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 ()(とお)るほど(しろ)(はだ)(つや)やかでどんな夜更(よふ)けよりも(くろ)(かみ)と瞳。そして、りんごのように(あか)く、(うる)んだ(くちびる)


 白雪姫は、とても美しく生まれてきました。


 けれどそんな彼女には、一つだけ、小さく、重大な『欠点』がありました。



 白雪姫は両親のどちらとも似ていなかったのです。



 はじめ、それは些細(ささい)なことでした。両親は王様もお(きさき)様も、愛らしい白雪姫を(こと)(ほか)可愛がっておりましたし、周囲もそれは同じです。


 しかし、そう、奇しくもちょうど白雪姫が虫のついたりんごを捨てたそのとき、悲劇が起こりました。


 王様を愛していたとある女性が、王様を殺してしまったのです。


 お妃様は半狂乱になりました。

 お城はひっくり返るような騒ぎになって、殺人者の女性は笑いながら自ら命を絶ちました。

 白雪姫には、何が起こっているのか分かりませんでした。


「私が一番あのひとを愛しているの」


 真っ赤な女性の最後の言葉が、いつまでもその場に響いておりました。


 それから、お妃様―――白雪姫の母はいなくなりました。


 優しく温かく、自分よりも他人を優先するような、素晴らしい母でした。


 白雪姫の大好きな、大好きな母でした。



 お妃様は一番王様に愛されていたかったし、一番王様を愛していると思っていました。

 だから素晴らしい妃にも素晴らしい母にもなれていました。


 心の奥の奥にしまってあった、素晴らしい人であることへの窮屈さが、憎悪と絶望と絡み合って、彼女を壊してしまいました。


 そうして、王様にもお妃様にも似ていない白雪姫を強く憎むようになりました。

 それが単なる先祖返りで、お妃様の母にそっくりだと分かっていても、止められないものでした。

 けれどお妃様は白雪姫を愛していましたし、優しさゆえに、弱さゆえに、実の娘を憎む自分すら許せませんでした。



 だからお妃様は、白雪姫の義母になったのです。


 以前までの自分を前妻として妬み、白雪姫を前妻の子として憎みました。


 

 それから、城中の鏡を壊しました。自分が『素晴らしいお妃様』であった証拠は残らず捨てました。その中には、日替わりで『その日一番の美人』を告げる玩具おもちゃの鏡もありました。

 悪いことに、それは白雪姫を示したまま壊れてしまいました。また一つ、王妃が白雪姫を憎むための理由ができました。


 王妃が一番になれないのは、王妃が後妻だから。素晴らしい人ではないから。白雪姫が、一番だから。

 そう思い込んで過ごすのは、王妃にとって、苦しくも甘美な日々でした。



 それでも、王妃を知る人は皆、彼女を嫌えませんでした。

 

 その昔、彼女に救われた者、普段から親しくしていた者、彼女の境遇に同情する者。

 狂気にひたる王妃を、皆が囲うようにして、そっと遠くから守るようになりました。


 白雪姫が王妃に殺されることが無いのは、王妃が弱いからです。

 それと同時に、王妃が人を(あや)めてしまわないように、その手を汚させないように、周りの皆が守っているからです。


 もちろん、白雪姫も守られています。

 気の良い森の七人の小人たち、気ままな狩人、お城のみんな。


 それでも、どうしてもこう考えることを止められません。



『白雪姫が死んだなら、王妃はもとに戻るかもしれない』


 皆がそれを望んでいると。



 王妃が魔女になって森にやってきたとき、本当は白雪姫はとても嬉しかったのです。

 たとえそれが白雪姫を殺すためでも、王妃はいつも白雪姫を気にかけてくれます。

 母ではなく、義母でも、それでも、昔も今もこれからも、白雪姫の母親は王妃ただ一人なのです。



 あのとき魔女が差し出したりんご。


 それが白雪姫の背中を押しました。


 小さなころ大好きだったりんご。覚えてくれていたのか、と。

 大嫌いなりんご。それを知らないのね、と。


 嬉しくて、悲しくて、愛しくて、苦しくて。

 もういっそのこと、あのときの小さな白雪姫のように、無邪気に残酷に捨ててしまってくれればどんなに良いかと思いました。


 王子はそんな白雪姫の心を分かってくれました。


 白雪姫のことを理解して、受け入れて、優しく包み込んでくれる愛しい人。


 今までこれほど真っ直ぐに白雪姫だけを見てくれる人はいませんでした。


 たとえ、それが白雪姫の死であったとしても、求めてくれることが嬉しく、王子が喜んでくれると思うと心が浮き立つように感じます。


 この人のためならと思いました。

 そして、この人のものになりたいと。


 だから。






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