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第零幕: 枯れ果てた世界樹にて

シリアス展開が続くかどうかは未定。

でもどうせほのぼの路線になる。

 さあ、と枝の隙間を流れていく風が、(いたずら)に私の髪を弄び、どこへ行くともなく散っていった。もはや枯れてしまい朽ちゆくのみの木の葉がそれに文句を言うかのように音を立てて崩れていく。


「リーベ様、もう少し左を……」


「こ、こう?」


 ジュアの言葉に従い、照準を少しずらす。後ろでジュアが静かに頷いた気配を感じて、そのまま引き金を引いた。


 ごう、と緋の線が空中に走り、空気の焼ける匂いが鼻腔を侵す。思った以上の衝撃に身を硬くしつつ着弾点を見守る。


 途中までは狙い通りに飛んでいた閃光だったが、猛然と吹く風の影響を受けて少しずつ右に逸れていく。

 そのまま曲がった光線が、狙っていた鳥をピンポイントで撃ち抜いた。木の実をついばんでいた鳥がその身に赤色の弾痕を刻み、一拍おいてから力を抜いて墜落していく。


「っ! ジュア! 当たった!」


「おめでとうございます。お上手でしたよ」


 そう言い、拍手して褒めてくれるジュアに笑みを向けて、手元の筒――銃、という名の触媒らしい――を手渡す。ジュアが指を鳴らし、銃を収納したのを見届けてから、鳥の回収へと向かった。



 *


「……思ったより大きいね?」


 私が腕を広げても、頭から翼の先端ほどまでしか届かないほどの巨体を目の当たりにして、そう呟く。


「ええ。世界樹の影響を受けているのでしょう。世界樹の実から身体の巨大化を、葉から巨体を飛ばす『キャスト』を手に入れたのでしょう。存外賢いですよ、コイツ」


「おおう、そうなのか……。食べられるの?」


 『キャスト』を扱うような生物は、基本的に自分の身を守るための知恵があると聞く。じゃあコイツも毒とかあるのでは? と思ったが、ゆるゆるとジュアが首を振った。


「後天的に学んだからか、毒等はないそうです。以前人間の冒険者が食しているのを見かけました」


「……人間どもはとことん食に貪欲だね。死ぬかもしれないのに……」


「彼らもそれで果てるのならば本望なのでしょう」


 あからさまに適当な返答をしているジュアだが、気持ちはわかるためあまり気にしないようにしておく。


「ちなみに、コイツらの名称は『ユグ(ドリ)シル』だそうです。寿命が伸びるとかで市場でかなりの値段がついているそうで」


「……まぁ、人間らしいネーミングだね。知恵を戦争なんかじゃなくユーモアに振ったほうが良かったんじゃない?」


「人間という種族は頭の優劣がはっきりとつくものですからね。後者が率先して闘争に導いたのでしょう」


 そう冗談めかした言葉を吐いてから、左手で指を鳴らす。軽快な音が空間を走ると同時に、眼前の鳥――ユグドリシルの体積が急激に縮んだ。『キャスト』で血抜きやら内臓の処理やらを行ったのだろう。


「切り分けますか。これだけの量です、贅沢に使っても十日は持つでしょう。リーベ様、申し訳ありませんが少し離れていて……」


「……ねぇ、私がやってみてもいい?」


 私の提案に、ジュアが驚いた様子で――表情こそ変わっていないが――身動ぎした後、口元に微笑を浮かべて快諾する。

 その言葉に笑みを返して、ジュアから学んだばかりの感覚を思い出す。


 ……『キャスト』とは、簡単に言えば「魔法」のようなものである。


 「のようなもの」、というのは、吟遊詩人が唱う「魔法」と呼ばれるものより遥かに節制が多く、よっぽど使い勝手が悪いからだ。

 人工的な奇跡は神業にまでは昇華できず、ただ生活の一部を豊かにする道具へと成り下がってしまったのだが……それは飽くまで、人間の話である。


 人間が作ったとされる『キャスト』だが、何故か人間よりも魔族の方が適性があったのだ。現に、人間ならば修練に五年は必要とする術式を、私は習って一週間程度で習得できてしまっている。


