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第二幕: 百聞は一見に如かず

「ちなみに、ジュア。こいつら私見たことないんだけど……」


 『キャスト』を操る腕を止めずに、素朴な疑問を投げ掛ける。

 私も一応魔王継承者ということで、大まかな異形の種類は覚えてきたが、虫型かつ巨大である個体なんていうのは見たことも聞いたこともない。


「ラントス、という個体のようですね。どうやら突然変異種のようです。……恐らく、昆虫ですらないでしょうね」


 答えながらジュアが指をタクトのように振ると、あからさますぎるほど派手な爆発が起き、ラントスやら有象無象やらが吹き飛んでいった。

 ……あれ、死んでないのかな? まあいいか……。


「虫じゃない? って、どういうこと?」


「戦いの最中にも知識を吸収しようとするその心構え……大変好ましゅうございます」


 嫌みらしい言い方だが、ジュアの本質を知っている私からすれば本心からの言葉だろうと容易に理解できた。


「まず、こういった蟻のような昆虫は巨大化に向いていないのです。なぜなら、人間のように身体の中に骨を持たず、外殻として利用しているので……」


「巨大化しちゃうと、肉を支えきれずに潰れちゃうから?」


 『キャスト』を使い装填した銃を腰だめに構え、そのまま適当に引き金を引く。

 『燃焼』の要素を得た光線が世界樹の薄暗い内側を露にしつつ空中を舞い、途中で彼岸花のように分裂して各々が異形どもを屠っていく。


「流石のご明察……その通りです。故に『ある種の脊椎動物が、何らかの要因により蟻の形が最適だと感じて変異した』と考えるのが自然でしょう。ですが……後にも先にも、巨大化した昆虫のモンスターは確認されていないはず……何らかの形、理由で隠蔽されていた可能性があります」


「お、じゃあドンピシャじゃない?」


  明らかな世界の穴、不自然さが露になる部分がよもや適当に入った()()で手に入るとは、と喜色をにじませながら、『無形』の要素を集め、反転術式を編む。

 私の目の前に現れた透明な膜にちょうど蛍が放ってきた光線が当たり、しかし私になんの被害も被らせることなく術者の方へ反射される。遠くで爆音が鳴り響き、甲高い声を上げて虫の体が爆散するのが視界端に見えた。


「ええ。……あの冒険者とおぼしき人間どもも尋問しておきましょう。なにか有用な手がかりが得られるかもしれません」



 結局、虫退治は私たちに若干の疲労を覚えさせたほどで恙無く終わりを迎えた。



 *



「た……たす、かった。礼を言う……」


 青白く、不健康そうな顔色でそう言ってきたのは、三人の中のリーダー格らしき赤髪の青年だ。ジュアの爆発に巻き込まれて、立派な装備の所々に煤が付き、ぼろぼろになってしまっているのがなんとも同情を誘う。

 おずおずとした態度を気にもしていないかのように、 ジュアが表情筋をピクリとも動かさずに詰問する。


「お前らは何故ここに? あの怪物どもが発生したのと関係があるのか?」


 語気の強い言葉に男がびくりと震え、「ち、違う!」と首を振る。


「お、俺たちだって被害者なんだ……。ああ、ちょうど今は新人研修をしていたんだ。冒険者の」


 青年がちらりと後ろを見る。そこには、憐れなほどに縮こまり、自分の存在を隠そうとしている二人の男女が居た。彼らが新人とやらなのだろう。


「それで、世界樹は難易度も低いし――採取能力も問える。臨機応変さも……だけど、ここで、見たんだ」


 「見た?」とジュアが眉を上げる。その仕草にいちいち怯えながら、「あ、ああ」と男が答える。


「何かよくわからない文言を吐いて、神官がここの奥から急に出てきたんだ。たぶん、標準語じゃない……ラーア語に近かった、と、思う」


 ジュアがこっそり「ラーアはいわゆる魔法都市です。外界と関係を遮断しているので……ビンゴですね」と、私に『キャスト』で補足してくれる。


「それからだ。怪しいと思いつつ中を眺めると……無数の羽音と共に、あいつらが」


 その光景を想像してしまい、思わず身震いしてしまう。虫の大群というものは、力の優劣に関係なく生理的嫌悪を引き起こすものだ。


「ふむ……嘘は言っていないな。……我々はその神官を追う。お前らはせいぜい残党に食われないよう逃げるがいい」


 明らかに悪者の言い方である。ジュア、言い過ぎじゃない……? と仰ぎ見るが、表情が仕事モードになっており、仕方ないかという気持ちが心を埋めた。


「ま、待ってくれ!」


「……なんだ? 言っておくが、傭兵の真似事は――」


 ジュアが男の要求を切り捨てようとした後、続く男の言葉にジュアが固まった。


「違う……まだ、礼をしていない。よければ我らの集落まで付いてきてくれないか? きっと、後悔はさせない」


 聞くからに「護衛を得るための方便」のような文言だが……その言葉はジュアに刺さるだろう、と苦笑いと共に表情を盗み見る。

 表情筋こそ崩れていないものの、私がわかる限りでも「百年前の人族集落の風俗」に対する知的好奇心が押さえられていない様子が見て取れた。


「――――――――――――――――――いいでしょう。ただし、この方に無礼を働いた場合はただじゃおきません」


「ジュア、敬語……」


 なんともまぁわかりやすい従者に、先日習ったばかりの諺……『聴は書よりも奇なり、験は書よりも貴なり』というものが、果たして故事なのかジュアの造語なのか、測りかねていた。

一応、魔法≠『キャスト』です。ラーアは『キャスト』を利用して、より強大な何かを成そうと国家ぐるみで研究してるやべー国です。

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