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祖父母宅にて、七日目。ブレ伝世界、一日目。

本日二話更新です。こちらは二話目。

田舎での滞在が七日目になった今日。祖母は朝食を六時半には食べられるように仕上げる。

いつもならそれを八時前に起きて食べるようにしていたけれど(それでも私としては早い方だ)、今日は祖父母と一緒に食べて、皿洗いを手伝ってから一日をスタートさせる事にした。

そうすると一日が長いし健康的! いっぱいゲームが出来る! 動機はかなり不健康だったけれど、祖父母の苦笑いもいただいたけれど早朝の空気は心地良いものだ。と今日知った。

何か雨で湿った空気だけれども、昼とも夜とも違う何とも言えない気持ち良い空気が漂っている。


「ちい、今日は早いな。じいちゃん今日は雨だからあんまり手伝いいらないぞ」

「オッケー大丈夫こうちゃんの部屋に居るし」

「…あんまり動かないと肥るぞ」

「そんなこと言わないでおじいちゃん。晴れたら呼んで。すんごく呼んで」


祖母のお手製の茄子の浅漬けを祖父と二人できゅっきゅ言わせながら会話を楽しむ。皮が固いからもう来年は作らないでと祖母が祖父に頼んでいたが、特に気にならないと私は思う。味が第一だ。美味しい。


「退屈そうで可哀想だったから紘一の部屋解禁したけど、ちいちゃんもゲームとか好きな子だったんだねえ」


勧めなきゃ良かったかな、と目玉焼きを食卓に追加した祖母に、慌てて否定する。

今ユウマとの冒険を取り上げられたら、私は泣く! 確実に!!


「確かにハマってるけどほら、私熱しやすくて冷めやすいタイプだから! 今だけだから! うち帰ったらもう多分ゲームしないと思うから見逃して!」

「はいはい、今だけね」


勢いに圧されたのか笑ってお母さんには言わないでおくね、と言った祖母にほっと息を吐いて、目玉焼きへと箸を伸ばす。

これは本腰入れてさっさと終わらせねばならない。箸を射し込んだ黄身に醤油を注ぎながら、私は一人決意した。














「おー、また仲間が一人増えた」


竜の山を難なく抜けた一行は竜が守っていたアンクレットを一つ手にして、今度は永久凍土の氷山に向かっていた。

そこで出会ったのは研究バカな魔術師の少年だ。名前はモルト。瓶底眼鏡にローブで姿がよく見えないが、一目で分かる華奢な体躯。若そうな彼はその身の内に強大な魔力を秘めているようだ。なんと凍土に眠っていた凶悪なモンスターたちを起こしてしまうのだから。

あわや全滅の危機を勇者一行の力と、即席でパーティーを組んだ彼との四人で乗り越えた彼らは「ユウマ、君は勇者なんだね!君に着いていけば見たことのないモンスターに出会えそうだ!」とのモルトの一言で、何だか暑苦しい四人編成でこれからの旅を続ける事になる。


「ここには勇者の証、なかったかー。ありそうな雰囲気だったんだけどな」


予想外に空振りしてしまい、肩透かしを食らう。回復薬は底をついたし、MPも残り僅か。心許ない状態でこれから待つのは下山のみというしょっぱい現状だった。

と、モルトがユウマににじりよる。自分のお師匠様から聞いたのだが、賢者が隠れ住む塔が砂漠のど真ん中にあるらしい。賢者様なら何か知っているんじゃないか。そういう話だった。


「次は砂漠かー。遠いのかな?」


マップを見るためにすっかり折り目の付いた攻略本を開く。今が氷山だから、ええっと━━…


「微妙な距離だね。レベル上げながら行けって事かな」


ふむ、とぱらぱらと攻略本を捲る。キャラクター紹介のページがあった。誰が仲間になるのかもまだ知りたくなかったから見ていなかったそこを、四人仲間になったから良いかと少し覗く。

キャラクターの生い立ちやプロフィール、事細かに記されたそれは見ているだけでも面白い。身長体重とか何か攻略に関係あるのかな。

少し進むと、重要であろう仲間以外の登場人物や敵キャラクターの立ち絵も描かれているページがあった。

昨日ちょっと見てしまったイベントの、襲来してくる最初の四天王。知ってしまったから良いかな、なんてポリシーを少しだけ曲げて書かれたプロフィールを見てみる。

勇者が滞在中の村に現れるその四天王は四天王最弱というやつで、最初こそ強大に見えるもののぶっちゃけただのやられキャラであるらしい。これを倒せるようになったら魔界攻略に向かってOK、その指針であるらしかった。

