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白紙の庭  作者: メメ
8/11

7.

久しぶりに気持ちの良い夢を見た気がする。

いや、私が見た夢の中で気持ちの良い夢なんて見た記憶がないから多分今日が初めてだろうか。

ベッドから転げ落ちて起きた少女は目元までかかった長い前髪を手でずらした。

いつもの白い天井が目に映った。

もしかしたらまだ夢の中なのかもしれないと、辺りを見渡す。

机の上に置かれた観葉植物。木製の写真立て。私があまり好きじゃない小説家達の本が埋まった本棚。

全てにしっかりと色が映った。


本当に戻ってきてしまったことを理解して、少し寂しい気持ちになる。恐らく少女はもう少年とは夢の中で会う事はないだろう。現実の方でも正直な所、出会える保証がある訳では無いからもしかしたらさっきの夢で私と彼が会うのは最後なのかもしれない。

コンコンコンとドアをノックする音が聞こえる。

どうぞと声をかけるとドアノブを引く音と「随分と大袈裟に落ちた音が聞こえたけど」と優しそうな男の声が聞こえる。

この家に住む男性なんて父親1人しかいないのだから父親だと言うことになる。最も私はあの人を父親とは認めていないけれど。


「久しぶりに面白いことになったの。でももう終わってしまったわ」

いつも通り距離を取ろうと、ぎこちなく冷たい言葉が出る。

あの人はその声を聞いて安心と悲しみの表情が同時に出た笑みを浮かべてから扉を閉めた。


私の領域からあの人の存在が完全に消えてから、ようやくまともな呼吸を始める。

あの人と私にはまともな血が流れている。

ちゃんとした父と娘だ。ただ単純にあの人の事を私が父親と認めたくないだけなのだ。

あの人の職業は小説家だ。昔はあの人の本が本屋さんや図書館に置いてあるだけで、喜んでたし友達にも自慢をしていた記憶がある。私の父親はすごい人なんだと自覚して私自身が恵まれた人間だと思われたかったのかもしれない。

あの人は普段、この家から出ることはなくパソコンで文字を打つ毎日だ。


お母さんと弟はいつも2人で1つの存在となっていて、私がなにかを言うと「今は忙しいから」と後にされてしまう。いつもの事だがこれは弟がまだ園児で、自分のことを1人でできる歳じゃないから仕方ないのかもしれない。

私の悩みは積もる一方なのだ。そしてその悩みも実にくだらないと思う。


小学四年生位の時、私は父親が異質である事を初めて実感する場面に遭遇した。

『 私の親』と言う題名の作文を道徳の時間に発表することになった。私の親は授業参観には来なかったが、ほとんどの親が来ていて彼ら彼女らはみんな堂々と自分の親についての作文を発表していた。

私はそこで衝撃が走った。親がいなかったからとかクラスメイトが堂々と発表できるからとか。そういう物ではなく、ただ単純に私の親が異質過ぎると感じたからだ。


私の番が回った時。私の唇は震えて声に出すことが出来なかった。


「この作文の親は、私の親じゃないかもしれません。」

私はそれだけを言って教卓から離れた。

クラスの空気が一気に冷めた。先生は動揺して、言葉が出なかった。ブーイングのようなものが起きることも無く、ただただ私だけを見ていた。


「僕の親は、かなりテキトーです。」

誰もが私を注目する中、1人の少年が勝手に発表した事で私への注目が彼の注目へと写り始めた。

彼も彼で私の中では異質に近かった。彼の雰囲気はクラスメイトとは違っていて、自分から好きで浮いている感じだった。

彼の瞳に映る世界はきっとそのまま世界を映す鏡のような存在になるんだろうなと感じさせるほど、無機質な目をしていた。

彼の口から発せられる言葉の数々は他の人たちが見せた親の綺麗なところだけではなく、彼自身が不満に思っていることをそのままこの教室で、クラスメイトや彼以外の親が見ている教室でその作文を読んだのだ。

