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禁童録  作者: 雲符
最終章
41/44

最終決戦 前編

最後は二部構成です

進入時と打って変わり建物内は騒然としている。

警戒態勢で進入者の探索に当たる警備員を数名叩きのめしたショーヒは、順調に突き進めて最奥地へたどり着いていた。

いかにもラスボス部屋へ続くよ、とばかりの存在感放つ大きな扉は今まで見てきた普通の扉とは全く違い黄金に輝いている。

馬鹿な思考を持つディラティーノの趣味が丸出しなのだ。

扉の向こう側に居るであろう人物に警戒して、戦闘態勢を整えるショーヒは王手を掛けるその時を待っている。



愛しの旦那との再会に感動は無かったサンミャと大蛇は、大蛇が監禁されていた部屋から出て建物の出入り口へと向かっていた。

勿論、動けない大蛇は妻にお姫様抱っこされているままだ。


「ところで、何故サンミャが助けに…?」


拉致時に気を失い監禁されてから数時間後に目覚めた大蛇は、ショーヒと二人で実行していた筈の作戦にサンミャが加わっている事に疑問を持っていた。

腕の中で大人しくヒロイン化している大蛇の疑問にサンミャは答える。


「ショーヒさんからの援護要請で来ました。

此処にはボス含め幹部が勢揃いしている様でショーヒさん一人では流石に敵わない、との事です」


サンミャからの返答に大蛇は驚きを隠せないでいた。

端からサンミャ狙いだった組織側の作戦に、見事引っ掛かってしまった事を悔やむ。

すまないと呟く大蛇にサンミャは首を横に振り、進めていた足を止めて大蛇を微笑みながら眺める。


「日頃の恩返しが出来て、私は嬉しいのですよ」


放つ言葉に偽りは感じない。

本音を告げているサンミャに大蛇は微笑み返して、感謝の言葉を返す。

微笑み合うサンミャと大蛇は二人っきりの世界に浸っていたがその絵図は少々情けないものだ。


そんな二人っきりの世界から引き戻される声が建物内に響き渡った。



「何だあのガキ!」


悲鳴を上げる男の声と、威嚇を交えた叫びで警戒している男の声だ。

ガキと発せられた言葉にサンミャはもしや、と目を見開き現場へ駆けつける。

サンミャの予想は的中し、大蛇共々二人の視界には薄水色の短髪をした少年の姿を映し出していた。


「「キョクビ!?」」


サンミャと大蛇の声は重なりながら少年へ発せられる。

声に反応した少年キョクビの手は、気絶している大人の男二人の胸ぐらを掴んでいた。

胸ぐらを掴む手を離し男二人を床へ叩きつけ、声の掛けた両親の元へ駆け寄るキョクビ。

お姫様抱っこされている大蛇の存在を確認して、サンミャの任務完了を祝うキョクビは満面の笑顔である。


「キョクビ、覚醒を収めなさい」


サンミャの注意で思い出したかの様に発動させていた能力を収める息子の姿に大蛇度々驚いていた。

発動させていた事を忘れてしまう程に覚醒という能力を自分の物にしているのだ。


習得させたのはサンミャで間違いないだろうと確信するも、覚醒したという知らせを受けてから期間は空いていない。

キョクビの凄まじい努力を感じ取った大蛇は瞳から涙を流していた。


「キョクビ、頑張ったんだな」


泣き出した父の姿に度肝抜かれていたキョクビだが、泣きながらも自分を褒める言葉に瞳を潤す。

腕の中ですすり泣く旦那と、傍で釣られて泣きそうになっている息子の姿を眺めながらもサンミャは冷静に現状を整理している。


キョクビが建物内へ居るという事は外回りの者を処分してきた筈だ。

手助けしたいとサンミャの跡を追ってきたキョクビは、更に手助けしたいと役目を探して此処まだ来たのだろう。

ならば、とサンミャはキョクビへ役割を与える。


「お父さんを外の安全な場所まで運んでくれる?」


完全にお荷物状態の大蛇は無言で表情を沈ませていた。

キョクビは快く役割を貰い受け、サンミャの腕から大蛇を背中で受け取り背負う。

自分よりは遙かに背の高い父だが、予想以上には軽かったと内心驚くキョクビは覚醒の力無しで背負っている。


「母上はどうするのですか?」


後は任せた、とこの場を後にしようとしたサンミャにキョクビは声を掛けた。


「ショーヒさんとボス潰しかしら!」


爽やかながらも満面な笑顔を見せるサンミャに、キョクビと大蛇は苦笑いを返す。


(あ、コレ、相当怒ってるやつだ…)


