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05_私のリオンをいじめるなんて許さない!

 


 リオンはちょっとダメな子だった。


 見た目通りか弱いし、すぐに目がウルウルっとなるし、何か少しでも失敗しちゃえばウルウルってなるし、私がそばにいなければすぐにウルウルってなるし、ところでリオンの不安そうな表情にじわりと涙を浮かべて潤んだ瞳で私を見つめるのって反則だと思うんだよね、あれは本当に可愛すぎる。


 おっと、リオンのあまりの可愛さに夢中になってしまった。


 ……とにかく、リオンは弱くて、泣き虫で、可愛かった。




「魔族もどきー!」


 たまたま私が家庭教師の先生と勉強中、庭の方からそんな声がかすかに聞こえてきてハッとする。


 今、なんて……?


 思わず立ち上がると、先生であるユーリア夫人は咎めるような声を出した。


「フィオナ、あなたはまた……!いつだってほんの少しも淑女らしくできないのね」


 いつもなら、しゅんとうなだれてすかさず「ごめんなさい」と謝るところだけれど、今ばかりはそれどころじゃない。


「あっ!?ちょ、ちょっとフィオナ!待ちなさい……!」


 ユーリア夫人は怖いから、いつもならこんなことは絶対しない。

 だけど、私の中ではリオンが最優先だから!


 走って外に飛び出し、庭の奥の方へ一目散に向かう。


 使用人の皆はリオンに起こっていることに気がついていない。だって私、こんなことがあっては大変だと思って、得意な魔法を使って音が聞こえやすいようにしていたし。


 今日は我が家に数組の家族が訪問していて。

 男の子ばかりだからと私の勉強免除はユーリア夫人によって却下されたので大急ぎで片付けようとしていたところだった。


 男の子と、囲まれたリオンが見える。

 ああ、リオンが泣いてる!


「リオン!」

「姉さま……!」


 突然飛び出してきた私に、どこかの貴族の子供たちがびっくりした顔で固まっている。

 男の子が3人。ちょっとだけ怖い。


 だけど、誰よりも怖くて傷ついてるのはリオンだから。


「あなたたち!私のかわいいリオンになにを言ってるの!」


 間に割って入るように立ちはだかる。

 3人の男の子が怯んだのは一瞬だった。


「なんだよお前!」

「私はリオンの姉さまよ!」

「はあ?魔族もどきの?ははは!じゃあお前も魔族もどきなのか」


 カチン。

 馬鹿にしたようにわざと嫌な言い方をしながら私たちを笑う姿に、怒りが込み上げてくる。

 自分でもびっくりするほど、低い声が出た。


「何よ、魔族もどきって」


「魔族もどきは悪い存在だって父上が言ってた!」

「そうだそうだ!」

「なんで魔族もどきがこんなとこにいるんだよー!」


 囃し立てる男の子たち。

 リオンと違って全然可愛くない!


「私のリオンは魔族もどきじゃないし、」

「姉さま……」


 途中で不安そうなリオンが硬い声で小さく私を呼ぶ。

 だけどごめんね、リオン。このまま言われっぱなしなんて姉様は耐えられない。


「それに魔族もどきだったらなんだって言うのよ!魔族もどきが悪いってなんで?どうせ何も知らずに言ってるんでしょ!」

「なんだと!?」


「もしも魔族もどきだったとしても、なんなら魔族そのものだったとしてもリオンはリオン!こんなに可愛い私のリオンが悪い存在なわけがないでしょー!?こんなに可愛いのにっ!!」

「は、はあ……?」


「どうしても私のリオンをいじめたいなら、私を倒してからにしなさい!」


 前、冒険小説で読んで以来、一度言ってみたかったセリフ。言いながらちょっとだけワクワクしてしまったのは内緒だ。


「この!お前さっきからうるさいんだよ!」


 3人の中で1番体の大きな子が魔法を展開すると、他の3人も同じように魔力を練る。

 ふん!私に勝てるもんならやってみなさいよー!


 私、本当に魔法は得意なの。

 魔力量が多かったから3歳から先生をつけてもらって少しずつ練習しているし。


 こんな可愛くない男の子3人の相手なんて目じゃないのよね!




 結局、あっさり魔法を消された3人は、親に言いつけてやる!女の子に負けた3人だって言いふらしてやる!と言ったら悔しそうな顔をして逃げていった。


 またリオンをイジメに来るかもしれない……本当は四六時中リオンと一緒にいられるといいんだけど、さすがにそれはお父様が許さないのよね……。



「姉さま…!血が……!」


 リオンが目に涙をいっぱいにためて、私の顔に手を伸ばす。


「えっ?あ、本当だ。消す前の魔法がほんの少し当たっちゃったみたい。これくらいなんともないから平気だよ」

「……姉さま、ご、ごめんなさい」


 リオンは私に抱きついて、ついにボロボロ泣き始めた。


「ううん、私こそごめんね、1人にして。怖かったね」


 あー、リオン、可愛い可愛い。

 一通り泣いたあと、くいっと私の袖口を引っ張って、


「姉さま、ちょっとこっちにお顔を向けて?」


 そう言うから、私は素直にリオンの方に顔を差し出すように向ける。


「こう?」

「……はやく傷が、良くなりますように」


 リオンはおまじないの言葉を口にすると。


 そのままさっき怪我してほんの少し血が出ていた私の頬を、ぺろっと舐めた。


 ええっ!?


「リオン!?」


 思わずばっと向けていた顔を上げる。


「姉さまが、いつかけがしたとき、舐めてれば治るって、言ったから……」


 ……たしかに言った。言った気がする。


「ぼく、間違った?」


 しおしおと落ち込んでいくリオン。

 さっきまでぐずぐずに泣いていたおかげて目元はとっくに真っ赤になっていて。


「間違ってない!間違ってないよ、リオン!ありがとう!」


 ぎゅうっと抱きしめてそう言うと、リオンは少し恥ずかしそうに「えへへ」と笑った。




 弱っちくて、泣き虫で、すぐいじめられるリオン。


 これからも姉さまが、リオンのことを守るからね……!




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