彼の母親と思われる人は周りの親に笑われていて、恥ずかしそうな表情を浮かべていたが、彼は表情を変えることなくそれらの不満を感謝と同時に発表した。


「最後に、この作文は自分の親についてというタイトルだったので、”僕”は両親に思っていることを全て書き記しました。きっと僕の親は不満を聞かされただけだと思っていそうですが、僕は僕なりに感謝の気持ちを伝えています。こんなに不満が書かれているのはその感謝を上回るほど不満があるからだと思います。」

彼の二分ほどの作文が終わった時にはクラスの男子生徒は皆面白がって笑っていて、私が作った場の雰囲気を塗り替えていた。



発表会の後、私は先生に呼び出され先生は私の作文を軽く読んだ。

一枚しかない作文を一分ほどかけて読んだ後、先生はちゃんと書いてあるのにどうして発表しなかったんだ?と強く問いただした。

私はびくりとはしたけど、怖気ず先生に私の思っている内容をただただぶつけた。

父親が小説家として私の父親だということ、周りのみんなが私と違って普通の生活をしていて私の家が異端に見えてしまう事。私の近頃の溜まりに溜まった不満が爆発した。全部言い終えていい気持はあまりしなかったけれど、先生がこの感情を思春期の特徴だと教えてくれた。

私は一気に何もかもが嫌になった。男性教師から思春期とだけ告げられた結果、私の中で私が普通じゃないのではないだろうかと思ってしまうようになってしまったのだ。

私は普通になりたかった。皆から変な目で見られるんじゃなくて、皆と同じようにみんなと同じような扱いを受けていたかった。

私のすぐ後に発表した彼の様に、おかしな人なのに普通に扱われているような存在に無償なりたかった。

自分を殺さなくてものびのびと普通を生きていられる彼に憧れを持っていた。


......いつしか私は一つの夢を見るようになった。

それは夢の中の皆が白い色をしていて、全ての建物が無色で続いている夢だ。

その世界ではすべての世界が白が普通の事だと感じた。そして私の色も《《白》》だった。私は夢の中でようやく普通を得られたのだと嬉しがっていた。

その夢ももう終わってしまったけれど......さらに言うと私の色は白なんかじゃなかったけれど......





僕は布団から起き上がると思いのほか軽くなった体が異様に気になった。

恐らく熱が上昇しすぎて正常な判断ができていないのだろう。

インフルエンザ二日目。これ以上ない退屈な時間をもてあそぶのは久々だ。

普通にゲームで時間を潰すというのを僕の世代の人たちはやるだろうけど、あいにくと今の僕にゲームをやる気力は残っていない。

最近はゲームを買うこともほとんど無くなって特にこれといった趣味もなくなってしまった。

時計の針が十時を指していたので、両親はもう家にはいないだろう。

リビングの方へと移動すると、いつも通りラップのかかったお皿とごはんが机の上に置かれていた。ごはんの隣には置き手紙があり、『朝ごはんはこれですが昼は自分で作ってください。』と書かれている。インフルエンザの病人に家の食材を触らせるのは衛生的に大丈夫なのだろうか......少しの不安と母親のテキトーさには相変わらず呆れてくる。

白米と卵焼き。キャベツをちぎっただけでサラダといいはるキャベツだけの物だった。

今日はよほど忙しかったのだろうか、キャベツの葉を一枚めくっただけのものがお皿に置いてあるあたり、寝坊をしたか相当急ぎの用事があったのだろう。それでも朝にご飯を作っておいてくれるのはありがたく思う。

朝食を取り終えて薬を飲み終えると、テレビに電源を付ける。プツリと音を立てて、板の中に映る男性が今話題の事件について話している。

番組欄を変えて色々な局の番組を覗いてみるが、どれも面白みのある番組は見当たらなかった。

特に気になるものが全くなかったので、僕はここ最近の番組を見ることにした。つい最近、一週間前の番組も録画できるテレビに買い換えたのでこのためにテレビを買ったのかと錯覚しそうだった。

