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遠い世界  作者: 永井伝導郎
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プロローグ『誰もいない時代からここまで』

え~……まあ、いわゆる、艦これブーム最高潮の時に友人と考えた世界の小説化です。

そんなに重くはしないと思いますので気楽に読んでください。


この世界になにもない時代、ただ混沌だけが存在していた。

混沌の中にはいくつもの数えきれないエネルギーが渦巻いていた。

永い、永い、自分が生きているのですら忘れているほどの永い時間の果てに、混沌が爆発した。

その内包されていたエネルギーは四方八方へと飛び散った。

これがこの世界の、宇宙の、始まりだった。

エネルギーたちは途方もない速度で広がっていく。

いまだ誰も果てを見ることがないほどだ。

エネルギーたちも広がる過程で色々と変幻してゆく。

それを進化というならば、この宇宙は常に誰の手も借りずに進化し続けている

なにかと交わり、なにかを生み出す。

それを繰り返す。

その中でいくつもの進化の頂点を作り上げた。

それらは『星』となり、生命を宿らせた。

星で生まれた生命は、育ち、生き、子をなし、死んでいった。

そんな星のひとつで混沌の爆発から年月を忘れるほどの時間の後に新たなエネルギーが産まれた。

それはいわゆる『想像』という力だった。

想像はさらに進化し、何十億年も経た時間にそれを自在に使う者が現れた。

それが『人間』であった。

人間は『思う』ことで想像し、自らの手足と類稀なる頭脳で具現化していった。

想像は時間を経る毎に益々進化していった。

記憶が記録になるころ、国という集まりができていた。

記録するには文字が必要だ。人間は文字を、それらを残して行くべき『紙』を発明した。

想像はただ恵みを与えるだけではなかった。

破壊をもたらすことも多々あった。

広い宇宙の片隅にコロネッサスとよばれる世界があった。これもここに住む人間たちが勝手に呼称したものであり、本来の名などはない、1つの太陽の周りを12か月かけて回る星である。

コロネッサスの中にリーザンスとよばれる国があった。

国は富み、兵は強く、文明は進化し、周りの国々を侵略していった。

その結果、長き大乱の時代を治め1000年の平和な時間を作り上げることに成功した。

正確に国境を定め、その先には侵略しないという誓いを立てることによって成就した平和だった。

平和な時代であっても、エネルギーは、想像は、進化していく。

それが良い方向に出る場合もあれば、悪い方向に出る場合もある。

リーザンス暦2020年春。

始めて確認された『それ』は姿形こそあどけない少女のようであったが、その戦闘能力は悪魔の如き代物だった。

他を傷つけ、他に傷つけられず。

それが何体も現れた。

彼女らは手に自分を象徴するような武器を持ち、生あるモノの命を奪う。

それは生きるためではなく、本能そのものに見える。

殺す事、破壊する事が本能。

それはまさしく武器・兵器そのものであった。

戦場跡に現れる彼女らは人を、生物を、問わず、襲い、必ず、殺した。

事件であったそれは目撃例が多くなるにつれ、大事件へと発展していった。

少し遠出をした猟師が殺される、ピクニックへ行った子供が殺される。隊商が襲われるどの事件が続いた。

報告を受けたリーザンス帝国も捨て置けず、1人の少女討伐のために1000人もの兵を立ち向かわせた。

発見された少女は手にダガーを持っていた。多くの生命を強奪したであろうそれは赤黒く、毒々しい色をしていた。少女は目に光がなく、人間というよりは人形のようであった。

リーザンス帝国の北北東。それ以上先は氷の世界とし、生命はいないと決めつけている土地。そこで事件が始まった。

リーザンスの歴史において、その場所、バルッサと呼ばれる地域も戦争のステージになったこともあった。

バルッサは荒野が広がり、冬には雪が人の身長以上も積もる。

それだけに耕作地としては役に立たなかった。

だが、この荒野は戦争をするのには広大な平原を有しており、うってつけの場所であった。

このバルッサでリーザンスは7万人の兵を動員し、2万の敵軍を打ち破った歴史がある。

その時はリーザンス軍の圧勝だったのだが、今回はそうではなかった。

到着を暖かい春にし、兵士の訓練も行き届き、武器の準備も怠っていなかった。指揮官も農民反乱を多々鎮圧してきた歴戦の将軍で戦の呼吸も知っている。

油断こそあるモノの、負ける要因のない戦い。

敵は発見されたダガーを持った1人の少女。

彼女だけしかいなかった。

槍兵が彼女に近付いた。それが宣戦布告になるのだろう。ダガーの少女は一瞬にして接近し、槍兵の喉笛を横一文字に斬った。くずれた槍兵の同僚たちが打ち掛かる。しかし、彼らも簡単にダガーの少女によって死に追いやられた。

