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禁童録  作者: 雲符
番外編
44/44

かき氷

地を照り付ける太陽の光はギラギラと強く暑い。

暑さに強い蛇族も夏季の日差しには根を上げてしまう程である。



自然豊かな森奥地にある建物の住民にその暑さは届かない。

高く生い茂る木々が適度に太陽光を遮り、森に存在する川や湖といった水辺からの涼しい空気を優しい風が絶え間なく運んでくれているのだ。


「学校への道中の暑さがそろそろ辛いですぅ~…」


建物の住民である禁童の少年キョクビは、同じく建物の住民である母サンミャに弱音を吐く。

お行儀が悪いと分かっていても、ひんやりとした木製のテーブルに顔を付けるキョクビの顔は暑さによって赤く火照っている。


「お疲れ様、キョクビ」


暑さにやられて帰宅した元気の無い愛息子に、サンミャは川で冷やしていた果物を渡す。

渡された果物はキョクビの好物で、疲れ切っていた表情は一転して輝きを放つ。


(中学に上がっても変わらない所もあるのよね)


我が子の成長を目の当たりにする日々で驚くことも多いが、こうして幼い頃から変わらない子供らしい一面にサンミャの心は温かくなる。


「コラ、ちゃんと手を洗いなさい!」


好物を目の前に早速食べようとしたキョクビに注意するサンミャは微笑んでいた。





「ふげぇー…。小学校は森に近かったから涼しかったのに…」


嘆く声の主に冷ややかながらも呆れの表情を浮かべるのは黒髪の少年セキレイ。


「キョクビ。その顔は余りに醜い」


ハッと表情を整えた親友にセキレイは仕方ないなと首を振って自身の顔を滴る汗を拭う。

セキレイ自身も中学入学以来初めての夏季の暑さに参りつつもあるのだ。

学校の建物の位置でこんなにも暑さが違ったのはさすがのセキレイもキョクビも予想外であった。


今は魔力の制御を習得授業の最中で校庭にて実技の時間だ。

既に習得済みのキョクビとセキレイは、この退屈な時間がただただ過ぎるのを待っている。



「はーい、実技終了!各自水分補給を忘れないように!解散!」


実技担当の先生による解散の合図。

汗だくになっている生徒達はやっとの思いで解放されたと教室に戻っていく。


「暑いよー、暑いよー……」

 

水分補給を終えたキョクビとセキレイは短い休憩時間の中でも共に行動している。

暑いを連呼するキョクビによる暗示効果なのか相乗効果なのか。

セキレイが体感する気温も高くなっていく。


「そろそろいい加減にしろよ…」


暑さと続く嘆きに堪忍袋の緒が切れそうなセキレイの鋭い瞳は更に鋭さを増してキョクビを睨む。

一瞬にして冷気を感じて冷や汗を垂らすキョクビはごめんなさい、と小さく呟く。

そして気付いた提案を述べる。


「セキレイを怒らせると周りが冷やされ……ごめんなさい」


これ以上は言わせないとばかりの怒りの圧力にキョクビは口を紡ぐ。

さすがに言ってはいけない言葉だったと反省するキョクビであった。



下校時。普段はセキレイと共に途中まで下校を共にするが、今日は用事があると別々で帰宅している。


ふと木陰で束になって和気あいあいと話す同年代のグループを見つけたキョクビだったが、楽しそうだなぁっと通り過ぎようとした時。

グループの子らが気になる言葉を発していたのを、山猫の血を引く優れた聴覚が拾ってしまう。


「かき氷って言うんだって!」


“かき氷“という初めて聞く言葉。

氷というのは魔力持ちの中でも稀な、物質変化が得意とする者が作り出したのを見たことある。

冬季はあれど雪は降らない熱帯地の自然界で生きるキョクビ達には簡単に拝めない品である氷。

この世界では電気は通っても開発もされていない。人為的に作る氷は魔法だけだ。


他に氷を見る事が出来るのは自然になった物を販売する寒気地に住む者達が、上手く運べた時のみである。


そんな氷を使った何かであろう物をグループの子らが話すのだ。

気になって仕方ないキョクビはつい聞き耳を立てていた。


「あそこの屋台に売ってるって!」


情報を得たキョクビはグループから離れる。


(明日セキレイと行こう!氷って確か冷たいものだよね!)


嬉々と駆け出すキョクビは森奥地の自宅へ向かった。




「母上はかき氷を知ってますか?」


夕飯時、キョクビから問われた質問にサンミャはピシッと固まる。

固まる母にキョクビは驚き心配した面持ちで駆け寄り、母の顔の前で手を振り意識を呼び戻す。

意識の回復したサンミャにキョクビは安堵のため息を吐き出す。


「あら、ごめんなさい…。かき氷は知ってるわよ…。

山猫族の元地は標高高いから雪山からの冒険者とかが結構来てたの。

だから冬季になると氷を持って商売する人が通り道にしてたわね」


唯一の生き残りである母から聞くのは今は無き山猫族の話。

修行の地として訪れていた谷底は蛇族と山猫族の境目にあった位置。

確かに山猫族側の絶壁は蛇族と比べると高かったと記憶を辿る。


「山地だからね、天気が変わりやすいの。

……悪天候の続くとある日に氷の商売人が、寒さが弱点の我々山猫に氷を売った時に……。

冷たいのが駄目でもこれなら大丈夫!ってかき氷という形で売ってたわ…」


身震いを起こすサンミャの顔は青ざめていた。

かき氷は寒さが弱点の山猫族が大丈夫なら、同じ弱点の蛇族も大丈夫なのではないか。

そう疑問を持ったキョクビだが、サンミャのかき氷に対する怯える反応に頭を悩ます。


キョクビは忘れていたが、山猫族に売られていたかき氷は冬季である。

雪の降らないこの熱帯地でも、山地に住む冬季は山猫族にとっては肌寒い季節でもあった。

つまり、寒さが弱点なのに真冬にかき氷食べたという事だ。

下手すると命取りである種族だが、当時の山猫族では珍しい物への好奇心でかき氷を食べるのがブームであった。

後に皆して腹下し祭りをあげたのは言うまでもなく。

それ以来、サンミャにとっては恐怖の食べ物化としたかき氷である。


(これは明日食べて来るって言うの辞めておこう…)


