おまたせしました ~私の日常~
ある昭和の日に還ってきた少女
エネルギッシュな父母の姿
破天荒な友人達
繰り返される日常に
忘れていた、大切な物を
思い出すことが出来るのか?
50代前半のふみかは
幼い日に見た夢の続きを見る。
白い空間に、ポツリと喫茶店が見える。
幼い日に見たままの喫茶店。
青いストライプの入ったオーニングテントの下には
昭和の匂いを感じさせるショーケースと申し訳程度に置いてある観葉植物。
そして幼い日の、あの夢では入ることが出来なかった
黒くて四角いドアノブには[押]とシールが貼っており、ドアノブを押すことでガラスのドアは開かれ喫茶店に入ることが出来るのだ。
幼い日に喫茶店の中に父や母が居るのではないかと思い
ドアノブに手をかけた時に、後ろから父に呼ばれ、背中をぐっと押される感覚で
現実に引き戻された。
ふみかは、熱にうなされ
息も絶え絶えに父親に背中を支えられ、上半身を起こされた。
夢であったのだなと、心配そうにふみかの、顔を覗き込む
父と母を見て、認識した。
「ふみか、飴を作ったぞ、喉が痛いだろう、舐めたらましになるぞ。」
飴の買い置きをしていなかったからか、夜中に父は鍋でべっこう飴を作ってくれた。
意識が朦朧としていたが、優しい味のべっこう飴をゆっくりと口に含んだ。
「ふみか、熱冷ましに、お薬を飲むよ、飲める?」
白い錠剤と、水を渡され、父親に背中を支えられながら、飲み干し
息をつく。
「熱は何度あるの?」
水銀の体温計を脇に挟み10分程待つ。
「42度?」
そしてまた気が遠くなり
ふみかは不思議な夢を見る。
寒くて
暗くて
無音の世界
寒く感じるのは
さっきまで熱くてたまらなかったのに
途切れてしまったから
暗く感じるのは
何も見えないから
音を感じないのは
意識が薄れていくから
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
水のなかでさえ音や感触があるのに
それさえ感じることのできない
全くの無
そこから急に管状の空間をうねうねと進む自分を感じることができた。
急に何か作りかけのキャラメルの様な練っとりとした動きの世界に解き放たれ、混乱する。
暫く読経が聞こえ
算盤の読み上げ算が聞こえ
沢山の声が聞こえ
息をし始める
真っ直ぐ
真っ直ぐ何処かに進んで行く
自分の回りにも、億万もの命を感じながら
真っ直ぐに
行き絶え絶えに進み続ける
皆何かに向かって
競争をしている。
苦しいが
進まなければと何かが追い立てる。
また、ここに来たようだ。
あの喫茶店だ。
ついに私はこの扉を開けるのだ。
そして、今を
終わらせたいのだ。
苦しいこの競争を。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はっ!!」
冷たい。
汗?
息がしにくい。
でも、ここは。
お母さんの手が私を優しく包んでいた。
ここは、お母さんと、私の世界だ。
「オウギャアアア!!オウギャアアア!!オウギャアアア!!」
息をしなければ
お母さんに触れなければ
離れたくない
お母さん!
お母さん!
「ふみか、あいたかったよ。」
お母さんに包まれ、安心して意識を手放す。
(私も、あいたかったよ。産んでくれて、ありがとう。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
4歳になるふみかは、大阪に引っ越してきた
今までおじいちゃんとおばあちゃん、そして熊本のおばちゃんに会えていたのに
初めての環境に戸惑いながら
いつかおばあちゃん達のいる町に帰れるものと思っていた。
それにしても、お母さんと二人で大阪に来たが
お兄ちゃんとお父さんはどこにいるのだろう?
そして幼稚園に通い始める頃になると
お兄ちゃんとお父さんはまたお母さんと一緒に
私の回りに居てくれた。
毎日、言葉が少しづつ
関西弁に慣れ始め、気がつけば、小学校に入学したのだった。
「はじめまして、皆さん。小学校にようこそ。これからいっぱい遊んで、いっぱい学びましょう!梅垣千賀子です。皆さんの担任になりました。宜しくね!」
ピカピカのランドセルを背負って毎日通った小学校
1年の先生は冬に入ろうかという頃、お腹が大きくなり、ご退職された。
沢山遊びは出来なかったが、とても優しい先生だった。
途中から土居先生という若い女性の先生になる。
沢山遊んでもらった。2年生は持ち上がるかと思ったが臨時で担任していたようで
4月には他校に転勤された。
「私、絵を描くのが好きなんだ!ふみかちゃんも、良く描いてるよね、見せて見せて。」
「ほえ?」
小さい頃から紙と鉛筆が好きで
上手に描けたら、誉めてもらえ、わしわしと頭を撫でられての繰り返しの賜物か、ふみかはそこそこ絵がうまかった。
「お姫様だ!かわいい!」
覗き込んできた、同級生の言葉に感動を覚える。
「私のも、見て。」
そういって、ふみかに、自分の描いた絵を見せてくれた。
「!!」
自分には描けない世界を目にして、ショックをうけた、ふみか。
「これは、お父さんが描いたの。」
「すごいね。」
目がキラキラしてたと思う
暫くお互いの自由帳を交換して
ふむふむ。お互いに頷き合う。
この時の少女は、ふみかの人生において、いつまでも糧になる時間を共有してくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
中学生に上がったふみかは、入学式に名古屋に住む叔父を亡くす。
一度もあったことは無かったが、お父さんのお兄さん、おばちゃんの弟。
好きな人達の兄弟が、交通事故で若くして亡くなったという事実は、ふみかにとっては、印象深い出来事であった。
それから、年功序列で、知り合いの人達が亡くなっていく事も、ふみかにとっては、印象深い出来事なだけでなく、自分の人生を考えさせられる事になる。
(でも、なんだかこの事も、知ってたような気がする。)
ふみかは、dejyabuが多いなと、この頃から思い始める。