗闇からぶん殴ってやる気でいたが、上手く洞窟を出られた。彼らも一目散に馬の所に戻り、ミーガンは知りうる獣道から迂回して帰路についた。


 「厄介な事になったぞ」ミーガンは焦っていた。


 「傾向的にどれくらいになる?」ベイクはガタガタ揺れる車にしがみ付いていた。


 「2、3日だろうな」


「拘束がか?」


「ああ」


「それで済むのか?」


「いや、後死刑だ」


ベイクも焦った。そして頭をフル回転させて、どうすべきか考えた。

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