戦いではなく一方的な殺戮だった。

それに目にし、恐慌を発した兵士たちが逃げ出した。数秒も持たぬ間に伝端し1000人の兵士が瞬く間に壊滅してしまった。誇張でも妄想でもなく、事実として受け入れられないような事が起こってしまったのだ。

兵士たちの武器は彼女を傷つけられず、兵士たちは確実に傷ついていった。

恐怖と恐慌。リーザンス兵の間に瞬く間に広がった。

呼吸も乱れていない彼女の狂的な戦闘力から逃れる方法はひとつ。

壊乱だけだった。

彼女が殺すのなら誰かを追う。その誰かが殺されている間に、すこしでも遠くへ逃げる。

特に伝令などを役割としている兵は馬にも乗れる。

1000人の兵は一斉に四方八方へと走り始めた。

武器を捨て、鎧を脱いで、兵としてのプライドもかなぐり捨てて逃げ出した。

この闘いで何人かは生きて近隣の地へ戻れ、また何人かは帝都へと報告に向かった。

1000の兵が1人の少女に壊滅させられた事実! 

そんな戦いがリーザンスの至る場所で起こった。

そのバルッサを始め、南方のリットリオ、東方のコレステンタなど多くの戦場跡がその舞台であった。

手に武器を持った血みどろの少女。人々は恐怖の念を込めて彼女らを『魔姫』と呼んだ。

バルッサをはじめとする古戦場で戦死した亡国の王女の姿に酷似していたから『姫』という呼称を許したのだというものあれば、死罪に処した各国の多くの姫の顔に類似していたからである。

