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白紙の庭  作者: メメ
6/11

5.

どうして僕は今、先の見えない空間で倒れているのか、僕の体の灰が床にこぼれているのか、隣に少女ちゃんが座っているのか疑問でしかなかった。

ついさっきまで見ていた夢では実際に黒い街で僕と少女ちゃんの距離が縮まっていることは感じていた。夢の終わりが始まった時に、彼女が僕の目の前から消し飛んだ記憶があるがそれ以降の記憶は全くなく、こうして戻ってきた時には僕のすぐ隣に体操座りをして座っていた。

辺りを見渡すと、そこはいままでみたこの世界の風景の中で一番殺風景で、いや殺風景どころではなく何もない。近くに壁らしきものが見つからないため、もたれかける事すらできない。何か障害物や機械が置いてあるわけでもなく、ただただ白い空間だけが僕と少女ちゃんの周りを包み込んでいた。

僕は後頭部に若干のじりじりとした痛みを感じてを右手で押さえて立ち上がった。彼女は僕が立ち上がった時に、少し大げさ気味にびくりと動いたけど、それでも彼女はいつもみたいに僕から距離を取ろうとはしなかった。相変わらず僕が顔を見ようとしても彼女は顔を向けてくれないけれど。目のあたりまで伸びてしまった髪の毛の下から透けて見える少し大きめなぱっちりとした見開いた目をみて、下手をすれば人間の構造的に見えないはずの物すら見えてしまいそうな気がして、すぐに顔を見るのをやめた。

.....ただ、彼女のどこまでも透明で見えた横の顔だちはとてもきれいにまとまっていて僕の目に焼き付いていた。



「......ここは......?」


動揺を隠すために僕はもう一度景色を見わたす。以前までの様に山や街、人ごみなど、何か背景や特徴となるものがあるわけではない。ビルや森のような特徴的でわかりやすいシルエットが見えない。ただただどこまでも広く終わりがない一本道の様に続いており、立ち上がると、彼女は僕が歩くスピードと同じ速さで、隣を歩いていた。

僕は二度三度、彼女をチラチラと見た。彼女は僕の視線に気にするような仕草は見えなかったが、力みのある表情が見えたような気がした。

ずっと前だけを見続ける彼女と同じように僕も前だけを向いて歩くことにした。


「どうして待っててくれたの?」

僕は少しためらって彼女に尋ねた。

僕にとって彼女の印象は少なくともいい印象ではない。彼女は自分勝手で嘘をつくことがなくて、他の人間には興味がなさそうにみえる。そんな印象を僕は持っていた。

そんな彼女が僕のために待っていてくれたなんてことがあり得るのだろうか......はなはだ疑問ではあるけれど、事実彼女は僕の事を待っていて、こうして隣を歩いていることが僕の目には確実に映っている。


「......?、元々私たちは最初からこのトンネルにいたみたいだけど運んでくれたわけではないんだね」

彼女は不思議そうな顔をして僕の目を見つめる。


............


「そう......なのか?前に黒い街に行った後の道中の記憶が全くなかったから。」


「そう......私もそんな感じ」

彼女はそっぽを向いてこの話を切ろうとした。

恐らく彼女は僕には伝えられない何かを隠しているのだろう。

直感的ではあるが、普段の彼女であれば僕と話すときに顔は僕に向けることはないけれど、彼女の出す言葉には真っすぐと偽りがないような思った感情や思考をそのまま出してしまう人間だと思っていた。

だから彼女のいまの言葉はどちらかというとすっきりしないような、言葉に表すことはできないが彼女の声に籠った感情が僕に不安を煽った。


「まぁ、少女ちゃんは僕より先にどこかに行ってしまったから仕方ないか」

いや、もしかしたら本当に知らないだけで、僕より先に消えてどこかに行ってしまったことに申し訳なさを感じているのかもしれない。


彼女は何も言わずに前だけを見て進み始めた。

透けて見える髪の毛の一本一本が、細かくやわらかに僕の目に見せつけるように前に足を速める。

どうやら僕は、彼女に距離を置かれるようなことをしてしまったようだ。

僕が足を彼女の隣に追いつくように足を速くしてみると、彼女もまた先に行ってしまった。


何処までも続く、本当の意味で何も風景が変わる事すらないただただ白いだけの空間を進んでいて、何も進展がない。永遠の時間をずっとこの場所に保存されているような気がした。

