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禁童録  作者: 雲符
1章 
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楽しみに備えて 後編

ココトウの木の枝の高い位置に住み家を構える鳥魔獣夫婦の間には、つい先日卵が産まれたばかりで慣れない手つきだが一生懸命に卵の世話に明け暮れる日々を過ごしていた。


炎属性というのもあり、卵を孵化させるには太陽の日射しと親鳥の長期に渡る温もりが必要である。

親鳥達は天敵から卵を守るため、24時間夫婦で交代しながら温め続けている。


鳥達の夫婦はココトウの自生する範囲なら、あちらこちらで確認出来ることからある程度数が多い種類のようだ。



母親譲りの美しい毛並みの色は薄水色。その長い髪を風が優しくなびかせていた。


ココトウの木の枝にしゃがんで鳥達の様子を伺っているこの少年の名をキョクビ。

卵をどうやって頂くか考えているのだが良い案が浮かば無いのだ。


「言葉が通じれば…」


と、あり得もしないことを呟く。

例え通じた所で大切な卵を易々と与える訳もない。

今卵を温めている親鳥も一緒に頂く案が浮かんだが、一人親の苦労を身近で感じているキョクビにはその苦労を想像して即刻廃案となった。


卵の数は親鳥の腹下にあり確認出来ないが、この種類は平均的に6つは産む。

4つ以下の卵数なら自然バランスを考えて採取してはならないと、母親のサンミャに教えられている。


卵の数だけでも確認したいと、キョクビは親鳥の近くの枝に向かって、親鳥追跡の際に採ってもおいたココトウの木の実を一つ投げた。

コトン、と音をたて木の枝に当たると落下して親鳥の傍にココトウの木の実が落ちていく。


小さい音ながらも、通常では起こり得ない音に親鳥が反応を示し警戒したのか直ぐさま羽根を広げて辺りを見渡している。


この行動に閃きを見つけたキョクビは再びココトウの木の実を、先程の木の枝の隣の枝に向かって投げた。

再び起こった異常な音に親鳥が更に警戒して羽根をばたつかせる。

コトン、コトン、と繰り返している内に親鳥は敵の襲来と勘違いして巣の周りを飛び立ち辺りを循環し始めたのだ。


そのまま少し離れたココトウの木に向かって木の実を思いっきり投げると、親鳥は音の鳴る方へ向かっていく。

その隙にキョクビは巣の卵を確認へ向かった。


卵は全て合わせて6つあり、4つ以下で無かったと一安心したキョクビは急いで一つの卵を手に持ちその場から離れる。


異常事態は無かったと安心した親鳥は巣に戻り、卵が減っているのにも気づかずに再び卵を温めるのであった。


同じ手を繰り返し巣を回りに回ったキョクビの荷物入れには、鳥魔獣の卵が3つ入っている。

次は、野草と美味しい果実を集めようとその場を後にした。



ガヤガヤ、ザワザワ、人里とは賑やかなものだ。


夕日が沈みかけている時間帯の商店街では数多くの露店が並び、夕飯に備えて食材を買いに来た客、その客と値引き合戦を繰り広げる店側の者、早めに仕事を切り上げて酒屋に向かう者、露店で飲食してる者と様々な人が集まり賑やかさが盛り上げをみせていた。


贈り物を求めて商店街に足を踏み入れた黒髪で少し背の高い男を視界に捉えた者達は、頭を下げ会釈をしていく。


この男、一族の族長である大蛇(オロチ)だ。

キョクビの父にあたり、サンミャの旦那でもあるが表向きは幼なじみのカヨリの旦那である。


いつも傍で護衛がてら秘書であるショーヒの姿は無く、大蛇一人で商店街に赴いた。

いざという時の為にショーヒが見張ってたりするのだが、本人は知らない。


「大蛇さん、リオリくんに贈り物ならこれとかどうですかい?」

「大蛇さん、男の子ならこれでっせぇ!」

「カヨリさんはよくウチを利用してくれるよ」


通りすがりの者や店の店員やらが次々と大蛇に話掛ける。

大人限定で禁忌の存在の記憶はあれど、昔の記憶は薄れるもので更に恐怖となれば忘れてしまうか、忘れてるふりを無意識にしている。

そんな大人達は今の大蛇の姿しか見ていない。


何も知らない子供たちは純粋に族長である大蛇を尊敬の眼差しで近寄るのだが、大蛇の内心は苦しいものがあった。


「コレを貰いますかね」


お勧めされた商品を一通り眺めたがこれといって良い物は無く、違う商品を見渡し目に止まった物を指差す。


「釣り糸ですかい?大蛇さん、釣りが趣味だったとはなぁ!!」


ガハハと豪快に笑う店主に苦笑いを浮かべている大蛇。

大蛇自身は釣りには興味なく、釣り好きなサンミャへと選んだのだ。

釣り糸をいくつか買い露店を眺め歩き回り、商店街を出る頃にはサンミャとキョクビへの土産物で両手にいっぱいの荷物になっていた。


喜んでくれると良いなぁ、と期待が高まり、喜ぶ妻子を想像しては自然と笑みが浮かぶ。


足取り軽やかに大蛇は人里離れた森奥地へと姿を消していった。



商店街の露店でおやつを買い、食べ歩きながら口の中に広がる甘さを堪能している深緑の髪をした少年リオリは家路に向かっていた。


学校から素直に帰宅するのはつまらないと、商店街へ赴きおやつ選びに悩みに悩んでいたら暗くなりかけの時間帯となっていて、一番心奪われたおやつを購入して食べながら帰ることにしたのだ。


蛇の様で蛇でなく手が生えている形した、いわゆる竜の姿をしている饅頭が複数入っている袋を片手にトボトボ歩き続ける。


大きな紙袋が擦れ合う音と、大人の足音の音が近付き目を向けるとそこには父親の姿を捉えた。


自分がいつも見る冷酷な父親像と違い、期待で足取り軽くにこやかで優しい雰囲気を纏う父、大蛇の姿に思わず凝視して歩みを止めるリオリ。


手に持つ大量の荷物を見て、どこかに差し入れるのかと予想するがその相手があの大蛇を180度も変えているのかと興味が湧いて後を付けてみることにしたのだ。

話し掛けた所でまた仕事だ、と自分を拒絶するのが目に見えていたリオリは黙って追跡開始する。


辺りは暗くなり、見慣れない道を進んで行く。






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