一族の敵討ちとして組織のボスを叩きのめす、と意気込んでいるサンミャだ。

組織が山猫族絶滅へ追いやったと知らないキョクビは、サンミャの怒りはショーヒに対してのものだと勘違いしているが、恐怖の素晴らしい笑顔に何も言えずに居た。

意図を察している大蛇は止めても無駄だと、同じく何も言わない。


固まる二人に背を向けたサンミャにキョクビが慌てて声を掛ける。


「上手くいくかは分からないですけど、支援魔法を掛けさせて下さい!」 


サンミャは承諾してキョクビの元へ戻った。

大蛇を一旦降ろして両手が自由になったキョクビは手を差し伸べ、その手をサンミャが握る。


「支援魔法! えーと、いけっ!」


技名を叫びたかったのだろう。

しかし、元々名前等無いものに瞬時に名前を付けることを出来ないキョクビは、とりあえず言葉を放ち技を繰り出す。

キョクビの手から放たれた支援魔法はサンミャの元へ流れていく。

放った当人はどの様な効果をもたらす魔法か判断出来てないが、サンミャが目でも確認る程に元気を取り戻した姿を確認しては喜ぶ。


キョクビが放った支援魔法は、対象の疲労を取り除くものだった。

初級魔法だが、初めて行った支援魔法の成功にサンミャも喜びを見せる。

大蛇は魔法も使えるのかと驚きつつ、息子の成長を何も知らなかった自分に悲しくもあった。



疲労を取り除かれ元気を取り戻したサンミャは息子に礼を述べ、爽快に駆け出していった。

キョクビは大蛇を再び背負って外へ向かう。

息子に軽々と背負われ運ばれる大蛇は父としても、何かを失ったようだった。



王手を掛ける時を待っていたショーヒは、時は来たと黄金の扉を開けて室内へ足を踏み入れる。


だだっ広い部屋の中央には玉座。

玉座に座り葉巻を吸っていた男は小柄で太い。

いかにもボスだと存在感を放つ男は、色々と予想を越えてくれた。

余裕を見せるボスに、一瞬油断したショーヒの背後を大柄の男が忍び寄る。


「お前、山猫か?」


いつの間にか現れていたのか、背後から圧迫感と低い声にショーヒは冷や汗を垂らした。

ショーヒの容姿は長い髪をポニーテールにまとめているが、女にしては背が高く体は逞しい。


何故、いかにも男の体をしているショーヒに、目標である女性のサンミャと間違えるのかと怒りを覚える。

第一猫族の外見特徴を持っていない蛇族に、山猫と問うのはおかしいだろう。

ぶつけたい鬱憤を抑えながら、慎重にゆっくりと背後の者を目で確認する。


そこに居たのは蛇族には無い大柄な体をした男で、蛇族でも背の高いショーヒですら首を上げて眺める程に背が高い。

茶の短髪の先には可愛いらしい丸い耳が存在していた。


「俺は男だ。それに蛇だ」


押し潰されそうな圧迫感に負けじと威勢の張った声で男へ答えを放つ。

足はすくむ。本音を言えば目の前の男と戦うのを避けたい。

弱音が脳に行き来するが、王手は目の前だ。

ショーヒは逃げたい気持ちに蓋をして覚悟を決める。


「蛇ぃ~?スイハが捕まえて来た奴なのか。逃げ出したのか」


大袈裟に反応する男に、今まで黙っていたボスが口を出した。


「太一郎、違ぞ。ソイツはその蛇の仲間だぜ」


太一郎と呼ばれた男はボスの言葉を聞けぱ、助けに来たのか~!と大声で笑い飛ばす。

何がおかしいと睨むショーヒに、太一郎は先ほどまでとは一変して瞳に闘志を燃やしている。


「捕まえた奴は逃がさないのが掟だ~!

逃がそうとしているお前は邪魔な虫と同じだな」


虫呼ばわりされたショーヒの堪忍袋は切れ、太一郎との戦闘が始まった。



蛇族同士の戦の裏を勘づいた大蛇と共に、長年組織について調べていたショーヒは幹部の存在を認知している。

確かな数は把握してないが、取り分け目を引く目の前の大男の存在は知っていた。

熊族の男で名を太一郎。

名は先ほど初めて知ったが、容姿特徴から熊族と断定させていたのだ。


馬鹿力を誇る熊族は全体的に男女共に大柄だ。

大柄な体に引き詰まれている莫大な筋肉の重さで体力切れを起こしやすく、長時間の戦闘を苦手としている。

苦手な長期戦闘へ持ち込まれまいと、短期戦闘でケリをつける戦い方を好む。

全てが全てでは無いが、熊族は脳筋が圧倒的に多く武器使用者は少ない。

自身の豪腕な体を武器とする数少ない種族でもある。 


長期戦闘を得意とする蛇族のショーヒは、太一郎との戦闘を長期戦闘へ持ち込もうと企んでいた。








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