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遠い世界  作者: 永井伝導郎
3/4

かわりくる敵

ちょっとサービスシーンもありで……いやあ、こういうのを書くのは苦手で……勘弁してくださいよ~……


 魔姫は毎日現れるものではない。そうそう、毎日現れられても困るというものだ。

だから、砦から目撃された場所へ日数をかけて行く、魔姫退治行脚の旅~遠征~が武姫の任務にあたる。

魔姫に遭えば、これを駆逐し、遭えなければ撤退する。

主に山であったり、深い谷であったり、古戦場跡だったりし、気の抜けない旅になる。

この旅にマイスターが同行することはない。これは職分が違う。それに武姫たちがマイスターを護衛する分に戦力を割かれてしまう。

そうならないようにマイスターは砦と近隣の町や村から出ないようにしている。

極、稀にではあるが、帝都へ呼び出されるという事態もあるが……

レキシントンはそういった『旅』に縁がなかった。元の産まれも帝都であり、何不自由なく暮らしていた貴族の3男であった。平穏な時代であれば、小領主や帝室の役人になっていただろう。

そんな若者だった。

砦から遠征へ出ていたチームが帰還した。サーベルを隊長とした部隊であった。

「マイスター、ただいま帰還いたしました」

レキシントンの執務室に現れたのは黒髪をオールバックにし、右目に眼帯をしている凛々しい女性だった。切れ長の目をしており、鼻筋も綺麗に通っている。品の良い口は真一文字に結ばれている。

質実剛健

それがサーベルという武姫である。腰には細身の曲刀が佩かれている。

「おかえり、サーベル。疲れただろう、ゆっくり休むといい」

敬礼をしているサーベルは引き締められた口を開く。

「はい。しかし、報告がまだであります」

「ああ、そうだね。どうだった?」

「目撃通り、魔姫LSPタイプを2体撃破してまいりました」

「被害は?」

「はい。パイクが少し、手傷を追った程度です。こちらは応急処置しております」

武姫たち情報生命体であっても魔姫との戦いにおいてケガをすることがある。重症時は即座に撤退するように命令してある。病気にならないのが良いトコロではある。

「パイクは医療施設へ向かわせました。2~3日の療養が必要です」

キリっとしているサーベルにレキシントンは姉のように感じる時がある。それを面に出さないようにするのは意外と労力を使うものである。

「他に、なにか気づいた点はなかったかい?」

「はい。いつも通りの魔姫でした」

「わかった。じゃあ、サーベルも休むといい。明後日には偵察任務もあるからね」

「は! 了解いたしました」

サーベルは背をピンっと伸ばしたまま敬礼し部屋を出ていく。廊下を歩く時も背筋を伸ばしている。

そのサーベルは一部の(主に短剣類)の武姫たちに人気がある。

彼女も女性体であるが、すらりとした長身と凛とした表情に男性以上の憧れを抱かれているのかもしれない。

時代と世界が違えば人気アイドルになれただろう。

サーベルは自分のプライベートルームへと向かう。サーベルやエクスカリバーあたりは特別に個室を与えられている。

自分の部屋のことは自分で。彼女らはそれを不文律にしている。

それゆえなのか、誰もサーベルの部屋へ入ったことがなかった。筆記や読書用の机とイス、ベッドやテーブル、衣類を収納しておくドレッサーなどはあるだろう。

だが、それ以外のぬいぐるみのようなアイテムがあれば? 

スティレットを筆頭にサーベルのプライベートルーム襲撃作戦が実施されたが、ことごとく失敗に終わっていた。作戦自体がずさんだったのが1番の要因だったのだが。

ナゾの多い美女。それがサーベルという武姫であった。

女性ということもあり、清潔にしている。洗濯こそ、係の者に任せているが、入浴は砦に居る時は毎日入っている。任務の有無関係なくである。彼女の日課なのだ。

普段着に着替えたサーベルは今日も風呂へと向かう時、ふと、気配を感じた。ただ、それ

を気のせいと彼女は思い込んだ。

風呂は石造りであり、外には湯を沸かすボイラーが設置されていた。

脱衣所も広く、地下水で冷やされた果物のしぼり汁にミルクを混ぜた飲み物も置いてある。これは自由に飲んでかまわないものであるが、レキシントンの砦ではスティレットが飲み過ぎてダウンしたことがあるため、1人1本が原則となっている。