聞こえるのは二人の足音がいつも以上に余計に大きく聞こえるような気がする。


「この場所の出口が速く見つからないと気が狂いそうだな......」

いい加減つかれてきて僕は思わず弱音を吐いてしまった。

彼女は僕の言葉を聞いて数秒間だまって歩いていたが


「この空間は私自身もよく知らないから出口が分からないんだよね......」

少し弱気に話す。本当に知らなそうな声色をしている。とりあえずいつも通りただただまっすぐ進むだけで彼女の後姿を追っていくだけだったが、今の僕は一度、少女に不信感を感じてからずっと彼女の事を信じきれない自分がいた。どういうわけか今までの彼女ただただまっすぐゴールに向かって歩き続けるような感じだと思っていたが、今の彼女にはそれを感じられない。少なくとも僕の夢であるのなら、彼女はこの夢を進めていく上でのキーマンのはずで、そんな彼女がこの夢にここまで長引いた時間を見せるなんてことはあるのだろうか......すくなくとも僕はそこに違和感を抱いている。

今回の夢を進めていく上でのキーマンはもしかしたら彼女ではないのかもしれない。


自分の中で疲れがたまったのか、それとも僕自身が夢で何かを感じたのか、僕はふいに足を止めた。瞬時に彼女も足を止め、僕の方を振り向いた。

その透明な顔からは感情までもが透き通っているように、僕の目からは直接彼女の焦りが見えてしまった。

直感で彼女の行動は、少なくとも今回に関しては意味がないどころか恐らく夢の話を進めていく中で妨げにすらなりうる存在だということを感じ取った。



僕は葛藤する間もなく彼女の進んでいた道に背を向けて走り出す。

突然逆走をした僕を見て彼女はどう思っただろう、彼女の透明な顔を見れば恐らくは一瞬でその感情もつかみ取る事も出来てしまうだろう。だけど、僕は彼女の顔を見る暇もなく前に進む以外に道を無くしてしまった。僕は彼女にある種の裏切りをしてしまった感情を思ってしまった。彼女の足音が急速に遠のいていくのが分かる。

彼女の足が僕より遅いのではなく、彼女との心の距離が徐々に離れていっているような気がした。

軽い足音と規則的な速度の呼吸が空間で反発しているように聞こえる。

その音は僕一人の物で、彼女の音はついに聞こえなくなった。

少しずつ足の速度を落として、歩くくらいの速度で道を進む。

心臓がとにかく痛む、これが単純に走りすぎたことによる負荷か、彼女への罪悪感のような物か、恐らく両方なのだろうけど。


いままで自分が勝手に味方だと思っていた唯一の人間を、自分の足で振り払ったのだから自分でやったことで自分で傷つくなんて自業自得なんだけど......もっとうまくいく方法はあったはずだろうに。

空きすぎてしまった距離で、僕は一人で後悔をしていた。


歩きつづけると、目印になるくらい目立った場所に行きついた。

白いだけの空間で唯一ある異物が地面に染みついていた。

乾き切れていない僕の灰色がべっとりと地面で面積を大きくして蠢いていた。

実際には動いていなかったかもしれないけど、現在の自分の勝手に傷ついた心が完全に灰色になりきれていない白や黒のダマがところどころ見えるこの液体を気持ち悪いと思えてしまったのは事実だ。

まぁ、これがなければ自分がどこまで進んだかは分からなかっただろう。


そう思っていると手に以前買った白い枯れ木を一本持っていることに気付いた。

床に散乱している木の棒を集めて、うごめいていて見える灰に突っ込んでみて、白い木の先端に灰色の液体が、ベっとりとへばり付いているのを見て床に擦り付けた。


一つの矢印を描いて僕はその矢印の先に進むことにする。

彼女に僕との距離をもとに戻そうと考えているのなら、きっとこの矢印通りに向かってくれるだろう。

彼女が追い付けるようになるべくゆっくり歩いてみた。なんだかんだで僕自身が彼女と仲直りをしたいだけなのだと自覚はしている。それを自分から行うのはバツが悪いからそういうことが出来ないのだ。おかしな話だけど。

けれども彼女の存在を僕の背後から感じ取ることはなく、そのまま歩き続けて最終目的地のようなところにたどり着いてしまった。


その場所を見て僕はようやくこの場所がトンネルの中だったことに気付いた。

かまぼこ型の窓の先にモミの木に囲まれているのがわかった。窓を通り抜け、目に見えない冷たい物が鼻先に当たる感覚があった。すぐに鼻先の物が溶けて水になったことと、足元が文字通りくるぶしまで見えなくなったしまったことから雪が積もっていることは分かった。

本当に雪まで季節が進んでしまうとは......

