友との世界
朝日に身を晒しては優しい光に包まれ、爽やかな空気には自然と深呼吸をしてしまう。
森奥地の自宅でも恵まれた自然が多い。
草原には無い静寂さと木々の優しさに触れる事が出来る。
草原には木々に遮られて無いからこそ出来る、暖かな日光という毛布と背丈の高めな草花による布団がある。
何より、セキレイという少年と出会える楽しみがあるのだ。
昨日、スイジゴクルの亡骸も持って帰ったキョクビにサンミャは苦笑いを浮かべて向かい入れた。
夕飯になるかな?と笑顔を見せる息子に、まさか畑の肥料となった事は黙っている。
スイジゴクルを食べれば激しい腹痛に襲われ、幻聴や幻を見てしまう。
人型に死は至らせないとはいえ猛毒となるのだ。
まず、この吐き気のする容姿を見て尚食べれそうと思考を巡らせるのは馬鹿か物好きか天然だけである。
キョクビは天然に当たる。
「母上ー!魔力を使った攻撃を教えて下さい~」
一時期、あまりにも不気味で恐怖心すら抱いてしまったキョクビの姿は跡形もなく消え、学校へ行ってないと悟った頃から元気を取り戻している姿にサンミャは安心していた。
元気になったは良いが、何かに影響を受けたのだろうキョクビが昨日から魔力を用いた戦闘方法について頻繁に学びを欲してくるのだ。
「まだ早いわよ~…」
親としては魔力攻撃を使うこと程の危ない目に合わせなく無い気持ちがあり、本音をいえばまだ子供でいて欲しいサンミャは優しく断りを続ける。
男の子は戦闘に対して好奇心旺盛で、子供達同士でも疑似戦闘して遊んでいるものだ。
本能的に将来家族を守る為の技を持ちたいのだろう。
せめて、中学の年齢になるまでは子供のままで居て欲しいとサンミャは内心思っている。
高度な攻撃魔法の使い手である母を持つが、未だに教えて貰えないキョクビは焦っていた。
昨日の同年代であるセキレイが見せた魔力を用いた戦闘に激しい憧れを抱いたのだ。
何度も教えを求めてみたが全敗して撃沈した。
独自で学ぼうにも、やり方すら何も分からなく手が出せない状態にある。
途方に暮れながら、キョクビは今日も草原に向かう。
いつ来ても草原と泉の合併する景色は心身を癒す。
キョクビのお気に入りは草花に寝転がり、太陽という毛布を味わいながら眠る事だ。
寝過ぎて夜寝れない時もしばしばあるが辞められない。
「……やる」
寝入りそうだったキョクビの隣に同じく寝転がるセキレイ。
手に持っていた菓子を差し出して一言告げる。
不意に渡された菓子を受け取りキョクビは起き上がり、菓子の包みを開ければ甘く良い香りが嗅覚を刺激した。
手に取り形を確認すると蛇の形をしたクッキーである。
「ありがとう!!食べて良いかな!?」
おやつといえば木の実である家に育ち菓子を滅多に食すことが出来ないキョクビは、これでもかと表情が喜びに満ち溢れさせていた。
予想以上の喜び具合に照れ隠しなのかそっぽを向くセキレイは、好きにしろと呟く。
サクッサクッと食べる音が響き始めたと思ったら、バリムシャァと一気に食べる音が響き渡る。
驚きでキョクビに視線を戻すセキレイの瞳には、美味しそうで幸せそうに口いっぱいクッキーを入れたのであろうキョクビが口に広がる甘さを堪能している姿を捉えた。
「貴様には学習能力が無いのか」
ゆっくり食べれば良いものをと可笑しそうに笑っているセキレイには、二人が初めて会った時の影が潜める暗い表情の姿は無い。
キョクビもたま、セキレイに異常な程に怯える事は無くなり笑っている事が多くなっている。
ご馳走様と告げるキョクビにセキレイは、昨日の木の実の返しだと告げ返す。
気に入ったのかなと感じたキョクビは、どこになっているのか教えると提案するが興味無さそうにセキレイは断る。
負けないとばかりに違う提案を出していくキョクビであった。
「ところで、セキレイくんは何で本名隠してるの?」
聞いて良いか悩んでいた内容を問いてみたキョクビだが、言いにくい内容である可能性も考え少々申し訳なさそうにしている。
フッ…と鼻で笑うセキレイの姿に、予想以上に重要では無いのかと表情が明るくなり喰い気味に答えを待つ。
しばらく続く無言の間に、キョクビは段々と不安を募らせていく。
反応を楽しんでいるのか、言いにくい内容なのか相変わらず表情を崩さないセキレイはついに呟いた。
「正体を見破られない為だ」
また不思議な言動か、本当に正体を隠しているのか定かでは無いがこれ以上深く探るのを辞めたキョクビは答えを返した事への礼を述べる。
「僕もね、本当は猫供蛇って名前だけど、長いからって皆にキョクビって呼ばれてるよ!」
漢字表記すれば意味が伝わってしまうが、言葉にすると意味が伝わりにくいのを利用して意味を濁して伝える。
意味を悟ったか悟ってないのか定かでは無いが、無言の反応を見せるセキレイ。
おかしいかなと笑っている姿にセキレイは、そうでも無いと呟く。
「そっかー、君は違うのかな」
この一言の呟きにはキョクビの様々な期待と不安が詰まっている。
風が体を優しく撫でる。
空からの天然毛布は暑さを増して汗が滲み出ている。
時刻は昼時となり、太陽が一番元気な頃合いだ。
キョクビとセキレイはその後無言になり、気付いた時には二人して寝ていた。
先に目覚めたキョクビは隣で眠るセキレイを見て慌てて起こす。
「セキレイくん!お昼だよ!!」
寝起きが悪いのか、隠れていない方の目が鋭さを増してキョクビを睨む。
時間を心配して起こすキョクビに対してセキレイは落ち着いた様子で起き上がる。
「……空が赤く染まるその刻まで、下界への解放を許されている俺に貴様は何してくれた」
へ?と間抜けな顔をするキョクビにセキレイは呆れ顔で首を振り、ゆっくりと立ち上がるとキョクビも続いて立ち上がる。
帰宅するのかと見送る気満々でセキレイを眺めるキョクビに言い放つ。
「今日は夕刻まで居ると言ったのだ」
予想外の言葉に意味を理解した頃にはセキレイは泉へ向かって歩き出していた。
「じゃあ!!また魔獣狩りしよーよ!」
後を追い掛けるキョクビの瞳は嬉しさで輝き、先を行くセキレイの瞳には輝きを放っている世界を映し出す。
「足手纏いになるなよ」
歩みを止めて振り返えればキョクビの笑顔が眩しい。
草原や泉の広がる絶景に心奪われて、通っていたら突然キョクビが居た。
今はそんなキョクビと共に行動する世界は色とりどりで、笑顔と同じくらいに眩しいと感じるセキレイだ。