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 ふと耳が周りの音を拾いはじめ、白雪姫はぼんやりとその音を聞いていました。


 そっと髪を撫でられる感覚はずいぶん久方ぶりで、思わず頬をゆるめます。


 ふっと笑うような息遣いが聞こえ、優しい手が頰へとすべって行くのを感じたとき、白雪姫はやっと違和感に気づきました。



「おはよう。白雪姫」


「王子様……?」



 どうして王子がここにいるのだろう。もしかして、王子も死んでしまったのだろうか。白雪姫はさっと青ざめました。



「王子様も死んでしまったの?」


「やっぱり君はおかしな子だね。そんなに心配そうな顔をしないで。僕は死んではいないよ」


 白雪姫はますます混乱しました。王子はその様子にくすりと笑ってから言いました。


「僕が捨てたものを、僕が拾ったって自由だろう?最後に触ったものが責任を持って拾うのがマナーと言うし」


 白雪姫はまたよくわからない理屈だと思いましたが、それよりも確かめたいことがあったので質問しました。



「なら……私はあなたの妻になれないの?」



 白雪姫は少し泣きそうになってしまいました。王子は予想外の反応に驚いて微笑みを引っ込めます。



「どうしてだい?」


「だって、あなたは死なないと愛してくれないじゃない」



 白雪姫の言葉に、慌てていた王子は表情をゆるめました。


「なんだ、そんなことか。馬鹿だね、白雪姫」


 王子が言うので、白雪姫はむっと唇を尖らせました。


「私は真剣に訊いているのよ!」


「ごめんごめん。でもね、白雪姫、少し考えればわかることだ。僕は愛していない人に愛を語らないよ。そして君は死んでなんかいない。これが答えじゃないか」


「……じゃあ、あなたの噂は嘘だったの?」


「いいや」


 王子は少し悲しそうに微笑んでから、白雪姫を抱きしめました。



「君が教えてくれたんだよ。君の声が、表情が、そしておかしな考え方が、こんなに僕を惹きつけてくれるということを。死より美しいものがあるということを。会話することも笑みを交わすことも、これほど楽しいものだとは知らなかった」


 そして、白雪姫の黒い瞳を覗き込んで言いました。


「だから、お願いだ。もう一度僕の求婚を受けてくれないか。今度は僕と一緒に生きると、それを望んでくれないだろうか」




 白雪姫は顔をりんごのように真っ赤に染めて、ただ頷きました。




 


 それから、二人が夫婦になるとき。隣国から強く優しい女王と、それを支える家来たち、気の良い森の住民たちがお祝いにやって来てくれるその日まで。それほど時間はかかりませんでした。



 めでたしめでたし。






王子の事情も書こうかとも思ったのですが、蛇足になりそうでしたのでやめました。

童話って難しいなあと痛感しております。楽しかったです。

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