表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁童録  作者: 雲符
最終章
26/44

雨振る世界

暴力的表現あります。

どんよりと重い雲は分厚く、光を遮る黒雲により世界は薄暗い光景となっている。

いつ雨が降っても可笑しくない天気に人々は備え、生物達も姿を眩ましたり逆に現れたりと様々な反応を示す。


草原だった場所で交戦を繰り広げていた少年達の心も、天候と同調するかのように薄暗く怯えていた。

目の前で禁忌の子供によって繰り広げられた光景に、恐怖と絶望を増加させたのだ。



自我を無くしたキョクビが手に溜めていたどす黒い魔力の塊を雫の様に地へと落とすと、眩しい光を放つと同時に地層が覗く程の深い穴を開ける。


魔力そのものを体外に形作った物を魔塊(まこん)と言うが、魔塊は作り出した者の意図によって色が違う。

魔力持ち同士の戦闘でなら、その色によってどのような攻撃が来るか判断して戦いを繰り広げる。


治癒魔法で出した魔塊は緑系統で色が濃い程に効能が高い。

攻撃魔法は属性により多種色をしているが無属性の黒が最も威力が高く、最も扱いの難しい攻撃色で使い手本人にも魔力以外にも何かしらの代償を必要とする。

ほとんど使い手が居ないに等しい色だ。


魔力は物や当人の肌を伝い攻撃等に用いるが、魔塊のみを体外形作るのは技術も必須で中学すら行っていない子供が成せる技では無い。

自我の無いキョクビの人格は大人が成す技をもこなすが、扱いは雑で誰もが攻撃や行動が予測不可能の危険度となっている。



自身で開けた深い穴を眺めては不気味悪い笑顔のままで動かないキョクビに、恐怖の余りに血迷った少年一人が短刀を構えてキョクビ目掛けて突進した。


グサッ


鈍くも確かに響く音は血のある生肉を刺して出た音で、刺した当人は我に返り自身が行った行動の罪に恐怖してその場に頭を抱えて座り込む。


脇腹を刺されたキョクビは無情で綺麗な笑顔のまま、違和感を覚えた箇所を手で探っていた。


「何カ、した、?」


違和感のある箇所を手で探れば手に付く血を目視し脇腹に多量の出血をしていると確認している筈だ。

が、痛覚が無いのか刺された短刀を乱暴に取り外したキョクビは、突進しては傍に座り込んだ少年に冷たい眼差しで上から声を掛ける。


頭上からの感情の無い声と冷やかだが攻撃的な視線に、座り込む少年は死を覚悟して怯え泣きながらも視線を上へと向けた。


「なニか、した?」


ニッコリと笑っていたその顔は恐怖しかない。

少年はごめんなさいと念仏の様に繰り返し呟き、体も呟き続ける声を何もかも震えるも許しを得たい一心で呟き続ける。


死を悟った者の異常なまでの行動に少年の仲間達は何も言えずにいた。

被害を食らいたくない気持ちで何も行動を起こす気力にもなれず、禁忌の子供という理由で排除という名の遊びの目的はとうに捨て去れられていた。


排除という行動目的は、今や恐怖の存在から生存する方法を探るという目的となっている。


謝り続ける少年にキョクビは問いの答えを得られないと判断しては、つまらないと少年の頭を掴み仲間元へ投げ付けた。

頭部に強い締め付けを感じて呻き声を上げていた少年だが、投げ付けられ仲間の元へと戻った現状を把握出来ずにまだ続く激しい頭痛に苦しみ悶える。


「ぼクと、同じメに、合わセてあげル、はハハッ」


笑う顔は雨による雫で泣いている様に見えるだろう。

恐怖心で動けないでいた少年達の一人の瞳には、キョクビの姿にいつしかの自分達が映し出される。

不気味に笑うキョクビの顔は愉快そうに笑っていた昔の自分達。

泣いて笑っている様に見える顔は、自分達が生み出した化け物の本心で


(助けて)


悲痛の叫びに気付いた一人の少年ティルディは、かつては運動神経も良く性格も良いキョクビに憧れを抱いていた人物である。


憧れは周りに合わせている内に嫉妬へと悪化していた。


「ごめんなさい…」


周り者達の悲鳴で聞こえ無いが、ティルディは過ちを認めて謝罪を呟いた。


キョクビの言葉に今度は命が無いと感じた少年達は、悲鳴を上げながら動けない仲間を引き連れて逃げていく。

仲間を置いて行かない精神はまだ穢れを知らない子供達の仲間力が成す行動だが、今のキョクビにはどうでも良かった。


悲鳴の中から聞こえた心の底からの謝罪の言葉に、微かに心が揺れた事への戸惑いが意識を集中させていたのだ。


戸惑いで動きの無いキョクビに対して、今だとばかりに逃げ走った少年達は金輪際キョクビに関わってはいけないと暗黙の了解を作ったがそれは後の話である。



雨が体を打ち続ける。


自我の無いキョクビの意識は再び標的を捉えようと視線を巡らせた。


「この、地ガ、悪い」


少年達に向けるべき怒りの方向は、かつての草原へと向ける。

心を惹かれ癒やされた土地は、今のキョクビの怒りをまで受け止めようとしていた。



自然は、禁忌の子供を受け入れる。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