表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁童録  作者: 雲符
1章 
5/44

楽しみに備えて 前編

前編と後編の二部編成となります。

ザワザワと校庭で遊ぶ子供達の楽しそうな声が賑やかで、教師達はそんな子供達の姿に微笑んでいたり癒しや元気を貰っていた。

今は昼休みである。


「スイハ先生、また子供達を見てますねぇ

本当に子供が好きなのですねぇ」


語尾を伸ばした少々特徴的な喋り方をする中年女性は教師の一人で主に保健室で病人や怪我人の手当てを施している。

優しそうな顔と喋り方で騙されるが、仮病で保健室を使おうとする輩は断じて許さないのは当然。

仮病を見破る鋭い観察力で保健室に来た仮病の子供はもちろんの事、先生ですら追い返すため少し厳しめな先生で有名である。


「えぇ、好きッスね」


スイハと呼ばれたこの男、肩甲骨辺りまでの少し長めな黄色の髪を三つ編みにしていて、男にしては長めな睫毛は女性教師から羨ましがられてたりする。


ニコニコと笑っている中年女性教師にニカッと笑って返し、再び校庭の子供達を眺め始めたスイハの姿を見て邪魔しまいと中年女性教師はそれ以上話し掛ける事は無かった。 


スイハは休み時間になると必ず校庭で遊ぶ子供達を眺めていた。

話し掛けられれば飄々とした態度で対応するが、会話が終了すると直ぐに校庭へ視線を注視する姿に周りの教師達は皆相当な子供好きと判断している。

特定の子供を監視していることは誰も気付いていない。



短い休み時間の内でどのような遊びをするのかを決めるのは子供達にとっては重要な事である。


今日は何して遊ぼう、と友達と相談しながら校庭へ向かっている複数のグループの一つにキョクビは居た。


「ぼ……俺は何でも良いよ!」


まだ自分を俺と呼ぶのがぎこちないキョクビの姿に、周りの友達は冗談半分で反応する時もあるが慣れてしまったのか突っ込み飽きたのかスルーしている。


いつも何でも良いよと言うキョクビに対して、最初はじゃあ駆けっこ!と周りの友達が決めていたのだが最近はキョクビの意見を欲する様になっていた。


「お前が遊びたい事しよーぜ」


ふてくされた顔でキョクビに意見を求める。


困ったな…と悩むキョクビだが、正直のところ純粋な蛇族の友人と山猫の血が入っているキョクビとでは体力や筋力が違い過ぎていた。

一緒に駆けっこをしても、本気で頑張って走り回る友人に対してキョクビは半分の力も出して無かったりする。

足の早い蛇族の子供と競争して、ようやく半分程度の力を出すくらいだ。

種族の差というものを入学した時から感じていた。

しかし、友人達と遊び共に勉強する時間はとてつもなく楽しいものだ。


「じゃあ……砂遊び…?たまに下級生と遊ぶのも良い勉強な気がするんだ」


新入生なのか一人ぼっちで校庭で砂遊びをしている子が目に入った。

入学の時期から少し経ってはいるが、友達作りが苦手な子はまだ友達が出来ない時期でもある。


優しくて真面目なキョクビの性格を常日頃痛感している友達は、キョクビの視線をたどった先の子を見て意見に合意した。



「お兄ちゃん達ありがとう……」


モジモジと照れてお礼を言う姿から引っ込み思案な性格が見てとれた。


先程、昼休み終了10分前の合図が鳴り、共に砂遊びをしていた下級生の子にそろそろ戻ろうかと話をして別れる所である。

名残惜しそうな下級生の子に母親譲りの優しい笑顔で手を振りそれぞれ教室に戻って行った。



水底をくっきりと認識できる程に美しく透き通る大きな池に、葉からこぼれ落ちる水により池に波紋が広がっていく。


空気を吸えばこの世の全てを清くしたかのように軽く、冷たく、美味しい。