サーベルは木製の棚に置かれたカゴに自分の衣類を脱いで入れる。

両肩などや背筋はやや筋肉質であるが、腹部や腿は引き締まった身体をしている。均整の取れたスラリとした長身である。

彼女は右目の眼帯も外した。ここは非戦場なのだ。

「ふう……」

そして、右目を開ける。なんとなく他のカゴを見ると、何人かが入っているようだ。

彼女は右目が見えないのではない。常在戦場を座右の銘としており、普段から戦いの場にいるという覚悟を背負うため眼帯をしている。そんな想いは誰もが思いつくものではない。質実剛健なサーベルであるからこその覚悟なのだろう。

湯船に向かうと、エクスカリバーとスティレットが並んで湯に浸かっていた。

「湯とは不思議なものですね……」

「だよね~~~リラックスできる場所だよねぇ~~~~~~~」

サーベルもこの2人と同じ考えであった。

「失礼」

湯船から桶ですくった湯で掛け湯をし、身体のほこりを流す。その後に足からゆっくりと入っていく。

身体が温まっていく。心地よい、油断できる時間。

サーベルがエクスカリバーの方を向いた。

「ここにはなれたか?」

少し笑顔。この笑顔は男性よりも女性をトリコにするだろう。

「はい。こちらでの生活にもなれてまいりました」

エクスカリバーも笑顔。こちらは思春期の少年たちの頬を赤くそめるだろう笑顔だ。

「あたしが教えてんのよ! あたしが!」

二コリというよりもにんまりに近い笑顔でスティレットが言った。

「んまあぁ、スティレット先生とでも言ってもらおうかな」

「このお風呂ですけれども、わたしのいた世界では噂にしか聞いたことがありませんでした」

「私の時代もだよ……」

「ちょーっと無視しないで!」

「スティレット……湯はゆっくり入るものだぞ……少し、騒がしい」

「あ、でも、眼帯のないサーベルって珍しいよね」

2人は話を急に変えられて困ってしまった。

「なんか、凛々しいよりも美しいって感じになるよね」

スティレットはよくしゃべる。エクスカリバーも彼女の話を聞くのが大好きだ。

しばし、3人で雑談。女3人、寄らば姦しい。その内容も恋の内容になっていくのが常である。

「でさ~マイスターってどう?」

スティレットのこの質問にエクスカリバーもサーベルもドキンとした。

「け、敬愛する上司だ。それ以外になにか?」

先に口を開いたのはサーベルである。

「またまた~……ホントは好きなくせに~……タマにマイスターを窓から見てるトコロ目撃されてるよ~」

「え? いや、そんなことはない」

サーベルは珍しく頬を紅潮させていたので、照れ隠しに見えてしまう。

「少々、頼りないところがありますけれども、わたしたちで支えてあげればいい方ですね」

エクスカリバーはさらりと言った。

彼女はこのコロネッサスに来てまだ間がない。しかし、女性である。恋の一つや2つはあってしかるべし! 