好奇心旺盛な山猫族の血を引くキョクビ。

彼の中でかき氷への好奇心は止められない。




翌日の朝。キョクビの視界にはいつにも増して世界が輝いて見えている。

かき氷への挑戦に心を躍らせているのだ。



おはよう、と挨拶するのはいつもの事。

しかし今日のキョクビは様子が見るからに違っているのをセキレイは怪しんでいる。


ここ最近の暑さへの嘆きは無く、むしろキョクビの周りだけ涼しいかの様な様子なのだ。

こういう時は大体何か企んでいると長年共に歩んできた経験が言う。

そして、大体が面倒な事でもある。


「はぁ……。」


まだ何も言って来ないが親友の様子にセキレイは思わず大きなため息を吐く。

隣に座るキョクビは不思議そうにセキレイへ視線を送る。



中学での席は小学校とは違って自由席だ。

横に細長い机に椅子が複数並ぶ。それらが一つの教室に3つ程。

魔力持ちの数の少なさもあり、学年にクラス分けという物はない。

よって、キョクビとセキレイはいつも隣である。


「セキレイ。具合悪いの?」


心配する言葉にセキレイは何でも無いと返す。

これから起こり得るであろう面倒に備えて無駄な気力は使いたく無いのだ。

面倒が起こると確信してもキョクビに付き合うのはセキレイの本来の優しさである。




放課後。

時間が過ぎるに連れて輝きを増していたキョクビのネコ目は、もうこれ以上ない程に輝きを放っていた。


ついに時は来てしまったとセキレイがげんなりしていると、予想通りにキョクビが挑戦したい物の話題を出す。


「かき氷食べよう…!!」


キラッキラに輝く瞳の眩しさを忘れてセキレイは問う。


「かき氷って何だ?魔獣……では無さそうだが」


邪険そうにジト目で睨むセキレイにキョクビは説明をする。

昨日に聞いた話やサンミャからの情報を隠す事無く語るキョクビ。


キョクビの語る姿は夏季の太陽より輝いていたと後にセキレイは語る。




かき氷の話を聞いたセキレイはキョクビのワクワクした様子も加えて、自身もかき氷へ興味を抱いていた。

今回も面倒な事は起こる可能性がキョクビからのサンミャ談であるにはあるが、周りを観察するとかき氷話題で盛り上がりを見せていたのも確認している。

中には既に食した者も居るが異常は無さそうだ。


「構わん。かき氷とやらがある場まで連れて行け」


セキレイの言葉にキョクビは喜び跳ねる。

魔法実力は悔しくも上を行くキョクビだが、こういう所はまだまだガキだと同い年のセキレイは思う。


初対面時は魔法すら使えなかったキョクビが、事件以来の再会を果たした時には魔法の扱い長けていた。

短期間の成長に凄まじい努力を感じたものだが、同時に悔しくもある。

先に行っていた自分がいつの間にか抜かれていたのだ。

プライドの高いセキレイはそれからも努力を重ね、今は覚醒をしていないキョクビなら同等の実力を誇る程に成長している。

今はキョクビと共に実力を高めあっている。



「着いたけど……並んでるねぇ…」


キョクビが案内した先は屋台。

しかし、長蛇の列を成していた。


「あれだけ噂になっていた。当たり前だろ」


ショボン、と落ち込むキョクビの天然具合にセキレイは鼻で笑う。


「僕が並んでるから、セキレイはあそこの木陰で休んでて良いよ?」


キョクビの案にセキレイは拒否する。

一緒に並ばないとつまらない、と。






氷を削った塊に掛ける様々な木の実の果汁シロップが並ぶ。

キョクビは赤を、セキレイは青を選んでいた。

最初は二人して同じ赤を選んでいたが、キョクビの二つの味を味わいたいという案で違うものを選んだのだ。



「ひゅめたっ…!!……ヴッ……頭が……」


かき氷を先に食べていたキョクビが頭を掛ける痛みに苦しみに悶える。

様子を見ていたセキレイはキョクビの様子に驚き、俯いたキョクビの顔を覗く。


しかし笑顔だった。



「でも美味し~~!」


拍子抜けしたセキレイの視界には、キョクビがかき氷をボリボリ食べる姿を写し出す。

ふと、キョクビがセキレイに視線を向けると食べないの?と様子を伺っている。

セキレイが持つの青いシロップのかき氷も食べたいのだろう。


やらん!とセキレイは意地になりかき氷を大量に頬張る。


意外と美味であったと最初に味覚は伝えたが、頭を掛ける痛みに悶えるのは直ぐ後だった。






暑さに参りつつも楽しみを見つけるのが上手いキョクビと共に行動すると面白い。

新たな発見、新たな選択肢。


お前は凄いな、キョクビ。


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