 それでも、やはり練習は必須である。特に『キャスト』を使い始める際の感覚……異物が身体の中を這い回り、次第に浸透していく気持ちの悪いそれは慣れなければまともに利用することもできないだろう。


 ぐっ、と足を踏みしめ、イメージを固めて腕を構える。腕にぞわぞわした感覚が登ってくるが、なんとか手綱を取って腕に集まる力を御す。息を吸い、吐いて……先程の銃の要領で力を解放した。


 少し間が空き、失敗したかと落胆の感情が腹の底に溜まってきたとき、思い出したかのようにユグドリシルの身体が細分化される。布の上に散らばる肉を見て、成功した喜びのあまり笑顔でジュアの方を振り向いた。


「素晴らしいです。コントロールも十分、暴発もなし。『無形』適正があるとは思っておりましたが、ここまでとは」


「えへへ、ありがとう。ジュアの教え方のおかげだよ」


 嬉しそうな私の顔を見てか、ジュアの表情も心なしかほころんでいるように感じられた。


「では、適当に調理しましょう」


 すっとジュアがどこからか錫杖(しゃくじょう)を取り出し、先に付いている小さな宝玉に触れる。ぱっと球が光り、瞬きをする間に一部の肉が湯気を上げて美味しそうな焼き肉に変貌した。ご丁寧に皿まで添えられている。

 その他の大部分は、燻製やら干し肉やら、保存が効くように処理されていた。


「……ちなみに、ジュア。今のは何をしたの?」


「今のですか? 『事象を省略』しました。偶に時間の神が叱りに来ますが……この程度なら許容してくれるでしょう。『無形』なので、いつかリーベ様も扱えるようになりますよ」


 そんな規格外な従者の言葉に目眩を覚えつつ、空腹を訴えるお腹に従って肉を食すことにする。



 ユグドリシルはそのユーモラスな名前に似つかわしくなく、かなりの美味だった。私ならばもう少しマシな名前をつけてあげるくらいには。



 *


「……では、()()()


 食事が終わり、満足感とともに休憩していると、ジュアが話しかけてくる。彼女がこの呼び方で私を呼ぶときは、決まって仕事の時間だと暗に伝えてくるときである。


「うん。えっと、『空間』でいいのかな?」


「ええ。先程お教えした術式をなぞって、過去に意識を紐付けるだけでよろしいかと。サポートがあります故、失敗する事はございません」


 そのジュアの言葉に頷いて、すくと立ち上がる。手を前に広げ、『空間』の要素を少しずつ取り込みつつ過去の情景――この樹、『世界樹(ユグドラシル)』が言祝(ことほ)ぎの代名詞に使われていた頃――緑の葉を誇らしげに掲げていた頃を思い浮かべる。


 それは、過去を追体験する『キャスト』の術式だ。扱うのが難しいとされる『空間』の術式だが、今はジュアのアシストもあってか、かなり安定している。


 そのまま、私は緑と黒色――栄花と繁栄、滅びと虚構を表す色に包まれていく。



 過去に、この雄大なる樹に何があったのか。


 今や死と滅びの象徴と成り果てたこの樹に、引導を渡したのは何だったのか。


 ……どうして、この世界は滅びなくてはならなかったのか。



 それを知るために、私は過去に潜っていく。


 魔王としての、役目を果たすために。

要素っていうのは『めちゃくちゃ不便な魔力』みたいなものです。いちいち種類を判別しなきゃいけないし、不純物が混ざれば術式が崩壊しますし、自然由来なので多少限度があります。不便。


基本毎日19:00更新にします。何らかの都合等により変更、ないし隔日投稿になるときはまたお伝えします。

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