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大舞台

『さぁいよいよ始まりました、2048年夏のオリンピック男子ランドローリング決勝戦! 実況はわたくし、タナカがお送りしてまいります。

 解説は元ランドロー選手のタムラさんです。タムラさん、今日は宜しくお願いします』

『よっしくおぇあいしゃーす』

『タムラさん、いよいよ男子ランドローも決勝ですが、注目の選手は誰でしょう?』

『しょーでしゅね、やっぱあの人でしょ、中国の(チュウ)転地(テンチー)選手ねー』

『あー、やはり世界中の女性ファンが愛して止まないあの爽やかイケメン君ですか!』

『えーもーそりゃしょうでしゅよね。彼なりゃ前回優勝者のあのー……あいちゅを倒して優勝すりゅって信じてましゅ!』

『そうですね、ぜひあれを倒して彼に優勝していただきたい! あっと、間もなく試合が始まる模様です!』

『頑張れ、チュウ選手!!』




 スタート地点に降り立った坂野は、ちらりと隣の選手を盗み見た。

 陸上選手だというのに肌は病的に白く、長く垂らした前髪が女にモテたい欲求を物語っている――と、坂野が感じている――その男。

 彼こそが坂野の最大の敵、チュウ・テンチーだ。

 しかし、逆に言えば真剣に戦わねばならない相手は彼一人。坂野は大きく深呼吸をした。

 坂野は考える。俺は今からこいつらと戦う。だが、いつまでもこいつらと同じレベルではいられないと。

 審判が手を上げて、スターターに合図をしている。もう間もなく始まるだろう。

 1回目の短い笛の合図で、体を丸めて体勢を整える。

 そして、2回目の長い笛の音で――スタート。




『あー……』

『ん~……っとこれは……またしてもあれです、日本の坂野が1着でゴールイーン……です』

『ほんと……大概にしてほしいわ』

『……えー、銀メダルはやはりチュウ選手ですね! よくやってくれました!!』

『ん、チュウ選手はやはりランドロー界の未来を担う選手でしゅね』

『銅メダルはえっと、アメリカのチャールズ・コロガルワ選手! チュウ選手には圧倒的な差を付けられていますが、それでも見事な走りでした!』

『うんうん、彼も歳の割によーやっとるでしゅ』




 坂野は体中の汗をタオルで拭いながら、どんよりとした顔の報道陣達をかき分けて進んだ。

 冷静に考えると酷い状況だ。金メダルを取ったのは自分だと言うのに、誰一人寄ってこない。皆、後からくるであろうチュウ選手を待っているのだ。

 何故、これ程までに自分は嫌われるのだろう。坂野にはいくら考えてもそれが分からない。彼は自分の顔の悪さにも、性格の悪さにも気付けないままだった。

 ……と、そこへ報道陣の一角が坂野の方へ近づいてきた。日本人だ。

 やはりどんよりした顔をしているが、一応自分の国の選手が金メダルを取った事を報道しておきたかったのだろう。

「坂野選手、お疲れ様でした。今日の試合はいかがでしたか?」

「そうですね、今日はいつも以上に選手達に気合が入っていたと感じました。それでも気圧されず突き進んだ自分を褒めてやりたいですね、まずは」

「……はぁ。どうでしたか、チュウ選手は」

「いや、本当に素晴らしい走りだったと思いますよ。これからまだまだ伸びていくでしょうね。俺も期待してます」

「……はぁ。では、今後の大会に向けて一言」

「はい。これから多くの選手が俺と同じ舞台に上がってくるんでしょうけど、俺はそいつらに負けない様に……なんて気持ちじゃ駄目だと思います」

「…………」

「俺が目指すのはオリンピックレコードです。残念ながら今回もそれには及びませんでした。しかしいつか必ず、記録保持者の高空選手を――あの伝説の男を、超えてみせます」

 と、そこで歓声が沸きあがった。チュウ選手が姿を現したのだ。坂野の話を退屈そうに聞いていたインタビュアーも血相を変えた。

「はい、あざっした坂野さん! おいお前らいくぞ! チュウ選手、ニーハオー! ニーハオー!」

 インタビュアーはカメラマン達を従えて、チュウ選手の元へと駆け寄っていく。彼の周りには既に人垣が出来ていた。

 坂野はやれやれと首を振り、踵を返すとがらんとした道を独り歩いた。

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