6.
小学四年生に入った時から僕はきっと、今の小学生とは価値感が違っているんだろうと思った。
彼らの笑う内容、見ている番組、勉強への集中の仕方、しゃべり方、いろんなものが自分と違うように見えてならなかった。
最初の頃は彼らが何か病気か何かで成長の進みが遅くなっているのだろうと思っていたが、どうやら違っていて僕の考え方が彼らと違うように成長してしまったのだと考えるようになっていた。
その時あたりから僕の一人称は俺から僕に変化していた。自身の喪失のようなものだろうか、”俺”と話す小学生高学年が多いことに対して僕だけが”僕”と名乗るようになった。
彼らは好き勝手に楽しく人を傷つけて遊んでいるような気がしてならなかった。
きっと僕だけが意味もなくそこまで考え込んでしまうのだろう。だから僕は人とは話すけれど、彼らと同じように深く入り込んだ話はしなくなっていた。
赤いあのジャージの先生は僕の顔をみて、君は優しすぎると言っていたけど優しすぎるあまりに自分が思っていることを百パーセント出せないのでは自分で自分を傷つけてしまうだけではないだろうか......僕自身が今の僕の事に不安を感じている。あの言葉を言われて一年ほどたっているけれど、僕は何かの変化があったわけでもなく一生こんな損な性格と過ごしていくのだろうと思っている。この性格を変えようと思っても恐らくよほど強い意志でもない限り変えることはできないだろうし、泥の様にへばり付いているこれは、自分一人では剥がすことが出来ないのだろうと思っている。
だからこの人生においてこの泥は一生しがみついていて、日に日に歩いている足元に泥を絡ませて最終的には身動きを取れないようにしてしまうのではないか、顔までついた泥のせいで僕は呼吸もできずまともに生活ができなくなってしまうのではないかと何度もそんな夢を見たことがある。
不安で不安でたまらない。生まれてから十年と少ししか生きたことがない僕にとってこれほどまで未来を不安に感じることは恐怖でしかなかったのだ。この夢は終わることは無い。いつも中途半端で変わる事のないループ状の映像を流し続けている。
だからこそ、僕はこの白い夢には感謝をしている。生きてて久しぶりなのか、むしろ生まれて初めて僕の夢にストーリが流れ始めたのだから。
全く持ってこの夢の意味は分からないし今まで見てきた夢とは違った意味で苦しくて好きだとは言わないけど、たった二人しかいないようにみえるこの夢物語は僕にとっては嫌いではなくむしろ続きが気になるほどに、僕はこの夢をすいていたのだろう。
きっとこの夢は僕だけではなく、どこかにいる誰かと同時にこの夢を見ているような感覚があった。
そうじゃなければ僕がこの夢を見ることが出来ないだろう。彼女がいなければ、僕はこの夢を見ることは無かったのだ。
これは彼女の夢だ。彼女の中で作られた彼女の世界に僕という異物が入り込んだ。
そんな感じなのだろうが、そう思うことで僕は少し申し訳なさそうに思ってしまうことがある。
それはトンネルの中、彼女がひたすらに結末から遠ざけようと考えていたのは、もしかしたらもう少し僕とこの夢を見ていたいのかもしれないと考えていた。考えすぎかもしれないけれど少女ちゃんが僕の事を少なからず気に入っているのではないだろうか。そんな気がしてならなかった。もしかしたら彼女自身も僕と同じで現実世界に何かしらの不安を持っていて夢の中で魅かれ合ったのかもしれないなと考えると少し面白く感じた。
可笑しく思えて笑っていると足元に熱い何かがふりかかった。
*
パチパチと音を鳴らす暖炉の周りに僕と少女ちゃんは囲む形で座っていた。
ビュービューと強い風の音が聞こえてくる。自然な音が大きく聞こえるほど彼女と僕は黙ったままだった。
遂に耐えられなくなって先に沈黙を破ったのは僕の方になりそうだ。
「「あのさ...」」
お互いに一度だんまりを決め込んで、その後はよくわからないプラスの感情が湧き溢れて笑ってしまった。
「あのトンネルでの出来事であの後どうしたの?」
その後にお互いが譲り合う形になったので僕から少女ちゃんに問うことにした。