「あ、あたしはマイスター好きだよ」

あっさりとスティレットは言い放った。サーベルがショックを受けて、立ち上がる。

「ききき貴様、何の権限があって!」

「いや、恋愛は自由じゃん! 誰が誰を好きになってもいいじゃない……だから、サーベルもマイスターのことが好きなんでしょ」

サーベルのオールバックの髪の一部が前方にかぶさり、目を伏せさせた。

「ななななんで、そのようなことを~!」

いつもと違う態度にサーベルも相当狼狽えていたのだろう、湯船からあがると、前屈姿勢で大きな声を上げていた。

「わわわわわわ私は敬愛をしている! 我々の心配もしてくださっておられるし、戦闘時の決断もまずまずだ! そ、そんなマイスターを敬愛しているんだーーーーーーー!」

「ここだけの秘密にしておきますね」

エクスカリバーが少し笑いながら言った。それはサーベルというマジメ一辺倒で融通の利かない頑固者だと思っていた武姫がまだまだ恋する少女であったことである。

他言はしないでおこうと思った。

風呂上りは冷たい飲み物が火照った肌を冷ましてくれる。

服を着替えた3人の武姫は籐で作られた長椅子に座っていた。サーベルはキチンと眼帯をしている。

窓から入る風が心地よい。

「風呂にしても、この飲み物にしても、誰が考え出したのだろうな?」

就寝用の衣装を纏ったサーベルが独り言のように呟いた。

エクスカリバーとスティレットの2人も飲む手を休める。

「世の中にはわたし達の知らないことだらけですね」

「建国から2000年以上でしょう。そりゃ、その中に天才って呼ばれる人がいたんだろうね~」

「あ、スティレットさん、明日はお休みでしたよね? 本の買い出しを手伝ってほしいのですが?」

「またあ? 似合いそうないい服とかあるのに!?」

「はい。わたしは、この世界のことを、もっと知りたいのです」

「確かにそうだな……今度、マイスターに図書室の建造を進言しておこう」

「マンガも多めにしておいてよ」

「だめだ。史書と法制に関するもの……それに、薬物や農法によるものだな」

「えぇえええええ~」

スティレットは露骨に嫌な顔をした。

2人の楽しいやり取りを見ていて、エクスカリバーは時に不安に苛まれる。

自分の記憶。

その中には決して、明るく楽しいものだけではないのだ。裏切り造反、血で血を洗う骨肉の争い……親友との戦い……

「友達は大事にしないと……いけませんね……」

誰に言うとなく呟いた。

「ん? どしたの?」

「いえ、ちょっと、湯冷めしすぎたようです……今日はここで……」

エクスカリバーは飲料のビンを所定の場所に戻し、部屋着のまま風呂を後にした。

「ん~~~~~~~……恋の悩みかな?」

スティレットは腕を組み難しい顔をした。

「それはないだろう」

サーベルは即座に否定した。

(私たちなんかよりも、もっと凄惨な記憶をもっているのだろうな……)

口には出せない。今はこうしているが、彼女らは、元は『武器』。傷つけ、殺し、破壊する物だったのだ。

人に言えないこと、言いたくない記憶もあるだろう。

そう考えて、サーベルも風呂を後にした。

サーベルも肉体を持っているのであるから、体力の温存や疲労回復は必要不可欠である。

部屋を与えられているのはそういうことだ。

その部屋へと入ろうとした時、予感がした。直感にも似た感覚だ。常在戦場を座右の銘にしている彼女であるからこそ気が付いたのかもしれない。

気配を消す。相手も気配が消された事がわかるだろう。

忍び足で進み、ドアを勢いよく開ける。

「誰だ! そこにいるのは!」

暗い部屋のすべてを一瞬にして把握し飛び込む。中には小柄な生物が窓からこちらを伺っている。人型であるが、小さい。その人影はもぞもぞとしか動かない。

だが、それは奇声を発して飛び掛かってきた。反射的に避け、すれ違う。

サル? 人間? 

その正体をサーベルは見た。だが、人間ではないようだ。

自分の右腕に一筋、血がにじむ。正体はわかった。

「魔姫か……こんな現れ方など初めてだぞ」

狼狽はしない。それどころか避けた場所には愛用のサーベルがかけてあった。

魔姫は手に短剣を持っている。ここで決着を付けねばなるい。

小柄の魔姫は腰を屈めてサーベルの出方を待っている。だが、こういう場合は2つだけだ。

サーベルを殺すか、サーベルに殺されるか。

外に逃げても騒動になるだけだ。

「いいだろう、誰の部屋に入ってしまったか後悔させてやろう」

魔姫も相手に恐れない。そのような感情などもっていないのだ。

サーベルを抜き、突き付ける。

魔姫の大きさは子供程度。だが、その跳躍能力はサルに比する。

さらに暗闇。サーベルに不利な条件が多くあった。

それでも冷静なのは彼女の性格なのだ。誰よりも冷静であれ! それだけを矜持にしてきたといえるだろう。

だからこそ、ひとつの答を出していた。

「はっ!」

小柄魔姫が動くよりも素早く、彼女の額へサーベルの突きが刺さった。

サーベルは右の眼帯を外していた。常に暗闇に耐えられるようにしているのだ。だから、正確に小柄な魔姫よりも早く動け、致命傷を与えた。

目を見開き、小柄魔姫は光の粒子になって消えた。

「サーベルさん! どうしたの!」

この時になって物音を聞きつけた他の武姫たちが現れた。

「魔姫の暗殺者だ……倒した……だが、今まで、こういう魔姫はいたか?……」

それぞれが顔を見合わせる。

「もしかしたら、時代が変わってきているのかもしれんな……」

サーベルは嫌な予感がした。


砦を遠くの木の上から見ている人影があった。

「ふは! やっぱり失敗かあ~♪ まだまだ、鍛えたりないなあ」

失敗したというのにうれしそうである。月の光に照らし出される姿は赤色の癖ッ毛で腰に鞘の意匠が異なる剣を佩いているトコロだろう。

「次は成功させたいね。エクスカリバー……君を……」

少女は木から飛び降りると、砦の方とは逆方向へと歩き出した。



一応、次回でラストっつーことになりますんで! 

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