魔姫が公式に歴史の表舞台に出てきたのはこの時が初めてであった。

帝都は震撼した。

曰く、100万の悪魔の軍隊が現れた。天を突くような大巨人が現れた……など、誰もが真実を理解できなかったから多くのデマが流れた。

冷静だったのは古くから宮廷に仕えている召喚士ブッファローだけだった。

変わり者として有名だった彼に脚光が浴びせられたのは彼が提出したレポートの所為だった。

「人に想像力があり、死後も続き、その長き想いが悪変したならば」

そう言い続けて30年。ブッファローも腰痛に悩まされる年齢になってきた。

だが、研究に研究を重ねた結果、彼はひとつの成功を見つけ出していた。

王宮だけでなく、町も混乱している。物価の値上がりや、民衆の逃亡である。

貴族の中には旅行と称して自分の封土へと逃げる者もいた。

「やはり、こうなってしまったか」

ブッファローはハゲた頭をつるりとなで、後に付き添う少女に声をかけた。

「そうですね……あなたの予想が当たってしまい、すこし残念です」

少女は弱々しく微笑み、緑の長髪を掻き上げた。

細身であり、まだあどけなさの残る顔をしている、この少女は腰に1本のロングソードを佩いていた。

この日、ブッファローには王宮から呼び出しがかかっていた。

急務と言っても良い。

こんな非常事態でも、いくつかの慣例によって、皇帝との目通りには時間が掛かる。

少しでも早く目通りしたいのであるが、焦りは禁物だった。

やがて、いくつかの取次の後、ブッファローと少女は皇帝の御前へと案内される。

自分たちを取り巻くのは10人ほどの兵士と案内を命じられた役人。

雑談もせずに難しい顔をしている。ブッファローも役人も。

少女は、その理由がわからなかった。

皇帝との会見の場に現れたブッファローはやれやれという顔をした。

少女の方は至って無関心だった。

山がひとつ入るのではないかというほどの大きな石造りの宮廷である。

ここに政治と軍事の責任者たちに近衛兵、雑用が何人もいる。

合計すると1000人は下らないだろう。

たかが、老人1人と少女1人を迎えるには大仰である。

どおん! と大きな腹の底まで響きそうな銅鑼の音が鳴り渡った。

ブッファローの到着を合図するモノであった。

彼は少女と共に紅い絨毯の上を歩いていく。

2人ともまっすぐ前をみていた。

人々を上から見下ろす玉座に居るのは1000年の平和を作った皇帝の末裔。

この時点では、単に『皇帝』と記される。死後に諡をされて、ナントカ皇帝と言われるようになる。

その玉座の下でブッファローと少女は跪いだ。リーザンスの礼法であり、面倒な儀式のひとつである。

「召喚士ブッファローよ、面を上げよ」

声を出したのは皇帝ではない。その側近である。皇帝が下々の者に声をかけるのは滅多にないことなのである。

「は!」

ブッファローは顔を上げる。彼の視力ではそこに誰がいるかわからないほどの距離にいる皇帝を見る。誰が皇帝なのだろう? ふと、思った。

「そなたの研究発表は読ませてもらった。そなたの理論であれば魔姫なる輩を殲滅できるのか?」

甲高い声。これも皇帝の者ではなく側近の一人である。皇帝暗殺を恐れて、こういうルールになっているのだ。

「私めの召還した、この『武姫』ならば、必ずや!」

大きめの声。そうでなければ、玉座の皇帝には聞こえないだろう。彼は傍らの少女を手で示した。

彼女こそがブッファローの生み出した『武姫』なのだ。

ざわっと居並ぶ男たちから声にならないような声や身じろぎが聞こえた。

「ならば、立ち合い、その真偽を確かめたい!」

野太い声がブッファローの左側から聞こえた。

皇帝直属の武官のひとりであることは記憶しているが、誰だったか? 