「最初は追いかけようと思ったけどめんどくさくなって元の方向を向いて歩いていったらここにたどり着いたって感じかな。ログハウスには君が来る前から実はいたんだよね。ドアノッカーでトイレと同じ回数ノックをするとは思わなかった。」
ああいう場合は三回ノックするもんだよと助言をかける。その後のポルタ―ガイスト現象も、勝手にドアが開いたのも彼女の仕業だったようだ。
「結局あのトンネルのどちらの道を進んでもこのログハウスにはたどり着いたわけか。」
「でも、そっちはトンネルだったんだね、私の方は扉が一枚あるだけだったから...…」
彼女はそういって玄関の方に人差し指を突いた。
「なるほどね、結局は少女ちゃんの方が近道だったんだね」
僕はため息をついて、少女ちゃんを見る。
「私からも質問いい?」
少女ちゃんは僕の顔を眺めて直接聞いてきた。
「どうして私から離れようと思ったの?」
僕の喉元はつつかれ、一番適当な言葉を探し当てることに時間がかかった。
その間、場をつなぐように、えーと。とかそうだな等をつなげて長い時間の静寂をさせないように無意識に声を出していた。
その間彼女は僕の瞳を離すことなく、僕の言葉に耳を傾けていた。
「僕はこの物語を進めていく中で、少女ちゃんの存在はキーマンみたいな存在だと思っていたんだ。君と一緒にいたから初めてみた白い街から抜け出すことが出来た。だけどトンネルの中でも君はなんとなくだけど僕を夢の結末から遠ざけようとしている気がしていたんだ。君の顔を向けたときに直感でこのまま行ってはいけないと感じてしまったんだ。」
目を泳がせている為、凄く嘘くさく見えてしまっただろう。
彼女は僕の目をじっと見つめていて僕を逃がそうとしなかった。
決してうそをついているわけではないということを理解しているように彼女は見ている。
僕は熱心に聞いてくれる彼女を見てだんだんと彼女が起こってこの事を聞いているわけではないということを感じ取った頃には、スムーズに今まで思っていたことをそのまま彼女にぶつけていた。
僕の話を聞き終えると彼女は満腹の子供のような顔をして優しく僕の行動を許してくれた。
「ここでやっと私のこの夢は私だけのものではないということがわかったよ」
彼女は得意げに僕に説明をしようとしてきた。本当は少し前からこの夢は僕だけのものではないと気づいていたけれど、彼女の得意げな顔で説明をしようとするその表情をみて、相槌を打つようにした。
彼女の楽しそうに僕に語るその顔は今までの彼女のなかで輝いて見えた。
思っていることは大体のところ僕が思っていたようなところだけど、彼女自身の夢が無個性な世界の中にいるたった一人の少女の夢だったとは思わなかった。
「でも、君自身が僕の夢なんて言わない限りこんなことには気づかなかったとは思うけどね」
彼女は僕にそういって、燃えて割れる枯れ木が少なくなっていくのを見てまた枯れ木の追加を暖炉にぶち込んだ。
勢いよく明かりが部屋中を包み込む。
「さてと」
僕は彼女を再度確認する。恐らくもうこの姿の彼女を見つけることは無いのだろう。
「この物語の終点はいつたどり着くと思う?」
僕の一言に彼女は諦めがついたような笑みをして、僕を眺めた。
「......やっぱり、この夢物語の完結を少年君は見たい?」
「そりゃあ見たいよ、このまま足踏みだけをしてずっとこの場所にとどまるのも癪だからね。」
僕の回答を聞いて彼女は黙ったまま話を聞いて頷くだけだった。
「それなら仕方ないね......私はもう少し君との会話を楽しみにしていたかったけど、そういう時間も今夜で終いかな」
彼女は優しく微笑んだ。
「本音を聞けて嬉しいよ。」
僕は彼女を傷つけないような言葉を瞬間的に出していた。
この言葉に嘘はないはずだけど、彼女への言葉を考えるならこの言葉では三十点だ。
事実、彼女はその言葉を聞いて初めて愛想のよさげな笑みを浮かべた。
「それじゃあ終わりも近づいてきたことだし、私から少年くんに幾つか問を出しておきたい。この答えは、今じゃなくてもいいからね」
Q1・少年くんは初めてこの夢を見て、どう思った?