魔族であるくせに見た目がかなり人間に近い彼と戦うのは、主に人間領であるようだ。


「…何か、敵には見えない。こいつ」


その辺の村にいたお兄ちゃんを拐ってきて適当にややパンクな格好をさせただけ、みたいな。よく言えば親しみやすい、悪く言えば平凡な青年。そんな感じの印象を受ける。四天王最弱、凄いな。

他の四天王は凄い美形っぽかったりバキーンでガキーンな異形っぽい姿なのに、こいつだけ本当人間っぽい。少し意地悪そうな顔をしている辺りが魔族要素ってところだろうか。


「敵にも名前あるんだね。こいつは…ふふっ。名前ずいぶんかっこいいね、最弱なのに」


四天王最弱のそれの名前は、ハヤテ。風の属性を持つからその名前なのか、何だか主人公パーティーに居そうでおかしくなる。

ふと時計を見た私は、すっかり攻略本に見入ってしまっていたのに気付いて慌てて画面に向き直った。

いかんいかん、冒険を進めなくては。これも四天王のせいに違いない。ハヤテめ! 会った時は覚えていろ!

その時に備えて経験値稼ぎだ。それよりまずは回復と道具の調達だ。一旦前の村に戻るべく、私はユウマを麓に向けて進ませた。














頑張りすぎて目がしょぼしょぼする。

結局一日雨だった為に畑に呼ばれる事はなく、一日こうちゃんの部屋で過ごした私は肩はバキバキの腰もビキビキで、何だか十代と思えない状態になってしまっていた。さすがに祖父母に怒られそうだったので、夕食後のゲームは諦めて長風呂で疲れを取る事にする。

湯に浸かりながらこめかみをぐにぐにと揉む。ああ、気持ちが良い。


「だいぶ進んだな~…」


仲間は三人の四人パーティー。その後無事に賢者の元へと辿り着いた一行は、意地の悪い賢者様のお使いクエストを済ませてご機嫌を取り、賢者の住む塔の地下に眠っていたブレスレットをまた一つ手に入れた。そして更に情報を聞き出す事に成功する。

砂漠から少し離れたところにある村。そこにはなんと伝説の勇者の墓が存在すると言う。

実は人間領にある勇者の証は、今持っている首飾りとブレスレット二つ、アンクレット一つで終わりらしい。これから先は魔族領で探さなければいけないのだそうだ。

しかし今のユウマでは厳しいだろう、一度勇者の墓に赴くと良い。そう告げられてしまった。

思い立ったが吉日で速攻向かったそこは、どこかユウマの故郷と似通った小さな村。その外れの小高い丘の上、村を見守るような位置に伝説の勇者の墓はあった。


『必ず魔王は倒してみせます。どうか、お力添えを━━』


キャアアアシャベッタアアアア。そんなフレーズが頭を過った。ユウマの! セリフ! あったんだ!! 何だか感動してしまう。

そうして勇者が祈りを捧げた途端、画面は揺れ、石碑は輝き二つにビシリとひび割れた。

私を筆頭にぽかんとする一同。どういう技術なのか、割れたそこから出て来たのは光り輝く一振りの剣だった。周りの説明を聞かずとも分かる、これは伝説の勇者が使っていた剣だ。


勇者の証、そして伝説の勇者の剣。これ以上ない味方を得たユウマ一行は、とうとう魔族領へと足を踏み入れる━━。

そこで今日はストップした。最近のゲーム続きで、非常に疲れを覚えたのだ。

しかし攻略本のページ数を見るに、どうやら今は全体の折り返し地点あたりであるらしい。まだ半分、されど半分。達成感があった。


「明日からは魔族領か。頑張ろうねみんな…」


ざばりと勢いよく上がり、寝間着に着替えて布団に潜り込む。

今日はスマホを弄る事もなくあっという間に眠りについてしまったけれど、毎日ゲームばかりして、ゲームのことばかり考えているせいなのか。その日は変な夢を見た。


━━やっと見付けましたよ、勇者。あなたをずっと待っていました。

魔王を倒せるのはあなただけ。その力で世界を救って下さい━━


何もない真っ白い、だだっ広いだけの世界で、ああ顔も多分綺麗なんだろうな、と想像出来るような気持ち良い声が響いていた。

ユウマが首飾りと出会った時の、その勇者の証である首飾りの画面中央の声みたいな、でもちょっと記憶とは違うセリフ。

これがゲーム脳ってやつなのかなあ。あくびをしながら起き上がって背伸びをして、そして━━…


「…はあ!?」


そこは眠りについたはずの祖父母宅の和室ではなく、大自然に囲まれた小さな村で、目の前にはひび割れて中身を失った石碑。

勇者の故郷、勇者の墓。ドットで見たばかりのそこに私は座り込んでいたのだった。

やっと異世界来ました!来れました!!(笑)

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