心機一転
照り付ける日光の眩しさで思わず手を瞳の上に置いて光を遮る。
空気からは少しの冷たさを感じるが、それがまた良い。
久しぶりに出た外の景色は輝きを放ち祝福をしているようだ。
世界が眩しく美しいと再確認をするのは何度目だろう、と短髪へと変貌を遂げたキョクビは思う。
カヨリが訪れてから数日の時が進み、キョクビは日常生活が送れる程に心身共に回復していた。
この日、心機一転の証として長かった薄水色の髪をサンミャに散髪してもらったのだ。
「キョクビ、これ着けなさい」
呼ばれる声に反応して母の元へ向かったキョクビは、様々な色をした石をつなぎ合わせた首輪を渡された。
意図の掴めないキョクビが首を傾げて母を眺めればサンミャが説明を始める。
「この石は古より山猫族に伝わる石よ。
覚醒の力が暴走しそうになると強制的に力を抑える効果をもたらすわ」
真剣な面持ちで伝えるサンミャの姿にキョクビは石の重要度を理解してゆっくり頷く。
覚醒についてはキョクビが再び目指めた時に説明されていた。
通常なら大人に近づいく年齢で発動させる能力、山猫族特有現象でサンミャ以外の山猫族が絶滅させられた理由でもあると。
初めて聞かされたサンミャの境遇を含め、覚醒という能力が自身にも起こっていた事実に驚き戸惑いながらも時間を掛けて理解してきたのだ。
「では、行きましょうか」
石の連なる首輪を装着したキョクビは首周りの異物感と予想以上の重さに驚きつつも、サンミャの掛け声に返答する。
ある程度回復したら覚醒の制御を習得する修行を行うとも伝えられていたキョクビは、これから修行が始まると意気込み、先に進むサンミャの後を追っていく。
二度と同じ過ちを繰り返さ無いため、覚醒という大きな力で大切な者を守れるようにするため、キョクビは足を前へと運んでいた。
目の前に広がる岩肌は標高高く前方後方左右にも岩肌景色が続いており、威圧感が襲う。
二人は奈落の底に居た。
サンミャが修行の場として選んだこの崖下は、森奥地の自宅から大分離れた場所に当たる。
後方の崖上に続く森が蛇族の所有する森の終了地点とでもいえるだろう。
前方の崖上にも森が続いており、山猫族が所有していた地でもあった。
蛇族と山猫族は天敵でありながら、奈落を裂け目として隣接地域で住んでいたのだ。
そして、キョクビの両親が出会った場所でもある。
「母上、この地は近づいてはならないと昔に…」
キョクビの言葉に何かを警戒していたサンミャは我に返る。
懐かしのこの地に最近来たばかりのサンミャは思い出に浸ってはいなかった。
キョクビに着けさせた石を採りに山猫族の故郷へ帰って来てはみたが、最後に見た故郷景色は見る影もない光景となっていたのだ。
建物一つ無かった光景に、サンミャは過去の思い出を思い起こす事も出来なかった。
最後の者が覚醒で族の集落もろとも爆破させたのだろう。
「近づいてはならないと言った理由はね、病原体が残っていたら幼いキョクビにも感染する可能性があったからなのよ」
警戒していたのは別の理由だが、キョクビの問いに答え出す。
病原体?と首を傾げる息子にサンミャは頭を撫で微笑んだ。
微笑み隠れた悲しみに気付いたキョクビはそれ以上何も言えなかった。
山猫族のみを蝕んだ病原体で山猫族は絶滅している。
その事をキョクビが知るのはまだ先だ。