声の主は大柄で筋骨隆々とした逞しき男だった。

ブッファローは思い出した。この男は近衛兵のひとりで去年の収穫祭で行われた武闘大会で優勝し、褒美を賜った男だ。

名は思い出せないが。

「私と、その『武姫』とを立ち会わせていただければ、答えなど簡単に出ましょう!」

男は右腕を振り上げた後、自分の胸を叩いた。

「やれるか?」

ブッファローは傍らの少女に言った。

「いつでも」

少女はほほ笑んだ。

「陛下も真偽を見たいとの仰せである!」

甲高いさっきと同じ声。

「それでは失礼ながら、御覧いただきます!」

ブッファローは紅いカーペットの上を20歩ほど後退し座り直した。

少女が残される。立ち上がる刹那、少女の左から大男が襲い掛かる。

男が手に持っているのは大剣である。武闘大会の優勝者に与えられた名剣である。

男は手傷を負わせるつもりがなかった。少し、驚かせば満足だった。

そんなことは百も承知している少女はあっさりと躱す。

「甘いですね。どうぞ、私を殺すおつもりで」

横凪ぎの二発目も軽いステップで躱す。抉るかのような鋭い突きも躱される。

「本気できてください。でなければ、私の本当はわかりませんから」

男は大剣を構える。

「いいんだな? 死ぬぞ?」

「はい。私は一向にかまいません」

男は今までにない素早い動きの足さばきを見せ、少女の後ろから首を凪ぎ落すような勢いの剣撃を与えた。

だが、それは弾かれてしまった。

少女が何かしたわけではない。これは武姫に備わる特殊な能力なのである。

武闘大会優勝者の顔に冷汗が流れた。体勢を立て直すと、歯を食いしばり、渾身の突きを放つも少女の胸数寸前のところで止まっている。

それ以上は、どれだけ力を入れても進まないのだ。間合いをはなす。

彼は困惑した。

「では、こちらの番ですね」

少女は腰の剣を抜き放った。と同時に大男の目の前へ移動していた。

「え?」

本来ならば腹を剣で突き裂かれていてもおかしくない。

少女は柄頭で男のアゴを勢いよくぶん殴った。人の中へ無様に吹っ飛ばされる男。男は白目を剥いて動かない。歓声もなく、しんと宮廷内が静まり返った。

「戯れにてございますので、当て身にて」

剣を鞘へ戻し、少女は皇帝に跪き直した。

歴史官は後世に残すべく、この状況を細かく描写した。

「こ、この武道はどういうものなのじゃ!?」

甲高い声が玉座の方から聞こえる。ブッファローが前に出てくる。

「武道にはございませぬ! しかし、武姫は、この武姫、および魔姫でなければ傷つけることは不可能にございます!」

ブッファローの弁に熱がこもる。

「バルッサでの戦いは武姫さえいれば、どうということはありませんでした!」

すべての者が声を飲んだ。

「是非とも、御採用を!」

ブッファローは頭を下げた。この一瞬で決められるわけはないのだが。

「ブッファロー、まずは休憩を……部屋まで案内いたせ」

皇帝の傍に侍る男の一人が静かだが、よく通る声で言った。

「はは! よきご返事を、このブッファロー、お待ちいたしております!」

もう一度、深々と頭を下げると、ブッファローは少女共に御前から退出した。

後は喧々囂々の大会議がはじまるだろう。

やれやれというような顔をしながらブッファローは案内人によって休憩室へと向かった。

休憩室の水を飲み干し、閲覧用の書物に飽きだしたころ、会議の結果が伝わった。ブッファローは休憩室で使者から話を聞いた。会議の結果は実際に武姫が魔器を倒せてから判断するとの話だった。

「やれやれ」

口にしながらブッファローは立ち上がったが、予想の範囲内だった。


準備にいくばくかの日数が掛かったが、魔姫討伐軍は出発した。当然、ブッファローと武姫を連れて。馬に乗れないブッファローは馬車であったが。

武姫というモノが果たして魔姫なるものに対抗できるか? 

それは実戦でなければ証明できまい。故に早急に特別軍が組まれた。大臣の何人かに有力将軍や護衛兵も含む1000はくだらない兵士の集団だった。実質兵力は200というところであろうが……

一行は魔姫の出現情報を得ながら行軍する。

魔姫発見の報告を受けると、即座に移動した。

やはりバルッサの土地、北へ2日の行程で『それ』は発見された。

虚ろな目をした、返り血を浴びたダガーを持つ少女。それが、魔姫であった。

魔姫は無意味にこのバルッサに生息するキツネを殺していた。喰うわけではない、楽しんでいるわけでもない、殺すことが彼女の使命なのだ。

それだけ血まみれになりながらも彼女のダガーの刃は血にも濡れず、刃こぼれ一つしていないようだった。

周りを取り囲んだ集団を魔姫は睨み付けた。すでに、この魔姫に何人もの兵士が殺されていた。槍を突き付け取り囲んだ兵士たちは汗を流し、息を飲んだ。

兵士たちの中から緑の髪の武姫が現れた時、少し、魔姫の表情が変わった。

ようやく、自分の『敵』が現れてくれたのだ。

常に無表情なのだが、口元がすこし吊り上がったのを何人もの人々は見逃さなかった。

魔姫に対して、武姫が1歩、踏み出す。

この2人に言葉は必要ないだろう。

しばらくの間……多くの兵士も大臣も彼女らの足さばき、腕の動きに見入っていた。

長い時間が流れたように感じた。

「シャアアアアアアアアッッッ!!!」 

赤いダガーが緑の髪の少女の懐を目指して低空ジャンプする。当然のことながら、これを見ることができた者はいなかった。彼女、一人を除いて。

旅装束のまま、ブッファローに連れられた緑髪の少女はロングソードを抜いた。

「あなたを斬ります」

赤いダガーとの力量は天地ほども開いていた。

ダガーを弾くまでもなく、そのまま、袈裟懸けに一刀の元切り捨ててしまった。

音も立てず、血しぶきもあげず、赤いダガーの少女は無表情のまま光の粒子になり、天へと消えていった。

今まで、多くの兵士が相手にならなかった魔姫をただの一刀で……

目撃した大臣や将軍たちは目を丸くした。

この緑の髪の少女・武姫は有用な戦士であると多くの者が認めた。認めざるを得なかった。

帰還後、ブッファローは大導師という官位に就き、対魔姫のための武姫造りの師となった。


まあ、今回はプロローグでして、BIGBANからです。

主役となる登場人物たちは次回から登場になります。

短めにしようと思っていますので、記憶の片隅にでも留めてくださると嬉しい限りでございます。


                                       永井伝導郎・拝

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