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禁童録  作者: 雲符
最終章
37/44

交渉 後編

豪勢な家具が揃う広い部屋に5人の男が視線を一点に集中させていた。

緊迫感溢れる空気を醸し出すのは二人の族長で、残り三人はそれぞれの思惑に浸りながら眺めている。



視線の的である魔鳥は大蛇により鳥を注がれみるみる元気になっていく。

謎の病で弱っていた姿が嘘だったかのように室内を元気に飛び回りがら、可愛いらしい(さえず)りを響かせる。

歓喜の声を挙げた交渉先の族長は喜びで瞳を輝かせていた。


「話は事実だったのか」


喜びで輝かせていた瞳は静かに憤怒の色へと変化していく族長に、大蛇は次に発せられる言葉警戒しながらも口を割る。


「我々一族の最大の秘密です。この特殊さで戦がいくつ生まれてしまうか定かではありません。

騙していた罪、お許しご理解お願い致します。」


膝を床へ着き頭を下げる大蛇に族長は仕方ないと鼻を鳴らす。

相手も族長故にそれなりの秘密は抱えているであろう。

同じ立場の者として大蛇の言い分は分かる、と魔鳥の恩を基に秘密を共有してやるとばかりの思わせぶりな態度を取っていた族長だったが、秘書が耳打ちをすると態度を一変させた。


「学校の件を考えてやる代わりに、その毒をワシの元へ定期的に届けるのが条件だ」


鳥の恩は秘密の共有で解消し、学校の件はまた別の話だと主張を始めたのだ。

強欲な取引に頭を下げていた大蛇も眉を潜めて立ち上がる。

抗議を発言しそうになっていたショーヒに手で制して動きを止め、大蛇が発言していく。


「それは不平等な取引だと思いますが?」


冷静な低い声で放った言葉には怒りが滲んでいる。

反抗的な姿に族長は気に入る筈も無く、大蛇を馬鹿にして鼻で笑う。

大人しくしていると思われていたスイハは目の前で繰り広げられる展開が、腹が捩れる程に面白いようで腹を抱えて無音で笑っている。


「大蛇様、不平等と申しますがね。此方は貴方様が犯した禁忌の罪を、無関係である我が一族の里を罪の巻き添えにする交渉をしているのですよ?

立場を今しばらくお考え直し下さい」


族長が鼻で秘書に言ってやれとばかりの指示を与え、指示を受けた秘書は口を出す。

放たれた言葉は交渉した暁に起こる先方側の犠牲で、大蛇は口篭もっていた。


世界最大の禁忌は出来れば誰もが触れたくないものなのだ。

その日の交渉は保留という形で幕を閉じた。



その夜、里で一泊した大蛇とショーヒは会議を重ねて答えを導き出す。

端から決まっていた答えだが、再確認の意図と別件の話も合わさっていた。


夜が明け、大蛇族の里とは違う日光の強さに大蛇とショーヒは負けじと意気込みながら再び族長室へ訪れている。

昨日とは違い先方の族長が待機して大蛇達を出迎えた。


「交渉は族長同士で行わないか?」


先に言葉を発した族長の意見に大蛇は不振ながらも合意する。

扉の外では、ショーヒとスイハと秘書の三人が監視役として待機した。



昨日と同様に用意されていた飲み物を口へ運ぶ族長は大蛇の言葉を待っているようだ。

大蛇も同じく飲み物の注がれたカップを手にするが口へと運ばずに元に戻す。

カップの中で揺らぐ飲み物を凝視した大蛇だったが、続いて族長側へ視線を移しては自分の元にあるカップの中身を見比べる。


此方に視線をやってはコップの中身を見ている大蛇の行動に族長は不快感を示す。


「気に入らないなら飲まんでよろしい!