体全体の酸素をここの空気で満たしたいと思ってしまうほどだ。

今度は水の滴る静かな音とは違う音を立てている。

魚の跳ねる音だ。

自然豊かな森奥地を更に行った所に神秘的で美しく大きな池がある。


池に向かって釣り竿を放てば直ぐさま魚が食いつき、釣り上げては逃がすという行為を繰り返す人物が居た。

逃がす魚は決まっており、小さい小魚や卵を持つ魚である。


「……来る…ッ!」


闘志を燃やした黄色のネコ目がやる気に満ちあふれている。

池のヌシとの対決なのだ。


桃の美しい長い髪を後ろに束ね、動きやすく濡れても良いラフな格好をしたサンミャが釣り竿から池に垂らしたした浮きを注視する。


ドクン、ドクン、と煩い心臓の音に緊張からくる汗が額に滴るが構わず無言でその時を待つ。


一度浮きが小さく沈んだが時は今で無い。

二度、三度と小さく沈むが生唾を飲んで耐える。


すると、大きく浮きが沈み池のヌシが餌に食い付いた合図だ。

つかさずサンミャは力を振り絞り引っ張り上げるがヌシも抵抗の力が強く、思った様には引き上げられない。

魔力持ちで攻撃特化魔法を得意としているサンミャだが、釣りでは魔法は使わないと決めている。

彼女にとって釣りとは常に真剣勝負なのだ。


サンミャの体力が持つか、ヌシの体力が持つかの真剣勝負に数時間を要していた。

互いに譲れないものがあるのだ。


池ヌシは魔獣ではあるが大きさはやけに大きい代わりに魔力が無いに等しい程だった。

見かけ倒しである。



初めてこの池を発見し、自分達の食料調達がてら趣味の釣りが達人級までに成長する程に通っているサンミャですら、池ヌシは数回しか現れた事無かった。


池ヌシの好物や行動時間を調べる毎日は楽しいものだったとサンミャは思う。

しかし今日こそ池ヌシを食らう時が満ちたと意気んで来たのである。


「久しぶりに帰ってくる旦那様に食べられなさい…!!!」


久しぶりに帰ってくる旦那である大蛇に食べさせたいという気持ちで、渾身の力で引っ張り上げた。

朝からの長期戦にとうとう体力が朽ちた池ヌシはサンミャによって釣り上げられ、勝負はサンミャの勝利で幕を下ろす。

時間はキョクビが学校から帰ってくる頃合となっていた。



「母上ただいまー!」


父が久しぶりに帰ってくるという事が毎度イベント事になっているこの家族。

ワクワクする気持ちを抑えていても、ソワソワする気持ちが体を自然と走らせていた。


ドアを開けると共に元気いっぱいの声と輝く笑顔でサンミャに帰宅を知らせる。


「お帰りなさい~」


いつもなら優しい微笑みでキョクビの帰宅を喜んでくれるサンミャが、今は疲れ果てた姿で木製の椅子に座っていた。

傍には池ヌシが横たわっている。


慣れない魚の生臭さと母親の疲れ果てた姿という、異常事態の光景にキョクビは戸惑ってしまった。


「母上、大丈夫ですか…?」


見たこと無いサンミャの姿に心配で駆け寄り、顔を覗く。

大丈夫よ、と笑って床に横たわっている巨大な池ヌシを指さした。


「頑張って釣ったらこうなってしまったわ……」


フフッと力無く笑っているが、顔はどこか満足気でやり切ったと頷いた。

池ヌシの大きさから見て凄まじい勝負だったと想像してキョクビは関心していた。


「次は僕が頑張って来ます!」


今度は自分の番と、母親の頑張りに刺激されたキョクビは狩りへと向かっていった。

母上はそれまでは休んでて、と言われ、サンミャはキョクビの言葉に素直に甘えて休息がてら少し眠る事にした。


食材が揃ったら調理という大仕事に備えるためだ。



鳥の卵というものは美味しいものだ。

普通の卵でさえ美味しいのだが、魔獣へと進化した鳥類の卵は更に美味しい。

