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禁童録  作者: 雲符
1章 
3/44

山猫の母

爽やかで心地よい風が木々を抜けていく。

虫の声、鳥の声、風の声、と自然界の音色が森林という舞台で合唱している。

心地よく静かな昼時。


コンコン、と戸を叩く音が森奥地に響く。


「ショーヒです」


茶色の長髪をポニーテールに束ね、紅色の優しそうな瞳の左下には泣きホクロがあり少し色気を感じる。

服装は正装のようで仕事中というのが伝わる。


妻子大好きな大蛇の計らいで、一番信頼するショーヒに二人の様子を定期的に見に行かせ現状報告をさせているのだ。



「はーい」


木造の建物の中から美しく優しい声か返答する。


お待たせしました、と客人を迎えるサンミャの服は泥で少々汚れていた。


「こんにちは、様子を見に来ましたけど……

まだ畑仕事中でした?」


桃色の髪とは違う、頭部のネコ耳は白毛の可愛いらしいネコ耳だ。

小さく下げ照れ笑いを浮かべているサンミャは出来るだけ自給自足をしている。




***


大蛇一族の一部だがサンミャの存在は認知されている。

大蛇とも夫婦関係にあるのもだ。


キョクビが産まれる少し前に大蛇一族と他の蛇族と争いが起きた。

指揮を取っていた大蛇は幼なじみ以外は、交際を極秘にしていた山猫族のサンミャに協力して貰い争いに勝利した。


争いを起こした敵蛇族はサンミャの一等打陣によって全滅した。



″山猫″は唯一異例の独自で進化を遂げた一族である。


同じネコ科でも、野性味溢れるライオンやチーターは筋力や脚力がずば抜けて優れた能力を持った。

しかしずば抜けた能力の反動で体力消耗が激しく短命の種族であった。


普通のネコでは脚力は優れるもずば抜けた脚力や筋力は持たない。

体力消耗も無く子孫が多い種族である。


山猫はその中間に値した。

山という厳しい環境と山猫の性質によるものなのか、独自の進化遂げ山猫は必ず魔力持ちで産まれてくる唯一の種族だった。


それだけで無く、格段に魔力を底上げさせる能力

″覚醒″を持つ種族でもある。


そんな山猫は数カ月前から山猫のみに感染し、死に至らせる謎の病が流行し絶滅へと導いた。


サンミャは、山猫の儀式の犠牲者となり弱って瀕死になった所を通りがかった大蛇が一目惚れして、半ば強制的に大蛇一族特有の万能薬で病を完治させた為唯一の山猫として生き残ったのだ。


女神の如く美しくも残虐なサンミャの覚醒による蛇族絶滅。

大蛇一族は恐怖と勝利への歓喜を入り混じた複雑な心境でサンミャを向かい受け入れた。


禁忌という身内の罪、恐怖だが一族を守るには使える山猫の女。

当時の族長である大蛇の父と側近達と村の住民達はサンミャを迎えるか散々会議に会議を重ねていた姿を、若かりし大蛇やショーヒやカヨリは見ていた。



***


「畑仕事中を手伝いますよ~、つか手伝わないと大蛇が煩いし」


苦笑いを浮かべるショーヒと遠慮しようとしたサンミャの脳内には何故手伝わ無かった!としつこくショーヒに言ってくる大蛇の姿が浮かんだ。


「フフッそれは大変ですね。じゃあ、お願いしますね」


手を口元に当てて可愛いく笑うサンミャの姿には恐怖の影すら浮かばないだろう。



***


サンミャを受け入れたのもつかの間、一つの蛇族絶滅により周辺の蛇族が重要会議に総括された。


この異常事態に無理な言い訳も効くはずも無い。

大蛇は自ら全てを語り、サンミャは処刑、大蛇自身と何かしらの重い処分を受けるという事で話は収まった。


大蛇一族は再度現れる敵への恐怖に怯える日々より、恐ろしくも勝利の女神であるサンミャを秘密兵器として存在を隠蔽。


大蛇自身にも処分を受けているという事で数年は姿を現せぬように、サンミャと供に人里から離れた森奥地へと住まわせたのである。


族長としては大蛇と結ばせてサンミャが大蛇族を裏切れぬ様にと目論んだのだろう。

結果的には二人は5年程だが幸せな家族として過ごしていた。


子を成しても亀裂が走らずに仲良かったのは、サンミャが初の子育てという事と山猫での子育て方法を伝える者が居なかったこと。

大蛇も育て方が分からずに夫婦共同で独自の子育て方法を編み出したこと。

キョクビが蛇族寄りで普通の子供だった。

キョクビの存在は当時夫婦しか知らなかったという事と奇跡が重なり、無事に愛と子が育っているのだ。



***



畑仕事も終わる頃は夕方だった。

涼しい風が吹き通る


「寒いですねぇ」


「寒っ」


猫と蛇、天敵ではあるが弱点が寒さという点は同じである。

同時に呟いた事にサンミャとショーヒは笑った。


カサカサッと草を踏み分けて此方に向かってくる子供の足音がする。

そこに視線をやると薄水色の長髪をした少年が立っていた。


「ショーヒさん!!いらっしゃい!」


目を輝かせてショーヒに走り寄るキョクビ。

お邪魔してるよ、と子供好きなショーヒは嬉しそうに笑い返す。


二人は仲良いのだ。


「そろそろ帰ります」


夕飯一緒に…と寂しそうに俯いたキョクビにショーヒは耳打ちをした。

するとキョクビの顔は今までに無いくらに目を輝かせてぴょんぴょんっと跳ねて喜びを態度で表す辺り、まだまだ子供である。


「またねー!」


「またお待ちしてます、本日もありがとうございました」


深々とお辞儀するサンミャを見てキョクビもお辞儀する。

ショーヒは笑ってお辞儀を返した。


「またね」


手を振り帰る後ろ姿を見送り、家に入る。

キョクビは先ほどショーヒに耳打ちされた事を凄く言いたいのが分かる程にソワソワと落ち着いて無かった。



「今度ね、父上が帰ってこれるそうです!!!!」


言い放った言葉は既に聞いていたが、あまりにも嬉しそうに笑顔で言うキョクビにサンミャも嬉しそうに、キョクビを抱き寄せて喜びを分かち合う。



***


ショーヒの帰りを待つ黒髪の男がいた。

肘を机に置き手を組んで真剣な面持ちで待っている。


「ただいまー……ってお前、顔ヤバイぞ」


帰ってきたショーヒは大蛇の帰りを待つ姿を見て爆笑しながら背中を叩いた。

背中を叩く力が強かったのか、仕事の疲れなのか机に顔を思いっきりぶつけた大蛇。


「あ、わりぃ」


謝ってはいるが、笑いながら口調軽く謝罪の言葉を放つ姿は仲の良い証拠である。

そんなショーヒに痛い顔面を抑えつつ、怒りもぶつけずに報告の催促をする大蛇


「キョクビくん、俺に懐いててさぁ~可愛いよねぇ」


嫉妬と葛藤しながら報告を聞き、家族が元気そうで心底安心し、更に近々会えるという事実に今からソワソワしているのはキョクビと同じである。



サンミャは人里から離れ自給自足している。

蛇には無いネコ耳を隠すのは必須だが、あの恐ろしい魔物を見る目を避けたのもあった。

子供は知らないが蛇族の大人達の記憶には焼け染みている。




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