テレビのタイムシフトを見て気になるものを探していく事にした。

お笑い番組や人気のコメンテーターが流行りの物を紹介する番組、さまざまな物を眺めて時間を削っていく。

こうも考える必要性の無い時間が増え続けると、脳にカビが生えそうな感覚に陥りそうだったが、きっと彼女もそう思っていたのだと思う。


結局のところあの夢の最後はどういうことを僕に伝えようとしていたのだろうか......青い光が意味するものはなんだったんだろうか。

ふいに夢の内容を思い出した。どうして色が存在しない世界に色が走ったのか。そして、色の中でもどうして青だったのだろうか......いや、あれは青というよりかは青白かったような気もする。一瞬の光で目が覚めたから鮮明には覚えていないけれど、なんとなく強くて青白い光だった覚えがある。


僕はテレビを付けたまま自分の部屋に戻る。

布団の周りに何か光るものはあっただろうか。その確認のために部屋の隅まで探した。

よくわからない壺や勉強机があって、部屋の中で光るものと言えば勉強用のライトと部屋の照明くらいしかなくて、どちらも普通の照明の色、白に近い色が部屋を包み込んだ。

つまりあの夢の最後の青い光は、夢の外から起きた現象では無かったみたいだった。


......とりあえず、色の意味だけでも調べてみるか......


昨日の母親が見ていた夢占いの番組を探し当て、その番組を流しながら家に一台しかないデスクトップパソコンの電源を付ける。パソコンの画面に張り付けられたピンクのメモ用紙に書かれたパスワードを打ち込んでインターネットを開くいて色の意味について調べる。


『というわけで、今回はゲストのモグリさんの悩みが変な夢を見るということで、彼女の夢を占い師のカキバヤさんに見てもらいたいと思います!!』


青い光の意味と検索をかけると、一番上に色別のオーラについての記事が目に入る。リンクをクリックして、青の項目を調べる。

青の象徴は意思、知性を意味している。学問、芸術、プログラムの傾向があり知識欲の強さが見える。


『はい、次に金魚になる夢を見た場合はですね......運気の向上が見られます。ですが一方で問題もありまして......』


なんとなく意味では今回の内容に関しては知識欲、知ったり考えたりする力としては間違っていないように見える。

彼女はどちらかというとこう言ったものを持っていそうで意味合いとしてはあり得る。


一応青の系統も調べてみるか......


『次に旅行に行く夢を見た人は...』

ピクリと体を動かす。なんとなくそのことが気になった。

恐らく無意識のうちに今の情報が必要なのだろうと直感的に理解した。果たしてテレビに流れる情報はどれほど僕にとって有益な情報を得られるだろうか......


録画された映像を巻き戻して欲しかった部分まで巻き戻す。





......インフルエンザが完全に消えてもう外に出てもいいのに彼はまだ出れないし、学校は学級閉鎖だしなんてタイミングが悪いんだ。

月曜日。約一週間待ち望んでいたのによりにもよって彼が学校に来れる前日に学級閉鎖を起こしてしまうとは......私と彼だけで授業を始めることはできないのだろうか、いや無理があるか。


私は、社会の決まりで会えなくなってしまったこのもどかしさへの発散方法を考えた。

彼と火曜日に学校でと約束してしまったが、彼は来るのだろうか......

いや、来ないだろうな彼はそういう賭けには出なさそうな人に見える。

そもそも彼の電話番号も知らないし彼が少年くんだという確証もない。一人称が僕という所から彼しかいないのだろうけど......


私の心は乱されていた。彼との夢を見てからはどうしても彼と話してみたくて仕方がなかった。早く彼の答えが知りたい。早く彼に会いたいと細胞レベルで彼を欲しがっている。

どうしようもない感情をコントロールすることが難しくて、無意識に体がそわそわと動こうとして、落ち着かせることが困難なようだ。


「────。」

口を閉じたまま何かを叫ぼうとした。何を言おうとしたとか特別な意味はないけれど、とにかく自分の中にたまりにたまったエネルギーを外に出しておきたかった。

なんでもいい、この溢れるエネルギーを何かにぶつけたい。私は勉強机の引き出しからノートとペンを取り出し、さらさらと自分の中の物をぶつける。こうして自分の思っていることを書き込むことで幾分かましになっているような気がする。

自分の部屋にこもって一人で熱心に何かを書くさまは、あの人に類似するものが見える。やはり拒絶をしようと家族の血は変えられないのだろう。

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