その分、危険も伴うことでもある。


キョクビの知る鳥類魔獣の卵の中で一番美味しいと思うのは木の実を食べて生息している鳥類だ。

更にその中でも断トツなのは、この森に自生している植物のココトウいう木の実を食して生きている炎属性の鳥魔獣。

種類名は今のキョクビの知恵では判別出来ないが、見た目の特徴や鳴き声で判断している。


ココトウの実を食べた事あるが、人型には向いて無いのかどうにも美味しいとは言えないものだった。


ココトウが自生する場所はサンミャが釣りしていた池よりは自宅に近く、しかし岩場でトゲのある植物がひしめき合う場所である。


日当たりはよく、炎属性の生物が生息するには良い環境だ。

炎属性は主に太陽から貰ったエネルギーを魔力に変えて攻撃する。

光合成に近いものがあるのだ。



ココトウの実を目当てに鳥がやってきた。

しかしこの辺り一面を縄張りとしている鳥による火の粉が、鳥に向かって飛んでくる。


つかさず自身の羽根を激しく羽ばたかせて強風を発生させて火の粉を消火する。この鳥は風属性であった。


炎属性の鳥は怖じ気づく気配も無く、再び火の粉を繰り出す。

同じ手は通じないと風属性の鳥は再び羽根を激しく羽ばたかせて消火にあたる。

しかし、火の粉は消える事も無く風属性の鳥へと直撃した。


風属性の鳥は少々の火傷を負ってしまい、ココトウの実を諦めてどこかに飛び立って行く。


「確か……、火の粉の中にココトウの種を含ませた戦い方だっけ……」


鳥同士の争いを眺めていたキョクビはサンミャから聞いた事を思い出していた。


ココトウの種には炎属性と相性抜群の油があり、炎属魔獣によって付けられた火であれば簡単には消せなくなる性質を持っているのである。


ココトウの木は細く高く、人型には美味しくなければ木の実を食べるのは鳥くらいのものである。 

虫除け効果もあったりするのだが、自生範囲が狭いのと自生環境の問題で虫除け商品にするのは難しかったりする。


ココトウの種に炎が灯されれば簡単には消えないが、燃え尽きた後の種の周りには灰が付き硬い殻は破きやすくなる。

岩場という環境では土からの栄養は摂れず、破きやすくなった殻から発芽して根が土に着くまでの間は灰から栄養を摂って成長するという不思議な育ち方をしているココトウである。


根が土に着けば木として完成できるが、岩場という環境で大体の芽は途中で栄養不足により枯れてしまう。

それがココトウの自生範囲が狭い理由だ。

一度木になれれば樹齢はかなり長いのも特徴である。


「あ、さっきの鳥追い掛けなきゃ」


先程の炎属性の鳥はココトウを食らい生きている目当ての鳥だ。

キョクビは鳥を見失わない様に、ココトウの木に登って木から木へと山猫の脚力を用いて軽々しく飛び移っていく。


鳥は一本のココトウに向かって飛び降りていった。

続けてキョクビも降りて行く。


キョクビの目論見通り、鳥の降りたココトウの木に巣があった。

時期的に産卵したばかりのはず、と観察する。


流石に孵化した雛が居て、孵化寸前までいった卵を採っても割った瞬間雛の形をした何かが出てくるのは予想つく。

更にもう少しで殻の世界から飛び出せた雛を、世界に飛び出す前に命を取ってしまったら罪悪感が凄まじいものだ。


「あ、あった!」


産卵したてホヤホヤとばかりのピカピカに光る卵が鳥の巣にあったのを確認出来る。

しかし先程腹を満たして来た親鳥の片方が卵を温める係の交代をしようと帰ってきたばかりだ。


悩むキョクビに時間の猶予は無い。

大蛇が帰ってくる時間までに夕飯を支度しておきたいものだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