とりあえず前を進んでみると、いかにも誰かの到着を待っていたというように、雪の中に存在感をただただ感じさせるログハウスが目の前に見えた。

そのログハウスは昔ながらにあるような感じでドアホンは見当たらずドアについているのはドアノブではなくライオンがわっかをくわえているドアノッカーが付いていた。


二回ドアノッカーをノックした。

しばらくは物音ひとつしなかったけれど


「キィ」と音を立てて勝手にドアが開いた。

中には誰もいなかった。

家の中にはだれもいなかったのだが、ドアをまたいで真正面に見える壁に『君はノックの回数も知らないのかい?』と書かれていて若干の恐怖を感じた。


部屋の内装はいたってシンプルで、キッチンと窓、机、広いリビングに置かれている真っ白なソファ。何故か少しばかり黒くついている煉瓦で出来た暖炉がある位だろうか......


壁に木目や年輪がうっすらと見えるところが木材で出来ている感じがしていて、今までで一番現実に近い雰囲気を感じた。


ひとりでに扉が閉まると僕は彼女を待つために白いソファに座りこむことにした。

体重をかけるだけでゆっくりと沈み込むソファからは品質がよさそうだなと、貧相な感性でしか感想が出なかった。

それからはいつもの夢の様に永遠に近い時間を感じた気がした。

その間に、不思議なことが二度、三度起きた。勝手に持ってきた枯れ木が動いたり、その木が僕の頭に当たったり......ポルターガイストが起きていた。

彼女と話して歩いて進んでいた分、むしろさっきのトンネルよりもこっちの方が恐怖映画の本場みたいで、いつも以上に長い時間をなにかから待たされている気分でいた。


だんだんとポルターガイストも収まり、部屋中が静まり返ると再びソファの気持ちよさに吸い込まれ眠りそうになる。すでに僕は眠っているはずなのに夢の中でも眠くなるなんておかしな話ではないだろうか、そう思いはしても夢の中では欲望の赴くままに動きやすいためか、一瞬で僕の視界は暗転した。







パチパチと音を上げて足に火の粉がかかったことで僕は目を開ける。

部屋の中で若干暗くなっていた。煉瓦で出来たストーブは、僕が使っていないはずなのに火が灯されている。窓の外を見るとさっきまで見えていたはずのモミの木は消えていて外に何かを見つけることが困難だった。雪が積もりすぎたせいで外が見えなくなってしまったのだろうか。部屋全体が薄暗くなっている理由はわからないけど外からの光を入れることが出来なくなってしまったからだろうか......

それよりも、少女ちゃんはどうなってしまったのだろうか。かなり雪が積もっているのなら彼女も雪に埋もれているのではないだろうか

この状況の変化よりも彼女の事を優先しているところで僕の思考は正常ではないような気がした。


「そんなに透明の少女の事が気になる?」

誰かが僕の後ろで声をかける。

気になるに決まっている。僕の中で唯一ここまで仲良くなれた人は現実でも夢の中でもあの少女しかいないのだから......

声には出さないけれど、顔はそう語っていたかもしれない。

振り向いた先のソファに座ってなっていたのは、充分見えにくくなっている少女ちゃんが、僕の瞳の奥まで視線を入れるようにじっと見ていた。


「やっぱり気になっていたんだ。」

少女ちゃんの言葉には嘘のような感覚はなかったけれど透明な顔からは、複雑な感情が混ざり合っていて、純粋な一つの感情がこもっているようには感じなかった。

僕があの時あんな行動をしなければ彼女のこんな顔を見ることは無かっただろう。


「気になってはいたさ、君がいないと僕のこの夢は完結することはないんだから」

言い訳っぽく僕は本心を隠しして言葉を変える。

きっと彼女には僕の顔を見ただけで、大体の事は分かってしまうんだろうけど僕が彼女にしたことが彼女を傷つけてしまったのではないだろうかと心配しているなんて言ったら彼女は恐らくわらってしまうだろう。


案の定彼女は僕の顔を見てクスクスと口元を手で覆って笑う。

手元も透けて笑っているなんて簡単に見破れてしまうのに、馬鹿だなぁ。

僕も彼女の行動がおかしなものだと思えて笑えて来てしまう。

パキパキと枯れ木が燃えて割れる音を出しながら、少年と少女の笑い声がログハウスを包み込んだ。残り数本の薪が今か今かと彼らの手で灯にされるのを待ち望んでいた。雪に覆われたログハウス。そしてあたり全体は静寂だ。それは少年少女の物語の結末を待っているかのようだった。

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