失礼に当たる行動と学ばなかったか!」


痺れを切らせた族長が声を荒げ、驚いた大蛇だが何かを言いたげに族長を眺めていた。

伝えたい事を伝えて来ない大蛇の態度に族長は苛立ちを募らせていく。


貧乏ゆすりを始めた族長に大蛇は不確かな予測だが、意を決して告げる。


「飲み物に麻痺効能が高い毒物が仕込まれている可能性があります。

そちらの飲み物にも恐らくは…」


真面目に、慎重に伝えていた大蛇だったが、族長の怒りを本格的に買ってしまった。

顔を真っ赤にして怒り震える族長を見たのは二度目だが、気迫が凄まじく怖いものは怖い。

流石の大蛇も謝罪を繰り返し、何とかその場を納めたが族長の機嫌は最高潮に悪くなってしまっていた。


端から決まっていた交渉の答えは却下だ。

定期的に与えれば段々と量が増えていくのは目に見えている。

秘密の共有と言いながら、秘密を武器に脅しに掛かるのもあり得るだろう。

族長として一族のためにも、キョクビの学校は諦める選択を選んだのだ。


目の前の族長に答えを出せば逆鱗に触れるのは必須で、最悪の場合は脅しに掛かるだろうと思考を巡らせた大蛇は参ったと困り果てていた。


大蛇がキョクビの為を思った行動は度々、面倒事となり返ってくる。

族長という立場上で仕方ないが大蛇の心は辛かった。


「大変申し訳ないですが、取引は却下させていただきます。

学校は諦めるので、我々一族の毒は__」


大蛇の言葉を途中まで聞いていた族長は、予想通り堪忍袋の緒が切れ怒号を飛ばそうとしていたが、背後から何者かに襲われて記憶を失い倒れていく。

瞬時に警戒態勢に入ろうとした大蛇だったが、体が言うことを効かず動けないでいた。


「このオッサンに仕込んだ毒さぁ、全然効いて無いんだけど~」


飄々とした口調で倒れている族長の腹を靴で突くスイハの姿に、大蛇は精一杯の抵抗として睨む。

そんな大蛇の姿を視界に捉えたスイハはケラケラと心底愉快そうに笑いながら近寄る。

本性を現せた笑顔はあの作り笑顔と打って変わって穢れていた。


「やは…り…、し…かし……」


呂律も回ら無くなっていく大蛇の言葉にスイハは仕方ないと首を振り応えていく。


「大蛇チャンさ、昔鍛えられてた影響でサァ~

毒耐性が馬鹿にならないっしょ!

だから、大きな魔獣を討伐する時に~、使う~、蓄積型の麻痺猛毒を椅子に擦り込んでたのッス~!」


完全に大蛇を茶化し馬鹿にして語っているスイハに、大蛇は想定外の位置からの毒注入だった事に驚いていた。


昨夜ショーヒとの会議で例の組織が絡んでいると感付き、狙いが大蛇だろうと予想はしていたのだ。

まず、組織の者と断定していたスイハが絡んでいる件。

次に族長室の窓辺から望む景色は組織の基地がある砂漠が映し出していた。

それだけなら問題は無いと思われるが、ショーヒが気付いたのは砂漠の砂丘が短期間で変わり過ぎていた件である。

大蛇は砂漠に存在する基地自体が動くもので、動いた跡が砂丘の変動を大きくしていたと予想した。


砂漠に存在する大型魔獣の可能性も否定出来ないのが、予想を確信出来ない要素である。

他にも幾つかあるが、最大の要因は族長の可愛いがっていた魔鳥だ。

謎の病で弱っていると告げてきた秘書だが、大蛇は気付いていた。

病の症状が魔鳥に自然感染する病の症状で無い事を。


自然感染した病では、いくら万病に効く大蛇族の毒でも完治に数日は要する。

意図的に毒を仕込れ、病を発症させられた魔鳥は解毒に強い大蛇族の毒で一瞬にして完治するのだ。

意図的に弱らされた魔鳥が死を目前とするまで弱る迄に数日間、大蛇達がこの里に着く頃を見計らって行われた策であろう。



偶然にしてはタイミングが良すぎる数々の策に、手が込んでるなとショーヒは苦笑いを浮かべていた。

大蛇が頭脳明細で毒耐性が遙かに高いのはスイハからの情報なのは確定だ。

数日で大蛇対策を万全に用意していた所を見るとやはり組織が絡んでいると見る。


「名付けて餌のフリして実はお前らが餌でした作成だな!」


組織の作戦に引っかかった振りをして大蛇が捕まる。

ボスは出て来ないにせよ幹部クラスは出てくるだろうと予想して、ショーヒが出てきた幹部を叩いて基地の有りかを吐かせる作戦だ。

内容そのままの作戦名を名付けたショーヒに大蛇は笑っていた。



今の所、本当に敵の毒策に引っかかってしまったが、これから連れて行かれるであろう場所に組織上層部者が現れる事を大蛇は願いながら毒によって意識を失う。


面倒事に巻き込んでいってしまったキョクビとサンミャへのせめてもの償いとして、大蛇は犠牲となった。


「スイハさぁ、このオッサン重たいんだけど運んでよ」


族長を背後から襲った犯人であるのは秘書でもあった朱色の髪をした男、ゲッティは族長を引きずりながらスイハの元へ寄っていく。


「えぇ~~!長年共に仕事してた仲間じゃんよ~、お前が運ぶべきだネッ」


寄ってくるゲッティから逃げるように、高速で気絶した大蛇の手足を縄で縛り上げたスイハは大蛇を抱えてその場を後にする。


「うわ~、相変わらず酷い奴」


諦めたゲッティは族長を背負って同じその場を立ち去る。


「そっちの獲物側の秘書はトイレ行くって言って、それ以来姿が見えないけど」


先に進みながらもゲッティがたどり着くまで待っていたスイハに、追いたゲッティが疑問をぶつけた。


「ああ~、ショーヒくんねぇ。俺もぶっちゃけアイツ嫌いだから興味なかったわぁ~

俺が遠回しに挑発してたから怒ってたけど、まさか怒りで我を忘れてそのまま帰ったとかァ~~~」


そりゃ無いかと冗談半分で会話をしていく二人は、目標達成で浮かれながらも目的地へと獲物を運んで行く。



油断している敵の跡をショーヒが追跡し、場所特定を果たした所にサンミャからの伝書魔鳥が届いた。

運良く舞い降りた救世主にショーヒは思わず助けを求める。


追跡した先で、任務を遂行したスイハとゲッティを迎えに現れた人物がボスを含めた上層部クラス数名だったのだ。

流石のショーヒも勝機は無いと判断していた。


サンミャの元へ届いた伝言に、サンミャは時は来たと気合いを入れる。



「餌はキョクビくんじゃなくて、大蛇だったか…」


作戦変更した事により、敵側の思惑通りに動いてしまったショーヒは悔やみながらも救世主を待っている。


空は茜色を見せていた。
























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