A・初めてこの夢を見たとき、白い街の風景だけでこの夢には恐怖を感じた覚えがある。この夢は僕の夢じゃない。この夢事態が僕という存在を拒んでいて僕を追い出そうとしているような気がした。
僕は僕自身が思った出来事を彼女に伝える。さっきのような誰にでも言えるような優しいだけの回答ではなく、自分を差し出すような気持ちで回答するように専念することにした。
彼女はその解答を聞いて満足のいったような顔をして次の問いをかける。
Q2・夢から覚めた後もあってくれる?
A・確定で会えるかは分からないけれど、多分お互いに誰かはなんとなく理解していると思うから次に会った時には確信に変わる自信がある。
多分まともに話すのはその時が初めてだろうけどねと彼女は僕に微笑む。やっぱり彼女も僕が誰なのか理解しているみたいだ。
彼女からみた僕がどのように映っているかは分からないけど、僕から見た彼女はあまりにも現実から離れていて、見た目......特に身長が違いすぎるからだ。
部屋の唯一の照明を担っている暖炉の火が弱まりだしたので、僕と彼女は最後の枯れ木を入れようと探すが、白い木が一本も無かったが、僕がトンネルで汚してしまった灰色の泥が付いた木材を手にして暖炉に投げ込む。
Q3・結局のところ、君はこの世界の旅を見てどういう風に感じた?
この最後の問には、僕が答えるよりも先に彼女は、彼女なりの回答を出した。
「私の中でこの夢は今まで未完成だったんだと思う。いつまでも動きそうにない夢を見ていて、白と黒しか見えなかった。白い人たちはただ黒い人たちを悪だとみなしていたかそういう物なんだろうと思っていた。でも少年くんと出会ったことで色々と知ることができたんだ。私自身、黒の街には行ったことがなくて白の街にまれに見る黒い人しか今まで見たことがなかったからね。」
今までの彼女が説明してくれていた夢の中の世界は、今まで見てきた経験から来ていたようだ。
「私のなかでの答え合わせは、この夢はきっと私に今までの固執的な価値観を変えていく必要があると伝えているんだと思うんだ。」
彼女は僕に今までで一番楽しそうに、彼女なりの答えを導き出している。
その熱心に告げる彼女の表情を見て、僕も僕なりの回答を考える必要があると十二分に理解した。
その後も彼女は僕に彼女の解答を答えていたが、その間僕自身の回答の方に考えが移ってしまっていた。
彼女の回答が終わると同時に、この夢の終わりがすぐそこまで来てしまったことを実感する。部屋全体の明かりが一気に消えて、弱い火が灰色の泥に接触しているようだった。
「きっと私が自分勝手に納得と充実しちゃったから、私自身が夢に覚めようとしているんだね。」
ごめんと彼女は謝りつつ彼女の体は暗くなった部屋に順応して暗くて見えなかったが、もしかしたらすでにこの夢に肉体が消滅していて声だけになっているかもしれない。
泥に接触し続ける僕たちの残りの夢は懸命に生き延びようと頑張っている。
「じゃあ、僕の回答は後日また会うときでいい?」
「わかった。場所は二人に一番思い入れがある場所にしておきたいかな」
彼女の言葉を聞いて当てはまる場所は一か所しかなかった。というか彼女と話したのはその場所以外では記憶にない。
「......一週間の間、僕はその場所には行けないんだ。だからこの回答はその時までお預けになってしまう」
一週間も?と彼女は問かけようとするが、すぐにあぁ。と納得をする。
「それじゃあ一週間後の火曜日に待っているよ」
僕がわかったと約束に応じると同時に、夢の灯は燃え尽きた。
瞬間、僕たちを純白の雪から守ってくれていたログハウスから強い光が僕たち二人を包み込んだ。
彼女の姿を認識できなかったのでもしかしたら僕たちではなく僕だけだったのかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。
この夢の最後の問を答える前に僕は、僕自身で一つの疑問に答えを導く必要を作ってしまった。
──瞬間、青の閃光が世界を走らせた。
*
僕は布団から起き上がる。
一日中寝ていたようで外からさっきの光とは別の太陽の光が部屋を照らした。
布団の中は汗を沢山吸っており、体のだるさは少しばかり楽になっていた。




